見出し画像

【コラム】害悪?幻覚?~大麻を使用しても幻覚は見ない~

2023年11月下旬現在。

近頃は相変わらず芸能人が大麻を使っただのというほのぼの定期イベントの他に、日大アメフト部の大麻使用や、詳しい事は知りませんが(知りたい)大麻関連の法改正、合成カンナビノイドHHCHのニュース等、大麻トピックがトレンディです。

前提として私は、たとえそれが嘘ばかりのフェイクニュースによるものであっても、大麻が話題に上るのは良い事だと思っています。何故ならそこで興味を持った人の中で一定数は、正しい情報に辿り着き嘘に気付くからです。
その証拠に、報道でも言われている様に、若年層の大麻犯が増えています。報道ではそれを若年層の未熟さを馬鹿にするために発信している様ですが、それはどう考えてもナンセンスです。
若年層は老害よりも英語などのリテラシーが高く、ITスキルも高いためグローバルなデータベースにアクセスでき、並列情報を読み解くスキルも高いです。であれば若者の多くが「大麻取締法は馬鹿げた法律だ」と感じて行動するのは自然な成り行きでしょう。
アメフト部にしても、NFLは選手の大麻使用を公式に認めるとアナウンスしているし、そういった情報から関心を持つのも当然だろう。インスタを開けば憧れの選手がオシャレな雰囲気でさわやかに大麻を使っているし、スポーツ専門誌で健全におすすめの大麻特集とかやっているんですから。
因みにアメリカのスポーツシーンでは、NFLの他にNBAも大麻使用を認めていますし、私が逮捕された2021年にはメジャーリーグも認めようとする動きがあったので、今はもう変わっているんじゃあないでしょうか。アイスホッケーは知りませんが、他にもボクシングやUFC等の格闘技で認められています。また、「大麻が使えないとか有り得ないっしょ」という理由で東京オリンピックを早々と辞退した世界のトップ選手は一人や二人ではありません。

必要なのは教育です(教育というのは学校教育だけの事ではなく、多くのアプローチがあります)。
2018年に大麻を合法化したタイでは、政府が大麻教育HPなどのメディアを作り、名前は忘れてしまいましたが、ポップなマスコットキャラも作ってプロモーションし、国民の関心を高めました。それから4年で業界は成熟し、2022年には、大麻取扱用のアカウントをサインアップした人100万人に大麻苗をプレゼントする政策を実行しました(マイナポイントみたいな感じです)。これはつまり100万株の苗を用意したり、育成をサポートするリソースがあるということです。

私やあなたや多くの人が、酒やタバコあるいはジャガイモなど、大麻と比較して毒性や害悪が極めて高いものを有効利用できているのは、酒やジャガイモに関する教育が充実していて、その使い方を知っているからです。フグやソテツですら合法で食用にしているのだから、社会的な害悪など、その対象自体の性質などよりも知識や文化が決めることだというのは、自明の理でしょう。
そもそも私が対象として論じているのは大麻です。大麻で大騒ぎしているのを見ると、「こいつらは野生のチワワに対処するのにも重火器を使ったりすんのかな」などと思ったりします。

さて、以前は日本語の大麻ニュースで多用されるゲートウェイドラッグ詐欺について書きましたが、近頃の報道で見ていて新たに気になるワードというか傾向が出てきました。

「大麻を使用すると幻覚をみる」というものです。

このことを考える上で重要な視座が二つあります。先ず一つが、大麻は幻覚を引き起こさないということです。これは後から詳しく話します。

もう一つは、重要なのは大麻が幻覚を引き起こすかどうかではなく、それで私やあなたにどんな不利益が生じるのかだろう、ということです。

幻覚を感じている人は、そうでない人(私やあなた)から見ると行動の予測ができず、例えばいきなり暴れたりしそうで恐ろしい気がします。

ところがどうでしょうか。あなたは大麻使用者が幻覚を理由に暴力事件を起こしたといった類の話を聞いたことがありますか?私はありません。大麻使用者は増え続けているにも関わらずです。
一つ目のポイントとも繋がりますが、大麻によって幻覚を感じている人など居ないのだから、そんな話は聞いたことがなくて当然です。

