シノハラチカコ

2000字前後の掌小説を発表していきたいと思っています。 指先から広い世界へ飛び立った…

シノハラチカコ

2000字前後の掌小説を発表していきたいと思っています。 指先から広い世界へ飛び立った言葉たちを、あなたの温かい手でキャッチしてください。 月に1作ほどの発信になります。ネコと縄文土器、阪神タイガースがわたしの元気の素です。

最近の記事

掌編小説 神サマの好物

「ソレ、ワッショイ、ワッショイ」  神輿がかけ声とともに境内を出ていくのを見送ると、井川はようやくホッとした。  今秋復活させた龍神神社の祭礼もどうやら滞りなく進んでいる。  社殿が火災に遭い、以後半世紀ほども行われなかった祭だから、復活となると何かと手間もかかる。祭の実行委員長でもある村長の井川はこの3ヶ月というもの準備に忙殺されていた。 「ごくろうさん」  社殿の横、本部のテントの椅子にやれやれと腰をおろすと、宮司の斉田がねぎらってくれた。  龍神神社はふだんは無人で、と

    • 掌編小説 強敵

       ドーンと目の前で巨大な肉体が鈍い音をたててぶつかり合った。  衝撃に汗が飛びちり、細かな霧となって吊り天井の上のライトにキラキラ光る。  「な、すごい迫力だろ、相撲ってのは格闘技なんだ」  興奮したタケオが耳元でつばを飛ばす。国技館の秋場所、十両の取り組みが終わり、幕内の対戦がはじまっていた。  場内は鍛え上げられた身体から立ちのぼる湯気のようなオーラと鬢づけ油の混じった匂いでむせかえるようだった。1時間もいると、ビールのせいだけではなく酔っ払った気分になってくる。  「錦

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