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リング【Part.4】

白のイベントへの参加

夕食の時間も私たちの間は重い空気に包まれていた。
零さんが確認したところ、謎モンスターは堕天使だったみたい。
幽霊ちおという謎人物のことも気になるけど…
「二人に確認した。俺以外で参加しろだとよ。どうする?」
「「…」」私と霧崎さんは沈黙する。
ちなみに、二人とは理事長(お父さん)と社長(お母さん)のこと。
「うち、行きたい!」
「ええっ?」
「だってさ、うちらがやらなかったら、誰がやるの?誰もいないじゃん。
うちらがやるしかないんだよ!それにさ、このメンバーはさ、うち的にだけどリングをクリアするために生まれてきた気がするんだよね。もう偶然とは思えないんだよ、こんないい仲間ができたんだから」
雷射の言葉にはジーンと響くものがあった。雷射が私の方を振り向く。
「八高さん、どうする?できたら一緒にやりたいんやけど。考えといて」
雷射はそういうと部室を出て行った。
もう6時30分だし、家に帰るんだと思う。
「ああっ!」
「どうしたの?踊さん?」
「管理者チオからメールです」

【FROM:管理者チオ】
【TO:八高踊】
お願いします!イベントに参加してください!怖いと思います。
でも、これに参加していけばリング攻略の道が見えてくるはずです!
八高さん、俺も微力ながらフォローします。無茶ですいません。END

「参加する価値はあるかもな」リング攻略の道が見えてくる、か…
「ねえ、幽霊ちおとこの管理者、名前が同じじゃない?」
あ、確かに。何か関係があるのかな?
雷射が言っていた通り、もう偶然とは思えない。
「あの!零さん!私、やります」
「ええっ?踊さん?でも、命の危険もあるはずだし…僕も行くよ!」
「霧崎は話をよく聞くっす。もう一人参加は決まってるっす。
しかもランキング3位っす。それとも堕天使ともう一回戦うんすか?」
あれ?雷射が行くことはもう決まってるっぽい?小4だけど大丈夫かな。
「わわ!夜一!いつからそこにいたんだよ?」
「話を逸らさないっす。命に関わるっすよ。霧崎の恋の話じゃないっす」
「恋の話ってなんだよ!そうじゃなくて、代わりに僕が…」
霧崎さん…心配してくれるのは素直に嬉しい。
でも、私だって気になる。もう偶然とは思えないんだ。
リングに参加したこと、みんなに会えたこと、堕天使と戦ったこと。
「相手は踊を指名してきたんだ。あいつ運動神経良さそうだし大丈夫だろ」
ギクっ!確かに私は運動苦手で勉強しか取り柄ないけど!
「それに雷射がイベント参加券のうち1枚持ってるっすよ」
確かにそうだ。1人で参加するより2人で参加する方がいいに決まってる。
「霧崎さん!私頑張るので!」
「じゃあ仕方ないね!応援するよ!」
霧崎さんののほほんとした笑顔に私も思わず微笑む。
「早速メールを送ったらどうっすか?」
「はい!」
「いや、メール送らないでいいから。てか気づかないの?新種のギャグ?」
え。この声はもしかして!
やっぱり!雷射だ!
「帰ったんじゃなかったの?」
「八高さんならすぐ答え出すでしょ?」
うっ。自信がすごい。
「いつ参加するの?私はいつでもいいよ」
「え?でも学校があるんじゃないっすか?」
「大丈夫。えーっと小鳥遊夜一さんだっけ?ランキング5位の。
うちのクラス、学級閉鎖なんだ。風邪が流行しててね」
あ。そうなんだ。リングのせいっていうわけではないんだね。
それにしても雷射、ランキング上位は覚えてるみたい。すごいなぁ。
「じゃあ、明日の正午、参加。これでいいか?」
「「「「はい!」」」」

まさかのトラブル?