尚、日本には、犯罪者(というか弁護士)が裁判になっていきなり言いだす「大麻精神病」という恥ずかしい裁判用語(医療用語や科学用語ではなく裁判用語です)がありますが、「大麻精神病」についてはWikipediaあたりでも見てもらえればすぐ分かります。面白いので一読を勧めます。

因みに私は、大麻愛好家の中でも比較的多く接種する生活を少なくとも3年は続けていましたが、幻覚を感じたことは一度もありません。

冷静に考えれば、「大麻を使うと幻覚を見る!」と言っているのを聞いたことはあっても、「大麻を使って幻覚を見た」というのを聞いたことは無いはずです。ネットで調べても、幻覚を見るという情報は(特に日本語では)沢山あるのに対して、どの様なメカニズムで幻覚を感じるのか説明する記事や、そうでなくてもそれを裏付けるに足る大規模な研究は皆無である事を確認できるはずです。

それもそのはずで、そもそも「幻覚」が存在するということに、信頼できる科学的エビデンスがありませんし、今後もあらゆる薬物やテクノロジーを駆使した所で、私やあなたに、例えば実際には無いのに「目の前に大麻があっても、それを吸う」という体験を人為的に引き起こすこと(もちろんそれが正確に観測者の意図したものであると客観的に認められなければならない)は不可能だからです。まあ、VRを見せてそれを幻覚だとするのであれば話は変わってきますが、それは後で言う様に「錯覚」と表現する方が適切でしょう。

病理というのは結局の所、医師が患者を効率よく処置するためのマクロ的抽象化・単純化であって、どの病気についてもある程度デジタルな認識である事は避けられないものですが、幻覚についてはとりわけ哲学的で、「現実には存在しない対象を知覚する現象」と定義されています。

まず「知覚」というのが生理学的に再現性を持って解明されてはいません(「光が網膜の細胞の器官に云々」とかいう話ではありません)。
例えばあなたが私を見た時の脳の動きをPETで観察します。その後何らかの方法でその時と全く同じ神経の活性化を再現します。それでもその時のあなたの体験は、最初に私を見た時とは違うものになっています。
どんなインプットに対してその神経が活性化したのかで認知が変わる(その後の出力が変わる)からです。また、「何らかの方法で再現」と言いましたが、厳密にはそれがそもそも不可能というのもあります。
最初に私を見たあなたと、再現時のあなたでは、私を見た経験を踏まえた形に神経ネットワーク(正確にはその他身体の諸状態)が組み変わっている(これを「学習」という)ため、再現しようにもベースが別人と同じだからです。

つまりあなたの主観的な「知覚」という現象は、今の科学のやり方では解明できないのです。

そして、幻覚と似た言葉に「錯覚」があります。VRにしても、トリックアートにしても、マジックにしても、事実とは違った形で物事を認識・解釈してしまうことが錯覚です。ブサイクな人でも愛を告白されると何だか魅力的に見えてしまったり、バスケでフェイントにかかるのも錯覚と言えるでしょう。というか、これらのことを「幻覚」と表現する人はいません。

しかし、私を見たあなたとあなた以外の人とでは、必ず違った知覚になるという事を考えると、「幻覚」と「錯覚」を明確に区別するのは難しいことが分かります。

また次のケースも考えてみて欲しいです。私の居室は西側に窓があるので、これを書いている時期は朝起きると月が見えます。それで満月の日の朝、私は歯磨きをしながら「月がきれいだなあ」と思ったので、その日の昼、私の隣の部屋の受刑者に「今朝は月が大きくて明るくてきれいでしたね」と言ったら、その人は「え、月なんか出てましたか?」と答えました。

