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時代を変えるべきだ!、と思う人がすべきこと

こんにちは(*'▽')

むかし、「理想と現実のはざまで悩む」と言う人が苦手でした。まるで、理想も現実も並列に自分の外に在るみたい。当時尖っていたわたしは、「理想を抱えて現実を生きるんじゃないんかい!」と、心のなかで反論していたのでした。相手にぶつけたこともあったかなぁ。いやはや。


登場人物
 ソクラテス
 ジャーナリスト
 評論家

ジャーナリスト 今日はあなたにどうしても意見しようと思って来たのです。いったい呑気のんきすぎるとは思いませんか。哲学も思索も結構ですが、もう少し時代に目を向けるべきではないですか。加速する現代は、一日とて同じ日はないのです。万古不易の真理など、もうとうにお笑いぐさなんですよ。我々は皆、しっかりと眼前の現実を直視して生きるべきなのです。
評論家 全く同感だ。加えてあなたは自分の意見をもつべきだ。事件の意見を求められても、あなたはいつものらくらとかわして、いいでも悪いでも、どう思うでもない。自分の意見のない人間は、この時代、生き残れませんよ。言論ロゴスの始祖が、そんなことでどうするのです。
ソクラテス ふむ、厳しいね。でも、そう言われても、これは僕のまあ生まれつきみたいなもんだから、今さらどうしようもないのだよ。
ジャーナリスト いや、そんなことはない。なぜなら、そう言っているあなたも、今のこの現代という時代に生きているということは否定しないでしょう。時代と別に生きられるなんて思うのは、欺瞞ぎまんでなければ錯覚だ。不真面目です。だいいちあなたがそんな呑気な考えを持つに至ったのも、他ならぬこの管理社会の統制の結果なのですよ。もっと問題意識をもって、時代の危機を強く認識するべきだ。
ソクラテス いやー、そんな大変な時代に生きているとは確かにちっとも知らなかったよ。迂闊うかつだったね。
評論家 哲学なんて無用の長物が、時代に置き去りにされるのも当然ですね。我々はかすみを食って生きてるわけじゃないんですから。敏感に時代に対応して、即座に発言できる用意がなければ駄目です。断じて現代的であるべきです。
ソクラテス よし、それじゃあ、君たちふたりで僕に教えてくれたまえよ。僕は、時代とは何のことやら、じつはよくわかっていないのだ。
ジャーナリスト しようがない人だな。時代とは、他でもない我々のこの現実、日々移り変わる政治や経済や文化のことです。
ソクラテス なるほど。で、それはどこにあるんだい。
ジャーナリスト 何がですか。
ソクラテス 君は、時代を見たことがあるのかい。
ジャーナリスト 無論です。私は毎日それに接している。
ソクラテス それなら今度持ってきて、僕にも見せてくれるかね。どうもうまく実感できなくてね。
ジャーナリスト 雑誌やテレビならお見せできますけども、時代というのは、この日々刻々の現象だというのが正解でしょうね。
ソクラテス なんだ、人生のことか。それなら僕だって日々それを生きてるから知ってるさ。さっき君は、僕が時代と別に生きてると言ったから、僕の人生とは別に、何かそういうものがどこかにあるのかと思ったよ。
ジャーナリスト 私が言ってるのは、もっと世の中の動きに注意を払うべきだということです。
ソクラテス ふむ、世の中。それは人間とは別のものかね。
ジャーナリスト 今さら何です。人間によって構成されるのが世の中でしょう。
ソクラテス では世の中の動きを作るのも人間だね。
ジャーナリスト 当たり前です。
ソクラテス それは人間の体かね。世の中の動きとは、人間の体の移動のことかね。
ジャーナリスト ある意味ではそうですが。
ソクラテス 体を動かすものは何かね。
ジャーナリスト はあ?
ソクラテス 体を動かすのが各部の筋肉だとしたら、それを動かすようにするものは何かね。
ジャーナリスト ――動かそうという考え、でしょうか。
ソクラテス では世の中の動きとは、体を動かす人間の考えが作るものだね。
ジャーナリスト そうですね。