私は精一杯の時間を使ってレベルを132まで上げた。
レベルは上げておいても損はないからね!
そして、いよいよイベント参加当日。
雷射が私の席に近寄ってきた。なぜか顔を歪めている。
「ごめん。八高さん。うち、参加できなさそう」
「え?どうして?」
「足挫いちゃったっぽい。意識だけだったらいけるど、ゲーム内に召喚とかだったら無理じゃん?参加の仕方わからないからさ。だから無理だと思う」
確かに参加方法がわからないんだよね。
じゃあ雷射が参加するのは避けたほうがいいかも。
「零さんには?」
「もう報告したよ。あーぁ。残念だな。ま、見守っといてあげるから!」
雷射は足を投げ出してどかっと椅子に座る。そこに零さんが近づいてきた。
「踊。もう一人の参加者は霧崎だ。ここで3番目にレベルが高いからな。
夜一は俺が会社と連絡をとっている間見守るよう言ってある。
俺は参加できない。上の圧力の関係でな」
あ、霧崎さんがパートナーなんだ。ちょっとホッとする。
夜一さんはからかいばっかだけど、霧崎さんなら私を引っ張ってくれそう。
それにしても、零さんにも上からの圧力とかあるんだ。
「踊さん?大丈夫そう?もうそろそろ出発だけど」
「あ、はい」
ついつい考え事しちゃうのが私の悪い癖なんだよね。
私と霧崎さんは部室の椅子に座る。他のみんなも集まっているみたい。
イベント参加券に名前を入れるとリングからメールが届いた。
【裏側のロックを外しました。内部の白いイヤホンを装着してください】
私たちは指示通り、イヤホンを取り出し、装着する。
【それでは、イベントを開始します】
ザザッと小さなノイズが聞こえてくる。バイオリンのような音。
でもなんだか嫌な感じがする。引っ掻くような…ってあれ?私…
だんだん意識が消えてくる。
「踊!霧崎!」
「八高さん!霧崎さん!」
「踊ちゃん!雷射さん!」
「二人ともどうしたっすか!」
みんなの声が途切れ途切れに聞こえ、私は気を失った。
「リングって…なんなんだ…」
最後に聞こえた言葉はそれだった。

「あれ?ここは、どこ?」
「どうやら意識ごとゲームの世界に飛ばされるみたいだね」
リングは手に持ったまま。
「踊さん。僕についてきて」
「はい!あ、装備で戦えるみたいですよ」
「あ、本当だ。やってみるね」
霧崎さんがリングの画面を少しいじると装備姿に!
よーしっ、私もやってみよう!
私は早速装備を保つボタンをクリックした。
あれ?リングの画面が2分割されている。
一つは私、もう一つには霧崎さんの名前が表示されている。
「名前が表示されてるみたいだね」なるほど。
画面には体力など通常のリングと同じことが示されている。
受けたダメージとかが表示されるのかな。
ずっと気になっていたんだけどリングはある小説のゲームに似ているんだ。イベントっていうところも同じ。何か関係があるのかな?
ってなんだか私、装備がちょっと変わってる?
ワンピース型のローブなはずなのにズボンになっている。
もしかして走りやすいようにっていう配慮なのかな。
リングもこういうところはおせっかいだよね、いや親切というのかな。
他は意地悪なのに。
「踊さん、どうする?」
「どうしましょう。ところで、この部屋不思議だと思いませんか」
この部屋、ドアも何もない。白一色でなんだか気味が悪いんだよね。
「確かに…」
『ふふ。準備が整いましたか』