この場合、私かその人が幻覚を見ているとも、錯覚しているとも表現されることはありません。
しかし、よく「幻覚を見ている」と表現される統合失調症の人にしても、イケメンの私をブサイクと錯覚するあなたにしても、月を見た私と見なかった人にしても、それぞれ個人的な知覚に対する個人的な認識という意味で違いは無いのです。

「大麻で幻覚は見ない」などと簡単に言いましたが、そもそも「幻覚」というのが言葉遊びに過ぎないこと(乱暴に言えば排他的標準化の一種とも言える)、したがって重要なのは結局大麻の社会的危険性であるというのは分かって頂けたと思います。

大麻に社会的悪性があるというのを裏付ける実績が無いことは既に述べました。また身体に対する毒性が極めて低いことも本編で語りました。ここでは最後に大麻の精神作用について、経験者の立場から述べてみようと思います。

まず次の二つのシチュエーションをイメージして欲しいです。

一つ目は、どう考えても自分に落ち度がある重大な問題について大勢の前で叱られている状況。
二つ目は、全てが計画通り進んでいて何一つ深刻な問題は無く、「おしっこしよ~」と思ってトイレに向かっている状況。
ロケーションは同じ。

この二つの状況というか状態それぞれのあなたは、同じ人物でありながら、知覚から認知から振る舞いまで何もかも違うはずです。

本編を読んで理解ができていれば、二つ目の状態こそあなたの平常であって、一つ目のあなたもいずれは二つ目のあなた寄りの状態に収束するというのは分かると思います。そして大麻はどちらかと言えば二つ目のあなたの状態に導く精神作用があります。

しかしそれでは「大麻を摂取しても何も感じないのでは?」と思いますが、そうではありません。明らかに大麻による「ハイ」な状態や「ブリってる」状態があるのは疑いの余地がありません。

私は大麻に関する知識と自分の経験から、それは次の二つの要素によるものだと考えています。

一つは興奮が収まる速度。それがダウナー(落ち込んでる)な状態にしろ、アッパー(興奮している)な状態にしろ、自然状態でもいずれは平常に調整される訳ですが、大麻でカンナビノイドを外から接種することで、その調整速度が異常な程急激になります。この急激に平常に戻るということに、特に初めて大麻を摂取する人や高ストレス状態が慢性化している人は慣れていません。つまり特殊な体験となります。

もう一つは、大麻が身体に残っている間(2~5時間くらい)は、自然状態よりもストレス耐性が強くなることです。リラックスを促されることで感覚は研ぎ澄まされますが、同時に刺激に対しても冷静に受けとめられる状態なので、自ずとアウトプットも自然状態と変わってきます。

そして大麻の使用に慣れてくると、短期的には一つ目の要素が影をひそめ、長期的には習慣とレスポンスが噛み合って二つ目の要素も無くなってきます。

これが「ハイ」や「ブリってる」の正体だと思います。

この事を裏付ける経験的知識があります。

私は沢山の人の大麻初体験に立ち会ってきましたが、セットとセッティング(精神薬を摂取する心がまえのセットと、安心できる環境のセッティングの事)がしっかりしていることを前提として、女性の方が男性よりも、大麻を摂取することによる衝撃が小さく、ハイな状態と普段のギャップが少ないのです(もちろん個人差が性差よりも優越する)。これは女性の方が男性よりもストレス耐性が高いという事実と相関します。

また、まだステレオタイプの無い、あらゆる刺激に対して柔軟な子供(ある論文では「5歳以下の子供」とされる)は、大麻を摂取しても何も感じないという研究もある。
この事は、ストレスをあまり感じずに生きている人の方が、そうでない人よりも大麻初体験によるインパクトが小さいところを目の当たりにしてきたことから、私も経験的に支持している。

しかしてこの、「大麻喫んで普段よりもより一層平常でストレス耐性の強い私」を幻覚を見てる危険な異常者とするべきなのか。私にはそうは思えない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?