MOW…震災のとき、牛は…
こんにちは(*'ω'*)
寅年になりましたが、ウシの話です。
普段から、食肉、牛乳、乳製品などいただき、お世話になっております!
ここは大熊は大熊でも原発には縁遠い山の中で、厳しい環境で生きざるを得なかった土地、例えば山仕事の人たちが冬籠もりしたりするような地域なんです。
引っ越してくる前まではここの近くに牧場をつくっていたんですけど、そこにもちゃんとした馬のための祠があって、馬頭観音が祀ってありました。普通は石が道に立ってるくらいですけど、大きな祠があるんです。牛や馬を敬う気持ちが尊いなと思って。つまりそういう場所です。
◆
代替地を必死で探しまわりました。実際に2012年から3年間、ずっと牛たちを保護して世話をしてきたんですから。皆も行政も牛を殺したくてやってるわけじゃないので、それを訴えて仮設住宅を回りました。「誰か牛を放牧させてくれる人はいませんか。牛を置いておくと荒れ地がこんなにきれいになりますよ」と写真や文章をお見せして、一軒一軒訪ねていく中で出会った人が、すぐそこがご自宅の人で。そこから別の方まで口コミで広がって、今は五軒の方の土地を合わせて依頼をいただいて地主さんと一緒に牧場をやってるんですけど。
写真に「昔はこうでした」とビフォーとアフターと、それから生き延びた牛たちの様子を書きました。牛たちは何もわからないじゃないですか。揺れたのはわかっただろうけど、そのあと原発が爆発したことは知りません。人間と違って避難も出来ない。ほとんどが牛舎に残されて餓死して、その生き残ったのは殺処分で追い回されて、人間不信になりながら、でも一生懸命山の中で生きてきてようやく人間を慕うようになって日々を暮らしています。そういうことを書いてお見せしたら「うちのところにぜひ来てください」と言っていただいたんです。
◆
私めちゃめちゃ計算したんです。政府が出してる数字と、原子力規制委員会が出してる数字と、計算方法がいろいろあるんですよ。土の体積と牛の糞を調べて、あと県の畜産試験場で、牛が草をどれくらい食べたら蓄積されたセシウムが何日間で排出されていくかという調査で、だいたい2週間でほぼ排出されるんです、きれいな正常な餌と水をあげれば。2週間で排出されて、残り10ベクレル以下が体内に残りながら、最終的には何週間かで消えていくという状態なんですけど。それを考えると、例えば牛が草を食べるじゃないですか。それから排泄するものって土壌を汚染することは100パーセントないんです。汚染じゃなくてむしろ薄めるということと、プラスこの低減率、生物学的半減期というものですけど、それも除染後に牛に2週間だけきれいな餌と水をあげればほぼ0になるので、だから心配だったら2週間だけよそから持ってきたのを食べさせてから除染後の農地に移動すればいいはずだっていう話です。農地のほうが圧倒的に汚染されてるんですから。除染しても農地の低減率は8割、つまり、6000ベクレルの農地を除染しても1200ベクレルほど残ることになります。だから除染していない草を食べた牛の糞のほうが断然クリーンなんです。
イメージ先行なんですよ。やっぱり放射能はセンシティブな問題だからということで取り上げない記者さんもいるし、それに関してむしろ原発が良くないものということを言いたいがためにすべてが危険だというふうにしたい場合もある。被爆した牛が全部危険で汚染されてて、すべてだめなんだと単純に言いたい人もいるし。反対に、いくら線量が高くても安全だと言いたい人もいて、正確に物事が把握されません。だから正しい数値をうちでは出したいと思っています。だって被災牛に関して、糞について公表してるところなんてないですもん。牛の尿についても。世界のどこでもやっていません。
◆
事故直後に逃げてさまよった牛以外は、牛舎中に閉じ込められて……例えば鼻を……繋がれたまま、鼻がこんなに伸びて死んでいる牛が……いました。そもそも鼻の奥にしっかり輪をつけて、それで繋いでおくんです。だから人がいないと動けない。横になることも出来ない。立ったままがりがりに痩せていくんです。仕方なく体が倒れていくので、あり得ないことですが鼻が伸びて、その先で亡くなっているんです。どれだけ苦しかったことか。
そういう牛たちを私はたくさん見ました。
第一世代は山に逃れてさまよって、奥に奥にどんどん逃げたんですね。2011年の6月くらいには、家畜保健所の人たちとかが真っ白な防護服を着て殺処分を始めましたから、5月12日に総理の指示でそういうふうになって。あのときって大混乱だから、日本語が正しく伝わらないんです。同意のある家畜のみ殺処分、安楽死という言い方だったんですけど、その「同意があるものは」が伝達する途中で消えるんです。