突然天井のスピーカーから帝の声が聞こえてきた。
「「帝!」」
『白のイベントにようこそ。もっと苦戦されるかと思ったんですがね。
さて、ルールをですがこのフロアのどこかにある水晶を探してください』
あれ?意外と簡単じゃない?
『簡単と思われましたか?ここにはトラップがいっぱいあります。
頑張ってくださいね。あ、途中で敵もおりますので。
強い敵もいるので逃げるのをお勧めいたしますよ』
敵?トラップ?やっぱりリングは侮れない。
逃げるのが得策、か…なんか引っ掛かるんだけど…よく分からない。
よーし。帝は黙ったし出発しよう!と思った私の服を霧崎さんが引っ張る。
「帝。まだ言いたいことがあるんだろう?」
えっ?まだ説明終わってなかったの?
『気がつかれましたか。では説明いたします。イベント内では3回、
通信を行うことができます。誰を指名しますか?』
うわあ。危なかった。霧崎さんがいてくれてよかった。
情報は一つでも多く聞いておきたいもんね。
「どうしますか?」
「うーん。夜一はどうかな?しっかり待っていそうだし」
零さんは会社と連絡をとっていそうだもん。
「いいですね」
「帝。夜一さんに通信して」
『かしこまりました。小鳥遊夜一様ですね』
しばらくすると巨大なスクリーンが現れ、そこに夜一さんの顔が映った!
「あ!雷射、茜!踊と霧崎っす!無事っすか?
通信メールが送れないから困ってたっす」
「私たちは大丈夫です。あれ?零さんはどこですか?」
夜一さんと茜君の背後に椅子に座って崩れている私と霧崎さんが見える。
「零さんなら会社に連絡をとりに行ったよ。八高さん、大丈夫?」
茜君を遮って夜一さんが言う。
「その通信何回繋げるっすか?」
「1回のイベントにつき3回。零さんに連絡を取るのもありだと思う」
戦闘中は通信できなさそうだし、使えるときに使ったほうがいいよね!
「あとで零さんにも繋いでみます!」
私たちは一旦通信を切った。
「次は零さんにつないで」
『樋浦零様ですね』今度はスクリーンに零さんが映し出される。
椅子に座って何かの端末を操作しているみたい。リングかな?
実は私、実際にリングをプレイする零さんを見るのは初めてなんだ。
すっごく真剣な眼差し。
「これ、拡大することはできる?」
『はい』
カチカチと操作する音が聞こえ、零さんがアップで写った。
「あの、零さ…」
私がその言葉を言い終わらないうちに零さんの体がガクッと崩れる。
背もたれにもたれたまま、その腕はだらりと垂れ下がった。
目を瞑り、昏睡しているような状態…まるで、頭脳戦の時みたい。
「踊さん?どうする?通信メールは使えないけど」
そう。さっき夜一さんが言っていたけど通信メールは使えないんだ。
すっごく、気になる。
「行こっか」
「ええっ?でも」
「イベントは棄権できない。それに会社と連絡を取るためかもしれないよ?
直接話そうと思えば頭脳戦はいい会場になるから」
確かにそう!私は無理だけど雑魚敵なら余裕を持って観戦している人と話すこともできるもんね。
「じゃあ、出発します!」
『かしこまりました。それではどうぞ。もう初期部屋には戻れませんので』
帝の声が途切れると壁の一部が崩れ落ち、扉があらわれた。
この空間は本当に不思議。誰かがコントロールしているのかな?
私はもう歩き始めた霧崎さんを追って外に出て行った。