ソクラテス 貨幣も物品も、そこに置かれているだけではひとりでに動かない。人間の考えが、それを動かすんだね。
ジャーナリスト ええ。
ソクラテス ところで僕は、人間の考えについて考えるのが仕事なんだが、これは世の中を考えるのとは別のことかね。
評論家 しかしあなたは何もなさらないじゃないですか。考えているだけでは駄目、現実的でなければ駄目です。逆に時代に動かされてしまう。
ソクラテス しかし僕は、自分とは別のどこかに時代なんてものがあると思ったことがないから、それを動かすもそれに動かされるもないんだがね。僕は、ただ僕として居るだけなんだがね。
評論家 それが駄目なんです。はっきり態度を表明するために、しっかり時代を見据えなければ。
ソクラテス そう、だから見るから、持ってきてくれと僕は言ったよ。ないものは、見られないじゃないか。君の言う時代ってのは、空気中にあるような何かなのかい。そんなわけのわからないものに何かを言ったり何かをしたりすることが、現実的ということなのかい。
評論家 しかし、じじつ世の中は移り変わってるじゃないですか。
ソクラテス 世の中を構成するのは、具体的な人間だと君も同意するね。
評論家 ええ。
ソクラテス それなら、具体的な人間の考え以外に、時代なんて抽象物があると思って右往左往することの方が、時代に動かされてることにならんかね。
評論家 そんなことはないと思いますけど――。
ソクラテス 原因がなければあり得ない結果と、結果がなくてもそれだけであり得る原因と、どっちが現実的と思うかね。
評論家 はあ?
ソクラテス 種がなければ咲かない花と、花がなくてもそこにある種とでは、どっちがより現実的であると思うかね。
評論家 そりゃ後者の方でしょう。
ソクラテス 人を行動に導くものは何だね。
評論家 そりゃその人の考えでしょう。
ソクラテス すると、人の行動の原因としての考えについて考えるのと、結果としての行動だけをするのとでは、どっちが現実的かね。考えるということは、最高に現実的な行動だとは思わないかね。
ジャーナリスト 違う違う。考えることが現実だなんて、うそっぱちだ、逃げでしかない。行動もせず意見もしない時代がどんなだったか、あなたも御存知のはずだ。だからこそ我々の使命は、常に社会の木鐸ぼくたくとして時代に対峙たいじすることにあるのです。
ソクラテス しかし君はさっき、時代とは日々のこの現象のことだと言ったね。日々の現象とは君が生きている君の人生以外の何だい? 人はそれを生きながら、同時にそれから逃げたり対峙したりできるものかね。時代と君の人生とはどういう関係にあるんだね。君はいったい何をしたいんだね。
ジャーナリスト 私は、私と人々の人生を権力の悪から守るために――。
ソクラテス なるほど、権力ね。しかし、権力をつくるのも、人々の考えだと君は認めるね。機関の名前や建物それ自体が権力なんじゃない。すると、人々がものを考えるときの考え方について考えずに、権力なんてものが先にあると信じて物事の善悪を判断する君も、同じくらい権力的とは言えないのかな。
ジャーナリスト しかし、個人の生活と生命を侵すことは絶対に許されない。
ソクラテス どうして絶対なんだい。
ジャーナリスト どうしてって――。決まってるじゃないですか。
ソクラテス 決まってるのかい、君が決めたのかい、誰が決めたのかい。君が決めたのなら君ひとりの意見だし、誰が決めたのでもないのなら、思い込みということになるぜ。
ジャーナリスト しかし――。
ソクラテス だから僕たちは考えなければ駄目なんだよ。君たちが皆で現実だと考えているもの、世間だって法律だって食うことだっていいよ。なぜそれが現実と考えられるに至ったのか、よく考えてごらんよ。原因を知らずに結果だけ動かすことと、原因ごと動かすのと、どっちが力だと思うかね。
評論家 しかし、たとえばこの世では金が力です。金のある人間は何もかも思いのまま、そうでない人間は損ばかり。この現実をどう動かしてみせるとあなたはおっしゃるのです。
ソクラテス 簡単さ。皆が金を価値だと考えるのをやめればいい。
評論家 馬鹿馬鹿しい。