しかも指示がいつの間にか命令になっていて、「国は全頭殺処分」に変わっちゃった。「元気に生き残っているものも」に変わっちゃったんです。もともと福島県のほうは農家からの苦しい思いがわかっていて、牛舎の中で餓死しかけている牛は可哀想だから、動物愛護の観点からも瀕死の家畜を安楽死というふうに要請したんです。でも国ではとにかく殺処分ということになり、だけど同意あるもののみというところが取り払われて、普通に牛舎から出て元気に生き残れていた牛も殺処分になっちゃったんですね。当時、丁寧に法の解釈をちゃんと伝えるなんて感じじゃなかったんです。
牛にはその8年前の記憶があります。それが私、震災後にわかったんですね。昔カタとムッちゃんとウエは同じ牛舎に飼われてたから、再会したときすごかったんです。モワンモワン言いあって、「あんた生きてたの」って感じで、遠くからダダダダッて駆け寄って。震災後に生まれた牛からしたら赤の他人で「誰これ?」という感じで、反応が顕著に違いました。
◆
ということで、そういう牛をなるべく早く見つけて問題を解決して広い土地に移すことを、ずっとやってきました。5年前にすごい大雪があって、その時も必死に通ってたんですけど、牛からしたら「柵の中なんかに閉じ込めといて何だよ」って感じでした。雪でも生きていけてるんですよ。下に青草がありますから、広い面積の土地があればまったく大丈夫。つまり広い柵内で放牧できていれば、牛は生きるんです。
2011年の冬もそうでした。雪が続いて、農家と私たちが「死んじゃう死んじゃう」と心配していると、ある人から「これだから素人は」と言われて。習性を知ってる農家さんはいたんです。「牛は木の皮でも笹でも冬にある物はなんでも食べて生き延びるから大丈夫だよ」と。実際そうだったんですよね。野生の動物って生きますもんね、自然の物を食べて。(略)
実は牛を自然の循環の中で飼うと、もともと畜産ってメタンガスをいっぱい出すから環境破壊するんですけど、適正頭数で適正な飼い方をするとちゃんと破壊せずに、人の生活を潤しながら、例えば日本の場合だったら耕作放棄地を解消したりできます。温暖湿潤気候でモンスーンだから食べても食べても生えてくる。私は牛と一緒にいるようになってから雑草ばっかり食べてみてるんですよ。不味すぎて、これは確かに人は食べれない。でもそれを牛は喜んで食べてくれる。しかも人間が条件不利地域と呼んでるような山際のところとかで、十分幸せに生きていける。そのお乳で人間は生活もできるし、環境保全しながらそこで食料を生産するサイクルが出来たら、日本が海外の飼料を買うことでちょっと燃料が上がったり、ちょっと穀物がバイオエタノール燃料に流れたりするだけで農家が一気に経営で苦しんだり、環境負荷になったりするという要因がひとつ減るわけじゃないですか。
◆
補助金も何もなく、誰が見ているわけでもない、真っ暗な中でずっと8年間、寒い中も雪の中も暑い中も通って牛の世話をしに来てた人たちの力というのは、それこそ復興に必要な力なんだと私は思います。そういう人たちがもっと報われて欲しいという思いがあります。そして、何より頑張って災害後を生き抜いた地域の生き残り、しかも草を食べて土地を守って大活躍している命がいる。私は、そうですね、その思いでここの牛と一緒にいます。
『福島モノローグ』(河出書房新社、2021年)より
いとうせいこうさんによる聞き書き「WITH COWS」から抜粋
震災のとき、人間だけでなく牛も大変な/悲惨な思いを味わったんですね。
近所に、震災のときにおそらく避難したであろう(亡くなってしまってるかもしれない)飼い主とはぐれた元・飼い犬を引き取って毎日散歩している一家がいます。その犬氏、怖い思いをたくさんしたのか、来たばかりのときは怯えた様子も見受けられましたが、いまは元気そうです。よかったね…(*'▽')
好きな写真集で、『ブタとおっちゃん』(山地としてる・写真、FOIL、2010年)という、養豚業を営む上村さんとブタさんたちの姿を収めたものがあります。頭にタオルを巻いて、長靴履いて、くわえ煙草や缶ビール片手にしてる上村さん(おっちゃん)を、大人のブタも子ブタもすご~く慕っているのがよくわかります。子ブタがおっちゃんの腕枕で昼寝してたり、抱っこされて喜んでる。大人ブタもおっちゃんのギターの音色に耳を傾けたり、自分の身をリラックスソファみたいに提供している。上村さんは、農林水産大臣から何度も表彰を受けるほどの腕前だそうです。こんな風な人とブタの関係、すばらしいな♪
「アニマルウェルフェア=動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」、大事ですね。お乳やお肉・皮(革)を生命維持や暮らしに役立たせてもらっている、というのを念頭に、謙虚でありたいなぁと思っています。ちなみに、牛革の匂い、めっちゃ好きです…!
Let's make better partnership with animals ☆
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?