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ポエトリー

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2015年11月の記事一覧

十一月、ブラームスを聴く詩人

その美しさに気づくとき

たいていのことは手遅れだし

ターンテーブルの上のレコードは

終わりに近づいている

あか や きいろ や ちゃいろ や

それらがまじったのや

グラデーションした葉を

拾って帰る

それらを黒い布に縫いつけ

壁にかける

葉が黒ずんで輝きを失うころ

冬がはじまる

目にみえるもの と

目にみえないものとに囲まれて

めぐる季節

目にみえるものに気を取られて

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森にて(仮題)

(メイク・ア・ウィッシュ)

(ア・ピース・オブ・ケイク)

ビオトープ

赤い実

鳥たち

青い実

目印

靴が枯れ葉を踏む音

足の親指を立てて歩く

きき耳をたてて歩く

鳥の羽根

たからもの箱

赤い実

青い実



木々のあいだに、空

雪町

自転車は吹きさらしの畦道を行く

体中のすきまというすきまから侵入するものたちの中には

かろうじていくつかの情報もある

ろう梅の匂い

麺を茹でる匂い

水の匂いを待っているのだが

公園の入口で自転車を止める

黙りこんだ空が低い

裸木の先端で突くが返答はない

軒先に吊るした林檎はもう乾いたか

あの白い花の名は何

あの人への手紙はもう届いたか

疑問符たちが解凍されてそこらに散らばる

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森にて(仮題)2

雨上がり

湿った落ち葉の匂い

わあ、いいにおい

通りすがりの親子が同時に言う

笑う

よく似た目元

鼻すじ

それから

中年前半の女と

中年後半の男の二人連れが

黙って行き過ぎる

どちらかが小さくくしゃみ

手をつないでいる

木の実の落ちる音はしばらくして

森の上空を飛ぶヘリコプターの音にかき消される

皇帝ダリアの冠に霜が降りる

「君の負けだ」

声がする

戸をしっかり締め、厚くカーテンを引き、部屋から一歩も出ない日と決める