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メディア/イアソン感想

メディア/イアソン
2024年3月23日、29日
世田谷パブリックシアター
4月4日
兵庫県立芸術文化センター中ホール

https://setagaya-pt.jp/stage/2164/

 ギリシャ悲劇「メディア」を元に、メディアとイアソンの出会いから、最後の悲劇までを描いた物語。「アルゴナウティカ アルゴ船物語」よりイアソンの冒険譚にはじまり、メディアとの恋やアイエテスからの試練も子細に組み込まれていた。 2時間の演目とは思えない密度で、ふたりの半生が描かれている。
 復讐劇であり、家族を殺す、特に子殺しがメインとなっていて、人間の悪感情があらわになるシーンが多くて、後味の悪い物語でした。
 創作上の悪い人間、弱い人間が大好きで、後味の悪い物語も大好きなので、大好きです。

 ふたりの子供たちが語り部となり、父と母の物語をひもといていく演出は面白かった。初見では誰かわからなかったけど、振り返ってみてふたりの子供たちが自分を殺した親の物語を語るというのは、とても残酷で悪趣味な視点だなと感じました。とても好みです。
 2024年2月にテニミュサードで三浦さんにはまってしまったので、三浦さんをひとめ見たいな、という軽い気持ちで見に行った演劇でしたが、最終的には3回も観劇してしまうほど面白くて、魅力的な作品でした。
 森新太郎さんの演出はパンフレットにあった通り、光と影の織りなす光景が美しくて、極限までそぎ落としたスタイリッシュな舞台と相まって、影絵のようにきれいでした。衣装も主役のふたりは白、他複数役を演じる3人は黒のワンピースで一見すると黒子にも見える。役の切り替えは衣装や小道具に頼るのではなく、声、動き、雰囲気、にかかっており、役者自身の演技力が丸裸にされる感じでした。お三方ともとても上手で、特に冒頭で、水野さんが子供役から叔父役に切り替わるときはハッとさせられました。

 音楽も好みでした。4幕のメディアの独白時からずっと流れ続ける不快な通奏低音がとてもよかたし、部屋にこもるメディアが登場する直前のカラスの鳴き声や、船上に現れたアプシュルトスの最期の台詞のあとの不穏な波音、人を不安にさせる音の使い方がとてもよかったです。

 個々の役者さんの所感

 井上芳雄さん
 声がひとりだけハイレゾ。
 声が本当に本当にきれいで迫力がありよく通って滑舌がよくて説得力があって、世界の端まで届くんじゃないかと思いました。人間の声は口から出るのではなく、体中から響くんだなと。
 金羊毛を手に入れた瞬間の、イアソンの利己的で浅はかな人間性の出たような笑い方がとてもよかったです。この演目で初めて井上さんの演技を見たので、プリンスな井上さんもちゃんとみてみたいです。

南沢奈央さん
 4幕冒頭のメディアの嘆きがとても好きでした。人ならざる者のようなうめき声。椅子に座り、片腕をあげた姿勢がまるで屍肉を目の前にお預けを食らうハイエナのよう。目を爛々とさせて恨み辛みを吐き出す姿が恐ろしくて、美しかったです。
 子殺しを戸惑いながらも、己を馬鹿にした人間をそのままにできるはずもないと、己のプライドのためにかわいい子供たちに手をかける決意をするシーンもとてもよかった。子供たちを殺すためにゆっくりと歩き、幕が降りるシーンは背筋が凍った。好きです。

加茂智里さん
 アイエテス王が本当に底意地の悪いおじいさんにしか見えなくて、20代の女性が演じられているとは思えなかった。威厳があり、老獪な王であるのに、「かわいいかわいいアプシュルトス」と呼びかけるときだけ親馬鹿で寂しい老人の顔をのぞかせるのがとてもよかったです。
 アプシュルトスの亡骸を集めるところ、アイエテスのうめき声が怒りよりも悲しみの方が勝っていそうなところも好きです。加茂さんの解釈なのかな?と思いました。
 最後、今までストーリーテラーとしては話すことのなかった双子の姉が初めて口を開くシーンは、パンフレットにも「気持ち悪いタイミングで話し始めたい」とあったように、ここで?というタイミングで驚きました。初見時はもう終幕だな、と気を抜いた瞬間に話し始めたので、体がこわばりました。

水野貴以さん
 変幻自在の役者さん。冒頭で子供から叔父に切り替わるところで、本当に演者が変わったのかと思った。愛らしい容姿にかわいい歌声、なのに男性役をやると本当に男の人に見えました。
 子供の役で、末の妹を演じられているときに、双子の弟である三浦さんに甘えている姿がとても愛らしくて、好きでした。次の世では幸せになってほしい。

三浦宏規さん
 すべてにおいて想像を超えてきてとても驚きました。
 歌とダンスのイメージしかなかったのでストプレいけるの? と若干心配していたのですが、完全に杞憂でした。すみませんでした。ありがとうございました。
 ストリーテラーとしての双子の弟、優しさと哀しみの入り交じった表情が切なくて、末の妹に語りかけるあたたかな声がとても好きです。
 ヘラクレス。神話の英雄。豪傑であり、イアソンを導く者。年上の井上芳雄さんに負けずとも劣らない勢いのある演技でした。
 アプシュルトス。
 かわいいかわいいアプシュルトス……。
 本当に、かわいかったです。
 178センチの長身なのに、加茂さん演じるアイエテス王に対して上目遣いで見つめたり、膝の上に収まったり、視界がゆがんだのかと思いました。本当にかわいいかわいい、小さな男の子でした。
 キャー、うふふ、エヘ、みたいな鳴き声を発するのもかわいすぎて…かわいかったです。
「ねえさま、海をわたってみたっかたんだ」
と最期の言葉を残してバラバラにされるところで、冷たく澄んだカタルシスがあふれました。
 使いの者。渾身の長台詞は、若い花嫁と父親の無残な死に様を鮮明に思い起こさせる語り口で、おもわず引き込まれる演技でした。緩急の付け方も、声の強弱も心地よくて、ずっと聞いていたかったです。

 三浦さん目当てで見に行った「メディア/イアソン」でしたが、ストーリー、演出、演者さん、すべてがよくて最高でした。映像にも音声にも残らないのが本当に本当に残念です。再演されることを願っています。

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