急に霧崎さんが止まり、思わず私はつんのめりそうになった。
「な、何かありましたか?」
「踊さん、ちょっとリングを見て」
え?私は腕に装着しているリングを見て声を上げた。
『トラップ接近中!!』
「危なかったね。しっかりリングを見ないと気がつけなかった」
本当にそう!この文字、すっごく小さく書いてあったんだ!
リングって相変わらず意地悪だよね。
「でも、トラップってなんでしょう?」
「たぶん、これだね。矢のマークがあるよ。具体的にはわからないけど」
あ!私わかったかも!
私は隅に積み上げてあった段ボールを取ってくると試しに放り投げてみた。
すると壁に開いた穴から矢が飛び出てきて段ボールを突き刺した。
ひぇ〜。
こういうのって脱出ゲームではよくあるんだろうけど、実際に見ると怖い。
でも、トラップがあるってことは解除できるってことなんだよね。
どこかにスイッチがあるのかな?
私がキョロキョロしていると霧崎さんがツンツンと肩をたたく。
「踊さん。敵、敵」
「ええっ?」
私はリングを覗き込む。たしかに敵接近中との合図が!
でも…
「これ、戦うしかないですよね…」
私たちが今立っている場所は一歩通行の廊下で先は行き止まりなんだ。
しかも、もう一つの道はトラップがある。
だからあとはさっき来た道だけなんだけど、敵が来たらそこも塞がる。
やっぱり、ここは倒すしかないよね!
私は武器召喚からボウガンを選択。
ザザッと音がして現れたのは…え?地雷の鎧?
あ、説明するね。地雷の鎧っていうのは大人気ゲーム会社『Push』の
ドリームクエストマッチゲーム_略してドリクエに出てくる敵キャラ!
人生ゲームなんだけど、敵が出てきたりする新型なんだよ!
テレビのCMでもよくあるから、ゲームに疎い私でも知ってるんだ。
でも、なんでドリクエの敵がリングに出てくるんだろう?
「踊さん!危ない!」
「わっ!」私の方に飛んできたブーメランを霧崎さんが剣で払ってくれる。
地雷の鎧で一番厄介なのはこのブーメラン攻撃なんだ。
このブーメランは貧乏神を寄せ付けるし、ダメージが大きいから。
って考えている場合じゃなかった!
私は急いで矢を抜くとボウガンを放った。
地雷の鎧の体力が500減る。すると、地雷の鎧は消滅した。
リングには地雷の鎧を倒した!との表示。
ええ?地雷の鎧ってこんなに弱いの⁉︎
なんだか逆にびっくり。見掛け倒しなんだね。
「ふう。良かった。踊さん、今度からは気をつけてね」
「あ、はい!あの、霧崎さん。ちょっと私のリングを見てください」
「どうしたの?」
私はリングの画面を指差した。
そこには『地雷の鎧撃破!ドロップアイテム:フレアソードのスキルチップ』と書かれている。
「この、ドロップアイテムってなんでしょう?」
「ドロップアイテムっていうのは敵を倒すと貰えるアイテムのことだよ。
スキルチップはそのままスキルのことじゃないかな。
大事かもしれないから踊さん、持っていてくれる?」
「あ、はい。わかりました」
私は早速リングをクリックして効果を調べてみる。
使用回数は5回で、ダメージは300与えられるんだって。
強いか弱いかよくわからない魔法だけど…何回も使えば強いのかな?
「踊さん。リングを見て」
「え?フロアボス?なんですか、これ」
私は画面の表示をみて首を傾げた。
「わからな…あ、見たほうがいいかも。後ろ」
?私が後ろを向くと地雷の鎧の十倍はある鎧が浮かんでいる。
名前はビスマスの鎧。虹色に光っていてすごく強そう!
やばい逃げなくちゃ!
「踊さん!こっち!」
「はい!」
私は霧崎さんに続いて矢のトラップがある廊下に駆け込んだ。
悔しいけど矢に5回ほど当たってしまう。
でも、他は行き止まりだから仕方ないんだよね。
「うわっ!」
「大丈夫ですか?霧崎さん⁉︎」
「こっち来ちゃダメだ!ってわわ!」
霧崎さんはよろけてしまい、私も一緒に前に倒れ込む。
そのまま、大きな穴に落ちていった。
「いたた。ここはどこだろう?隠し部屋かな?」
「いたっ。そうみたいですね。矢のトラップを抜けないと辿り着けないなんて……」
リングってすっごく嫌らしいゲーム。
まあ、呪われているようなもんだから仕方ないのかもね。
私と霧崎さんは早速部屋を調べてみる。
それにしても、フロアボスがいるなんて聞いていないよ。
やっぱりリングはあの小説に似ている…なんでだろう。
「踊さん!見て、このメモ!」
私はメモの内容を見て息を呑んだ。
『チオです。このイベントはレベルが最低でも250ないと成功できません。
微力ですが力を貸します。このメモはすぐに燃やしてください。
炎強化のスキルチップをどうぞ。ビスマスは火に弱く、鉛に似ています』
「これって……」
「はい。私の言っていた管理者と同人物だと思います。
ビスマスは火に弱いということはさっきのフレアソードを炎強化すればなんとかなるかもしれません」
「チオって本当に親切な人だね。じゃあ、行こうか」
「はい!」
私はフレアソードを召喚し、メモを燃やす。
炎強化のスキルチップを使えば火が約5倍になることが分かった。
これならいけるかも!ダメージが1500与えられるってことだもん。
私たちはそろそろと廊下に出る。また矢のトラップを通らないといけない。できればダメージは避けたいんだけど。
「あ、霧崎さん、これ隠し通路じゃありませんか?」
私は少しだけ壁の凹んでいるところを指差す。
「じゃあ、僕が確かめるね。ちょっと待っていて」
霧崎さんがグッと力を込めて壁を押すと簡単にポコっと外れた。
パズルみたいにうまいことはめ込んであったんだ。
「踊さん!」
私は頷くと隠し通路を潜った。

