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VTZの怖い思い出

オートバイの免許を取って最初に買ったのは中古のVTZだった。
本当にオートバイの知識がなくて、ただメーターが教習車のVFRに似ているからと言うだけの理由だったのは恥ずかしい話だけれど、VTZ自体は良いバイクだと褒めてもらうことが多かった。

この頃はオートバイで旅だなんて考えはなくてツーリングに行った記憶もない。
鮮明に覚えているのは、薄いウインドブレーカーで高速に乗ったらバタつきがすごくて驚いたことと、“峠道”によく行ったことだ。

家から30分ぐらいの、貯水池の裏から上がる“峠”だと思って走っていたところは実はただの舗装林道で、尾根を繋いでいるので景色が開けて気持ちがいいところもあるけれど、ところどころ崖が崩れていたりガードレールがなかったりした油断できない道だった。それでも“峠”を走っている気でいて、時間を見つけてはVTZを引っ張り出して走りに行っていた。

そんなある日、例によって貯水池から駆け上がり、途中の茶屋を過ぎて休日しかやっていない売店でトイレを済ませ、未舗装のいつもの駐車場でUターンをした時に不覚を取った。足をついた時に滑って思わずブレーキをガツンと握りそのままゴロリ。握りゴケをカマした。

初めてやらかした立ち転けに凹みながら、なんとか車体を起こしてVTZを確認。タンクやウインカーは幸い大きな傷はなく、曲がったミラーの背面とマフラーに傷少々。後はブレーキレバーが少し曲がった程度。
やれやれと凹み気分でセルを回すがエンジンがかからない。とにかくエンジンをかけなきゃと舗装道路に押し出してからへとへとになりながら押しがけをしてなんとかエンジンが掛かった。

一安心し、さあ家へ帰ろうとVTZに跨ったが、どうもブレーキレバーが気になる。
“少しひねればもとに戻る”と思ったのが間違いだった。逆側へねじったところでポロリ。なんとブレーキレバーが根本から折れてしまった。

虚しく手元にのこったレバーを見て途方に暮れた。もう夕方。そろそろ暗くなるがこんな峠道に街灯はない。ブレーキは握れないけど家に帰るしかない。
それからはゆっくりゆっくりと“峠道“を戻った。ブレーキはリアブレーキだけ。うっかり右のレバーを握りそうになるが当然ない。
スピードにビビってガツンとブレーキ踏むと後輪がロックしてズビっと滑った。冷や汗。
下りは1速まで使ってなんとか山を降りて慎重に慎重に運転して家にたどり着いた。その時はどれぐらいの距離だったかはわからなかったが、今調べたら約40kmあった。

その恐怖体験のおかげで、それからは予備レバーは必ず持ち歩いた。いつもカバンの中でカチカチ音がしていたので、周りからは常に工具一式持ち歩いている便利なやつだと思われていたらしい。

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