ソクラテス 君は、なぜ人はあんなに金を欲しがると思うかね。
評論家 それがなければ生きてゆけないからですよ。我々は生きなきゃならんからですよ。
ソクラテス 君もそう思うんだね。
評論家 無論です。
ソクラテス なぜ生きなきゃならんのかね。
評論家 ほら来た。わかってますよ、あなたの論法なんか。そうですよ、生きることそれ自体では価値ではありません。でも、価値でなくても生きるということもあるんです。そして生きるからには楽しい方がいいに決まってる。そのためには金が要るんですよ。
ソクラテス 快楽は金で買えるということだね。
評論家 そうです。この時代はことにそうだ。
ソクラテス 金で買えるような快楽が、いったいどうして価値なんだか――。
評論家 そんな通俗的なお説教は結構です。いいものはいいんだから、それでいいんです。
ソクラテス そりゃ僕だって、他人がどんな価値観で生きようが全然構わないさ。しかし、現実を変えるべきだと言ったのは君の方だよ。そしてその現実とは、金という価値を巡る人々の争いだと言った。にもかかわらず君自身は、金を価値と考えることを変えようとしない。それなら、いったい君は、現実を変える気があるのかね、ないのかね。変える気のないような現実が、なぜ現実的なんだね。
ジャーナリスト ほらね、ソクラテス。だんだん化けの皮がげてきたでしょう。評論家なんて連中は、自分のことは棚に上げて、人の悪口で飯を食う卑しいやつらなんだ。私は違う、私には理想がある。私は全てを挙げてノーを言う。あんな連中と一緒にされては困りますね。
評論家 おや、偉そうに。君らこそ事件がなければ食えないくせに。なければ事件をでっちあげるくらいのことはしてみせるくせに。反権力だなんて、きれいごとですよ、ソクラテス。奴らこそ、金と権力をもってる人間への私的な嫉妬とすり換えてるだけなんだ。それで自分が権力になってることも、知ってて知らないふりなんだから汚ないね。だいたい野蛮だ、下品だよ。他人のプライバシーまで追いかけ回して鬼の首でも取った騒ぎ、およそ知性のする仕事じゃないね。「知る権利」が聞いてあきれる。
ジャーナリスト 俺たちの報道がなければ、たちまち干あがっちまうだろうにさ。何が「識者の意見」なんだか。本物の知識人が、ちょこまか何にでも鼻つっこむかい。悔しかったら事件のコメントも他人の品評もなしに、堂々と理論だけで物言ってみろ。「私の立場では」ってのは、いったい何だい。自分だけは世間とは別に物が言える便利な立場があったもんだな。俺たちは時代の現場に立ち合ってる。君らのような寄生虫とは違う。いい加減に黙ったらどうだ。
評論家 恐喝する気か。言論は自由だ。
ジャーナリスト 言論はさ晴らしとは違うぜ。言論とは公共性だ。
ソクラテス まあまあ、内輪もめはほどほどにしたまえよ。君たちはじつによく理解し合っているじゃないの。
両者 失敬な!
ソクラテス 言論についてなら、この時代遅れの言論ロゴスの始祖が、一言、言えるな。君たちは言論が時代に不可欠だという点では一致しているようだが、それなら君たちは、学問上の発見や先端技術の発明で時代を画した人々が、事件や他人のあれこれに気をもんで口出ししているのを見たことがあるかい。彼らは無言だ。自分を忘れて自分の仕事に没頭している。時代をどうこうしてやろうなんて意図があったとは、僕には思えないね。そんなこと考えてる暇なんかないんだよ。君たちも、そんなふうに黙って自分の仕事に専念すべきではないのかな。
両者 ええ、だから私たちは時代に即した言論活動を—―。
ソクラテス 君たちは、これがてのひらであることを認めるね。
両者 えっ、ええ。
ソクラテス これは事実だね。
両者 ええ。
ソクラテス 「これが掌であることを私は断じて許さない」と叫んでも、これが掌であることに全然変わりはないね。
両者 ええ。
ソクラテス 君たちのしていることは、それと同じなんだよ。既にそうである現実について、俺は認める認めないと騒いでみても、現実の側は痛くもかゆくもない。言うのは勝手さ。でも全然無意味なんだ。こういう無力な言辞は意見と言って、決して言論ロゴスとは言わないんだ。
