「ソレ、ワッショイ、ワッショイ」 神輿がかけ声とともに境内を出ていくのを見送ると、井川はようやくホッとした。 今秋復活させた龍神神社の祭礼もどうやら滞りなく進んでいる。 社殿が火災に遭い、以後半世紀ほども行われなかった祭だから、復活となると何かと手間もかかる。祭の実行委員長でもある村長の井川はこの3ヶ月というもの準備に忙殺されていた。 「ごくろうさん」 社殿の横、本部のテントの椅子にやれやれと腰をおろすと、宮司の斉田がねぎらってくれた。 龍神神社はふだんは無人で、と
ドーンと目の前で巨大な肉体が鈍い音をたててぶつかり合った。 衝撃に汗が飛びちり、細かな霧となって吊り天井の上のライトにキラキラ光る。 「な、すごい迫力だろ、相撲ってのは格闘技なんだ」 興奮したタケオが耳元でつばを飛ばす。国技館の秋場所、十両の取り組みが終わり、幕内の対戦がはじまっていた。 場内は鍛え上げられた身体から立ちのぼる湯気のようなオーラと鬢づけ油の混じった匂いでむせかえるようだった。1時間もいると、ビールのせいだけではなく酔っ払った気分になってくる。 「錦