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リング【Part.8】

フィーランLv.300


「雑魚狩りって言ってたけど、どれぐらい強いんだろう?」
「わからないけど、ゲームオーバーの可能性はある」
「きゃっ!」
「「「雷射⁉️」」」
私、茜君、霧崎さんの声が見事に重なる。
「大丈夫⁉️」
「う、うん。いきなり風の刃が飛んできて……」
私たちは顔を見合わせる。
きっとフィーランだ。でも、なんだかパワーアップしてるっぽい。
「いけるのかな……」
「敵だよ!二手に分かれて、逃げて!」
ええっ!敵が出てくるの早すぎるよ!
でも、文句を言っても仕方ないので私たちは慌てて横の通路に走り込む。
「踊はこっちに来い!霧崎はあっちだ!」
「はい!」
「夜一!」
「はいっす」
零さんは代表者を二つに分けた。
これは、相手に知性があれば代表者を狙ってくるから。
そういう判断をすぐにできるなんてすごい。
私、零さん、夜一さんチームと、霧崎さん、茜君、雷射チーム。
私はリングで戦闘ログを確認してみる。
雷射を攻撃した敵の名前がわかるかも。
「えっ……」
「どうした?って、うそだろ、、、」
「マジっすか……フィーランLv.300って前のヤツの20倍強いってことっすよ」
「あいつ、結構強かったよな」
その時、私のリングがピコっとなる。
『スキルチップゲット。八高さんたちも奥を探索して。あと、戦闘は避けて逃げて。もう敵のレベルは気づいてるよね?』
茜君からだった。あっちのチームもフィーランのレベルに気付いたみたい。
「私たちも探索しましょう!」
茜君のメールを覗き込んでいた二人は私の言葉に頷いた。

今回のフィーランはかなり強いっぽいよね。
さっき確認したけど、雷射の体力は900削られていた。
ランキング3位でこのダメージなら私なんかが喰らったら結構な大ダメージになりそう。
注意しないとね。
そういえば、茜君が入手したスキルチップってどんなのだろう?
私がメールを送るとすぐに返信が来た。
『大煙火。爆弾だね。レベルは俺でもギリ使える感じで、結構ダメージいけそう。3つあるからまあ一つあげるよ。樋浦さんなら使えんじゃね?』
『ありがとう!』
早速送ってきたスキルチップを零さんに転送。
これで攻撃手段も手に入ったし、ちょっとは安心だね。
さてと、私は部屋を見渡す。
四方に棚があって、その中にはたくさんの本が入っている。
試しにとってみるけど、全部同じ内容だった。
一ページ目にフィーランに煙は効かないって書いてあってあとは全部白紙。
煙ってなんだろう?あれ?
確か茜君がくれたスキルチップに煙っていう文字が入ってたよね。
急に私は不安になる。このイベント大丈夫かな?
ゲームオーバーになる人がでてもおかしくない。
私はこのことを二人に伝えようと振り向いて、凍りついた。
フィーランが立っていた。

フィーランの追撃


腰が抜けた、を私は初めて体感していた。
フィーランは画面で見ると小さな小人だけど、実際は巨人ぐらい大きい。
なのに移動する音が聞こえないし、スピードが速いから感知できないんだ。
「おい、逃げるぞ!」
「はいっす!」
慌てて逃げ出した背中に風のヤイバが何回もぶつけられた。
と思ったら、すごい音を立ててフィーランは消えてしまった。
一体何が⁉︎
「盾のスキルチップが落ちてたから召喚したら風の刃が全部戻っていった。
体力は25000も残っていたみたいだ。狂ってるな」
盾を構えた零さん呆然とした様子。
こんなにあっけなく倒せるとは。
「ちょっと見せてください」
ふむふむ。盾の名前は『嵐のカウンター』で、フィーランの攻撃を全て跳ね返すことができるんだって。最強じゃん。
と思ったんだけど。私はさっきのことを思い出してまた凍りついた。
「あの、二人とも。実はさっき調べた本にフィーランに煙は効かないって書いてあったんです。これって大煙火のことだと思うんです。だとしたら」
「霧崎たちがヤバいってことっすね」
夜一さんの呟きに反応するようにリングがなった。
『小鳥遊茜様がゲームオーバーになりました。フォローが足りませんでしたね。スキルチップをランダムにしたのが悪かったのでしょうか。
お急ぎください。言い忘れていましたが6人揃わないとクリアできません』
「「「ろ、6人全員⁉︎」」」
もう帝からの返事はなかった。
「もうゲームオーバーになれないっすね」
「雷射にメールを送……」
『二人目です。霧崎ペル様がゲームオーバーになりました。またフォローが足りませんでした。八高様はお気をつけください。代表者が二人同時ゲームオーバーでクリア失敗です。早く合流したほうがいいですよ』
ええっ!霧崎さんも⁉︎
大変だ。早く合流したいけどここは入り組んでいて迷路みたいなんだ。
それにあと一回でも誰かゲームオーバーになれば勝率が確実に下がる。
「オドちゃん!樋浦さん、夜一さん!」
「雷射!無事だったの⁉︎よかった」
「うん。ギリギリ逃げれてん。あと、茜君から伝言。
ギリギリになったら通信して。復活するからって。
集団ゲームオーバーになったらヤバいからまだやめておくって言ってた。
あと帝から色々聞いたんやけど今回ヤバいやん。大煙火も効かないもん」
「そうなんっすよ。踊が気づいたんすけど間に合わなかったっす」
雷射は辺りを見回した。
「こっちは大丈夫なの?」
「うん。ダメージはちょっとくらってるんだけどね。あと、嵐のカウンターっていうアイテムをゲットしたよ」
「マジで!見てよ、これ。ラインナップなんだけどさ」
私たちはラインナップを覗き込む。スキルチップがたくさん示されていた。
攻撃系と防御系、回復系に分かれている。
嵐のカウンターは防御系のトップクラスに入っていた。
確かにあれはすごっかったもん。一撃でフィーランを倒せたし……ん?
今回のイベントボスは一匹だけだったよね。
じゃあなんでフィーランを倒したのにクリアできないんだろう?
二人がゲームオーバーだから?いや、違う気がする。
そもそもフィーランはあんなに初期体力が少なくない。
50000あった体力がいきなりカウンターで無くなるなんてありえない。
それに雷射たちは殆どスキルチップがない状態で25000も体力を無くしたってこと?
だって、前戦った敵の20倍だよ?
と、いうことは……
私は後ろを振り向いた。
フィーランはまたしてもそこに立っていた。

