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イニシエーション·ラブ    恋愛小説、と思いきや、ラスト二行でミステリー

 イニシエーションとは通過儀礼のこと。大人になる為に必要な恋の話、と思いきや、ラスト二行で物語はひっくり返る。もう一度読み直して、確認せずにはいられない。

 イニシエーション・ラブは第58回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門候補作、2005年版の本格ミステリ・ベスト10で第6位にランクイン。2014年3月3日には『しゃべくり007』で、くりぃむしちゅーの有田哲平が「最高傑作のミステリー」とコメントしたことで増刷、2015年には映画にもなった超話題作。
 80年代のバブル真っ盛りの静岡と東京を物語にしており、その当時でしかあり得なかった華やかな交際や、テレホンカードの残度数を気にしたり、公衆電話を探す描写などが活き活きと描かれる。それだけでも読んでいて興味深く楽しい。

が、最後二行でひっくり返る。

以下、盛大にネタバレ。

これから読む予定のある方はご遠慮ください🙏



 side:A(前半)では大学生4年生の主人公が、小柄でスレンダーな少女のような歯科衛生士の女性マユと出会い、恋に落ちていく。初めての恋人に浮かれ華やぐ2人が描かれる。

 side:Bでは主人公は社会人となり就職し、静岡から都内に移り住む。彼女のマユとは遠距離恋愛になるが、主人公は毎週末、長距離を運転し彼女に会いにゆく。しかし慣れない都会の生活と仕事の疲労から突発性難聴になる。さらに予期せぬマユの妊娠に動揺し狼狽えるなか、有能で非常に美しい同期の女性からのアプローチをうけ、主人公の気持ちは揺れに揺れる。
 同期の女性は主人公とマユの恋を、大人になる為に必要な通過儀礼のような恋、『絶対』など無いことを教えてくれるものなのだと語る。次第に心はマユから同期の女性へと移り変わってゆく。
 そしてついに同期の女性との浮気がマユにバレ、主人公はマユは別れ、同期の女性と正式に付き合うことになる。だが絶対などないことを知った主人公は、同期の女性との恋にも絶対がないことを悟る。


 しかし、実際には違うのである……。

 side:Bはside:Aの1年後の話ではなく、同時に起こっている。つまりは、この物語はマユに二股を掛けられた二人の『たっくん』の視線で描かれた物語なのである。

 しかもマユの妊娠について、sideBのたっくんは身に覚えがない、『それ本当に、俺の子か』、と考えるもマユの浮気を疑うことは無く、自分が父親だと信じ、断腸の思いでマユに堕ろそうという。
 sideAのたっくんは時期が合わない。
 なので、物語には出てこないが3人目の相手がいる可能性がある。さらにsideAのたっくんとの会話で、それまで金曜日の夜に会っていたのに、木曜日の夜にしてくれ、と言う不自然な箇所が見受けられる。他にも相手がいるのではないかと思ってしまう。
 おそらくsideBの『たっくん』、との逢瀬が1週間毎の土日から、2週間に1回に減ったので、次を補充したのではないか。ホラーではないが、ちょっと怖い。帯の通りの仰天作でした。
 




 

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