いよいよボス戦!

出てきた場所にはマップが貼ってある。
それによるとどうやらここはロの字型みたい。
そこを複雑に隠し通路や隠し部屋がたくさん折り重なってるって感じ。
なら、そのうちボスと遭遇できるよね?
「あ、このマップ、取れるみたいだよ。リングに入れられるみたいだから入れておくね」
「はい。ありがとうございます」
!私はリングを見て霧崎さんの肩をつつく。
「ビスマスの鎧です!」
私はリングに触れて火力増加したスキルチップを手に出現させる。
炎を手に纏わり付かせているのに全然熱くない。
やっぱりこの空間は特別なんだと実感する。
私たちは隠し通路から飛び出した!
ビスマスの鎧が七色に光る剣で攻撃してくる。
速い!
反応しきれずにダメージを喰らってしまった。
うう。中学生時代もっと真剣に運動しておけば良かった。
「踊さん。君のことは僕が庇うよ!構わず攻撃して!」
「はい!」
私はリングを操作してビスマスの鎧に攻撃を当てた。

【ビスマスの鎧に1500ダメージ!ビスマスの鎧 75000/10000】
…え?
私はリングの表示を見て思わず固まる。
ビスマスの鎧ってこんなに体力が多いの⁉︎
これじゃ、さきに魔法が尽きてしまうかも。
「踊さん!後ろ!」
私がサッと顔を上げるとビスマスの鎧の剣が目の前に迫っていた!
私は慌てて魔法を放ち、剣の鋒を溶かす。
チオの言っていた通り、ビスマスは火に弱いみたい。
でも、ビスマスの鎧はまだ体力に自信があるからかどんどん攻め込んくる。
霧崎さんはもう無理だと思ったのか、隠し通路に私を押し込んだ。
回転扉を押さえつけているのか、私は外に出られない。
「元の部屋に戻って!作戦を!」
霧崎さんの声が途切れて聞こえて、静寂が訪れた。
フロアボスは隠し通路に入れない仕組みなのかもしれない。
私はおそるおそるリングの戦闘ログをなぞる。
やっぱり…
霧崎さんの体力は0になっていた。
ビスマスの鎧の剣攻撃は一回2500ダメージ。これは侮れないかも。
私、どうしよう…ひとりだし、運動神経もゼロなのに。
頼りになるのは頭だけ。
私がそっと立ち上がると膝の上からポロリとゲーム機が落ちた。
霧崎さんのものだ。さっき弾みで落ちたんだと思う。
ちょうどアイテム画面が開かれている。
私は何気なくマップをクリックして回転させてみた。
すると、突然マップが裏返った!
え?なにこれ…
私はそこに示された内容をみて息を呑む。
『ビスマスの鎧の体力は時間経過と共に回復する。
倒したければ一人で立ち向かえ。急がなければならない』
時間経過とともに回復?
じゃあ、さっき私が与えたダメージも回復しちゃうってこと⁉︎
私は今までのことを思い返しながら隠し部屋に移動。
確かに、最初に私が与えた500ダメージは減っていなかった。
あれは回復したってこと。なら短時間で回復すると考えて良さそう。
それにしても、倒したければ一人で立ち向かえって…
あ!なぜか霧崎さんのリングの画面がメール制作画面になっている。
ここは意識の世界みたいだから、現実で操作されているのかも。
『踊さん。復活には1時間とゲームマネーが30億かかるんだ。
でも、きっと戻るよ!だから持ち堪えてね!』
『踊。頑張れ』
『踊!頑張るっす!茜が寂しそうっす!』
『踊ちゃん頑張ってね!帰ったら美味しいクッキーがあるわよ』
『頑張ってよね。夜一が変なこと言ってるのは気にしないでいいから』
『これ思いついたの私だから!頑張ってよ!クリアしないと怒るから』
うわぁ。みんなの応援メッセージだ。嬉しいな。
霧崎さん、零さん、夜一さん、魔由ちゃん、茜君、雷射かな?
零さんも戻ってきたんだね!良かった!
メッセージが簡素すぎる気もするけど送ってくれただけ嬉しいからいっか!
でも、こっちからはメッセージを送れないんだよね。
あ、そうだ!
「帝‼︎」
『なんでしょう。私にご用ですか?』
「霧崎さんに通信してほしいの。これはイベント中も使えるんでしょう?」
『かしこまりました』
よし、これでちゃんとお礼が言えるね!
しばらくして私のリングにみんなが映った。
『あ、踊さん!大丈夫?』
『霧崎、ウザいっす』
『そっちはどんな感じ?』
『教えてよ!』
『大丈夫かしら?』
『おいおい、落ち着け落ち着け』
「えっと、実は今キツイ状況なんです。ボスの体力が時間経過で回復するみたいで。攻撃魔法も限りがあるんです。今は隠し部屋にいるんですけど…」
『クッ。僕がゲームオーバーにさえならなければ良かったのに…』
『ま、こっちでも策を考えとくよ』
『そうそう!頭脳面のサポートは任せてよね』
『サポートってか、俺らが本陣だから』
『知ってます!』
『茜、小学生相手にからかうのはどうかと思うっす』
あはは。なんだかみんなの会話を聞いていたら緊張がほぐれてきたな。
「じゃあ、通信切りますね」
私が通信を切ると帝が笑っているような声で話しかけてきた。
『ふふ。そんなにゆっくりしていて大丈夫ですか?』
「どういうこと?まさか…時間制限があるの?」
『はい。12時間のね。あと3時間ってところでしょうか。お急ぎください。
それと、鉛は柔らかかいので手で曲げられます。それでは』
マップの裏の急がなければいけないってもしかしてこういう意味だったの⁉︎
じゃあ…
一人だけど、ボスを倒さないと。
でも、さっきの帝の発言、なんだろう?
鉛は手で曲げられる?あ!
確かチオのメモにビスマスは鉛に似ているって書いてあったよね。
うーん。だけど、あんなに重い鎧、私には曲げられなさそう。
あ、そうか!剣の方を曲げればいいんだ!
そうすれば攻撃力が大幅に落ちるもん。
よし!そうと分かれば出発だ!