『ククク。ヨクソレニ気ガツイタナ。ワレハ分身スルコトガデキルノダ。
心ヲ読ムコトモデキル。オマエタチガドコヘ行コウトワレニハ分カル』
嘘でしょ!そんなんじゃ、勝ち目がないじゃん!
『クククク』
突然フィーランが光だし、分身が始まった。
「まって、これって……25000体になった⁉︎」
「「「えええーっ‼︎‼︎」」」
そんなの、絶対に勝てないよ!どうしよう!
『ヌ?ナゼダ、ナゼ25体ニシカナラナイ。マサカバグカ?ソレトモ管理者ノ奴ガナニカシタノカ!』
管理者?それって、チオかな?
でも、そういう発想に思い至るってことは私たちを助けてくれる管理者たちの存在がリングにバレてきてるってこと?……って今は集中しないと!
「っしゃ!25体なら楽勝だぜ!」
いつの間にか零さんはいつもの装備をしてフィーランに襲いかかっていた。
恐ろしや。
「よーし、うちも行くで!」
「じゃあ、僕もっすよ!」
「もう、みんなが通信してくれないからなにかあったのかと思ったよー!」
「雷射、ちゃんと伝えたの?まあいいや。俺も戦うか」
あ!茜君と霧崎さんだ!
復活してきたんだね。確かに通信するの忘れてたなぁ・・・
まあ、色々あったから大丈夫だよね!
「じゃあ、みんなで一斉に攻撃しましょう!」
「防御は任せろ!全体近づかせねぇ!」
ええっ!さすがにそれは不可能_だと思ったら零さんは本当にやってのけてしまった。恐るべし。その運動能力と瞬発力。
私には絶対真似できないや。
「うちが仕留めちゃいます。それじゃ、ブレイキンソード!」
爆発音が響いてフィーランは消えた、と思ったのその時私たちは現実世界にいた。

新たな展開


「あれ?おかしくない?何にも選択肢がないとか」
「違うタイプのイベントなんちゃうん?」
「それはないと思うね。だってさ、見てよ。みんな寝てるよ」
目の前に広がる異様な光景に私は息を呑んだ。
攻略部のみんなは糸が切れた操り人形みたいに眠り込んでいた。
「なんっすか!これ!」
『今回は特殊なんですよ。あなた方が思ったより早くイベントをクリアしてしまったのでね。制限をかけようと思いまして』
いきなりテレビがついて帝の声が聞こえてきた。
「なんで、今なわけ?意味わかんないんやけど!」
『今しかないのです。イン・ザ・リンクが滅びた今しか』
「「「「イン・ザ・リンク?」」」」
『あなた方には関係のないことです。まあ、なんとか頑張ってくださいね。
あと眠っているのは攻略部の方だけではなく、リングに関わるすべての方です。代わりにメンテナンスは長くしましたよ。ふふ』
「ふざけんなよ!レイグラスも止まってるってことかよ!」
「マジ⁉︎オート死亡解除システムはどうなるの⁉︎あ、メンテナンスか」
『そのとおりです。何度も言わせないでください。そ・れ・と』
舌なめずりするような音が聞こえて、寒気が走る。
『裏切り者にはくれぐれもご注意。我々の方でも』
ゴクリと喉を鳴らす音が重なり、
『始末するので』
テレビがニュースに切り替わる。
『本日のニュースをお伝えします。その前に、速報です。
街中で突然昏睡状態に陥る人が大量発生しています。警察が原因を調べています。みなさん、十分に警戒して、パニックにならないでください。』
零さんがチャンネルを切り替えた。
『レイグラスの社長も昏睡状態になっています。
このことはリングと何か関わりがあるのでしょうか?』
アナウンサーの切羽詰まった声がどこか遠くに聞こえる。
私は部室のみんなを見渡した。早く次のイベントに向かわなくちゃ。

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