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秋の書棚(甘い香りの苦いコーヒー)


頃合いとしては未だ夏の昼間に、今年初めての涼しげな透き通った風が吹く日
本屋の文庫本コーナーは、早めの秋の本が並び始める。
そこには趣のある物語りが綴られた本がちらほらと並べられていて、装丁も読書へと誘う魅力に溢れている。

この時期の本屋は(私にとって)ことさら魅力的だ。

幅広く本を読む訳では無い私が愛してやまない限られた作家の本が文庫化するのも、何故か秋が多い。

日頃余り遠出をしたくない性質故に、駅中にあるチェーン店のブックストアを訪れる事が多い事もあり、新刊の単行本を購入する事は少ない。

けれども、文庫本はスペースを取らない事もあって、結構な確率で、その書店には単行本で入らない本が文庫本のコーナー、それも平積みに現れたりする。

其々の季節の文庫本コーナーには魅力があるが、私の様な者にとっての秋の文庫本コーナーは
思わずわくわくが止まらず、脈拍が上がり、更に素晴らしい事には『あ、この作家さんこういう本出してたのか、あ、これが文庫化してる、え?これはとても魅力的。こんなに読みたい本の中のどれを今日は買おうか?』と、何度もぐるぐると本を見て回れるという贅沢な時間が発生する。

そうして
私の元に来てくれた文庫本の一冊。
題名の魅力も、表紙の絵画も、まさにこの作家の文庫本としてふさわしく美しい一冊だろう。

美しい不安定な、回るバレリーナ人形の様な小説を紡ぐこの作家、私は愛して止まない。
そして秋の夜に、時には、秋の夜明けに読みたい一冊。

窓を開けて
少し寒さを含んだ風を素肌に感じながら
物語の世界へ潜って行きたいと思う。


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