ビスマスの鎧を倒せ‼︎


私はそろりと隠し通路から顔を出した。
この通路、大活躍だよね!
よし、ビスマスの鎧は見えない。
あの鎧、すっごく強いけど、一ついいところがある。
ビスマスって虹色に光るから目立つんだよね。
もしもそれで透明だったりしたら絶対絶命だもん。
強化したフレアソードを両手に纏わり付かせたら準備完了!
「あ、踊さん?」
私は背後から聞こえた声に思わずビクッとする。
この声は…‼︎
「霧崎さん!」
「あ、ごめんね。僕ったらボス戦の前に登場しちゃった?
びっくりしちゃったよね、本当にタイミング悪いんだよね。あ、踊さん?」
うう。泣きそうだよ。
私は思わず霧崎さんに飛びついた。
「ええ?ちょっ、踊さん?」
「あ、すいません。思わず」
「いいよ。じゃあ、これまでの事話してくれる?」
私は霧崎さんにこれまでのことと分かったことを話した。
「オッケー。じゃあ、僕がまず最初にアレを使うよ。
あとは防御するから、ボスをやっつけよう!盾新調したんだ」
霧崎さんは得意げに盾を見せる。
アレってなんだろう?と思いつつ、私は尋ねる。
「あの、なんで戻って来れたんですか?ゲームマネーが30億もかかるのに」
あの小説と同じでという言葉は胸の内に止める。
まだ決まったわけじゃないからね。
「零さんたちが全部のゲームマネーを預けてくれたんだよ。
部の命運をかけるって。といっても、ほとんど零さんと雷射なんだけど」
私は思わず笑顔になる。みんな応援してくれているんだ!
「行きましょう、ボス戦!」

私たちはマップを広げながら道を進んでいた。
絶対にビスマスの鎧と遭遇すると思うんだけどなぁ。
「踊さん!来たよ!」
私たちはリングの合図で一斉に構える。
廊下の角からフロアボスが姿を現した。
「いけ!チクタク鳥召喚魔法だ!」
あ、アレってこのことだったんだ。私が密かに納得したのは秘密。
続いて、私もフレアソードを放つ。
ビスマスの鎧の体力が3500へる。残りは6500。
やっぱり回復していたみたい。でも、このまま押し切ればいけるかも!
そして、ビスマスの鎧の体力は500まで減った。
いける‼️
私は最後のフレアソードを放つ。
ビスマスの鎧の体力がゼロになり、足元の地面が崩れていった。
やった‼︎
と思ったんだけど、なぜか私たちのいる場所の地面まで崩れているの!
これ、どういうこと⁇
「踊さん、こっちだ!早く!」
霧崎さんが手を伸ばしてくれたけど、私の手は届かなかった。
あ、終わりなんだ…

思わぬ助っ人!?


「いてて…」
ってあれ?私、生きてる?しかもここ、リングの中じゃない?
「あ、踊さん。目が覚めた?」
「はい。でも、私、ゲームオーバーになったんじゃないですか?」
「実は、この人が助けてくれたんだ」
霧崎さんにつられて私も振り返ると、なんと!
そこには狼の仮面をした管理者が立っていた!
でも、なんだか見たことがある人な気がする。
背格好とかがよく似てるんだよね。誰だっけ…?
「!もしかして、チオ⁉︎」
『はい。イベントに手を出してはいけない決まりなのですが、
帝の監視を潜って、手を出させていただきました。あまりにも心配で。
すいません。急遽、クリア申請の場所まで召喚したんです』
そういうとチオは仮面の下で少し口角を持ち上げてみせた。
チオなりの笑い方なんだと思う。
それにしても、すっごくギリギリのところで助けてくれたんだ。
リング側にも私たちを助けてくれる人がいるなんて嬉しいな。
『長くはいられません。早くクリア申請を出してください。
応援しています。それでは』
チオは何かの端末を操作すると消えてしまった。
「じゃあ、申請するよ」
「はい」
霧崎さんがリングからボスを倒してもらえたという鍵をクリック。
すると、『何もしない』『クリア申請』『クリア申請+帰還』という選択が。
私たちはもちろん『クリア申請+帰還』を選択する。
そして、目の前が眩しい光に包まれた。

しばらくの休息


目が覚めると、みんなが私たちを覗き込んでいたのがわかった。
バタバタと音がして零さんが駆け寄ってくる。
手には携帯と資料。会社と連絡をとっていたのかな?
「クリアしたのか⁉︎」
私と霧崎さんはその問いに目を合わせて答えた。
「「はい!」」
みんなが喜んでいる姿を見るとこっちまで幸せになれる。
その後、私たちは身振り手振りを交えながらイベントのことを話した。
「今日は深夜まで眠れないっすよ!」
「そういいつつ、夜一が一番先に寝るんでしょ」
「な、なんっすか!」
あらら。夜一さんったら突っ込まれてるよ。
でも、こうやってわいわいと騒げるのはとっても嬉しい。
「おい、みんな注目‼︎」
零さんが壇上に上がるとみんなの視線が集まった。
「これまで、俺らの目標は生き残る事だった。でもイベントをクリアした。よって、俺らでリングを制覇してやろう!明日から新体制だ!」
零さんの言葉にみんなが歓声を上げる。
リングから解放される日も近いんだなって実感する。
まだ始まったばかりだけどね!
でも、詳しいことは明日決めることになった。だって、もう真夜中だもの。喉が渇いたな。
最後に私が部室を出ていくと、夜一さん、霧崎さん、そしてトランペットのケースを肩に下げた零さんが待っていてくれた。
零さんってあのトランペットすごく大事にしているみたい。
なんだか、明日起こしてもらうのが楽しみかも。
「あれ?踊さん?何笑ってるの?」
「ホントっす!なんっすか?気になるっすよ」
「お前ら、もう深夜なんだから騒ぐな。明日起こしに行って欲しいのか?」
「起こしてほしいっすよ。マジで」
夜一さんの言葉に笑いが起きた。
私も眠いし、明日は起こしてほしいかも。
でも、あんなにうるさいトランペットはごめんだよ!
(リング1呪のゲームを攻略せよ‼︎ おわり)


なかがき


遅くなってすみません!
ちょっとめんどくさくなってサボっておりました(反省)
これでやっと、リング①が完結しました〜
早く②も完成させないといけない・・・
リングの他にも色々書いているので間に合うかちょっと不安です。
ネタバラシしていいですかね?
えーっと、『ドリクエ』『イン・ザ・リンク』『無題2』のあたりはリング関連であとは、『翠龍星』『変温男子』なんやらかんやら。
気になるのがあったら教えてください!
頑張って早く出そうと思っています(保証、保険はありません)
それでは、おつ玉〜

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