両者 よくわかりませんが。
ソクラテス 君たちは、現実や時代を構成するのは人間の考えだということは認めてくれたようだが、自分のどこか外に、それを肯定したり否定したりすることのできる現実や時代があるわけではないということは、まだ認められないらしいね。しかし君たちは、自分が今生きているということを認めるね。
両者 ええ。
ソクラテス 「私は人生を否定する」と言っても、生きているという事実に変わりはない。
両者 そうですね。
ソクラテス 君がこの時代に生きているということも、そうだね。君が肯定する否定するとは無関係な、ただの事実だ。
両者 そうですね。
ソクラテス それなら、時代を生きるということと、君が生きるということとは、全く同じことではないのかね。
両者 そうかもしれませんけど――。
ソクラテス すると、時代に即するとは、君が君の人生を、よそ見をせずに真面目に生きてゆくということでしかない。時代時代とよそ見をする人が、一番時代と自分の人生を取り逃がしているということになると思わないかね。
両者 しかし、時代は変えられなければならない。
ソクラテス 時代を生きている君たちが、時代を変えることを望むのなら、まず自分の考えを変える以外ないじゃないか。それがたくさんの人に理解されて、時代の考えになり変わる以外に方法なんかないじゃないか。
両者 そう、だからこそ私たちは日々、言論活動に心血を注いでいるのですよ。
ソクラテス その言論を語っているのは、君だね? それは君個人の考えで語る君の言葉だね?
両者 もちろんですとも! 自分個人の自由な考えを堂々と語れないような人間は、そもそも言論活動に携わる資格がありませんからね。
ソクラテス ふむ。それなら僕は、君たちに早々に転職することをお勧めするね。
両者 どうして!
ソクラテス だって、言論は自由なんかじゃなくて必然だからだ。数式や文法がそうであるのと同じだね。それらが全ての人に理解されることができるのは、それが誰か個人の考えではないからだ。これぞ万古不易の真理だね。そこでこれを言論ロゴスと言うのだ。今さら言論の公共性についてもめるなんてのは、それが論理に基づく言論でなくて、ただの意であるまぎれもない証拠だよ。無力だ。人々の考えなど決して変えられない。大発見をして時代をひっくり返してしまう科学者の謙虚さを見てみたまえ。俺の考えだなんて、一言だって言いやしないじゃないか。俺が俺がのわいわいがやがやは、歴史にとってみりゃ、牛の尻にたかる蠅みたいなもんなのよ。
両者 しかし、ほんとにそんなふうにお考えなら、なぜ自分からそうおっしゃらないのですか。
ソクラテス 僕が時代だからだよ。わざわざ自分で自分に物申す必要なんかないからだ。君たちだって知ってるだろ、二千年来ずうっと皆が僕のことを言ってるってこと。なあ、言論とは、かくも自由なものなのだ。
 どうだい、哲学も捨てたもんじゃないだろう。ちょっとしたジャーナリストくらいにはなれるぜ。

『無敵のソクラテス』(池田晶子、新潮社、2010年)より 「時代はどこにあるのか」


人の考え(原因・種) → 人の行動(結果・花) → 現実/時代(人の行動の集合体)
ということになるのでしょうか。
ソクラテスが現代に生きていて、ジャーナリストと評論家と対談している設定ですね。フランスの高校生は学校で哲学を学ぶらしいのですが、このようにソクラテスとの対談をイメージできるまでになれば、遺伝子研究で生命科学的にソクラテスを現代に蘇らせるまでもなく、お喋りできちゃいますね…♪

対談のなかで、途中、ジャーナリストと評論家が内輪揉めをしています。「悪魔の一番の大好物は、内輪揉め」と聞いたことがあります。世界大戦だって、宇宙から見たら、地球人の内輪揉めですしね。ソクラテスに「君たちはじつによく理解し合っているじゃないか!」なんて、お褒めの(皮肉の?)言葉をいただいて、一本取られているじゃァないですか。うふふ。

お金なしで物品・サービス交換ができたら、格差問題一挙解消!? オギャーと生まれた時からお金でいろいろ回ってる世界にいるから、別の方法を全然想像できません。でも、これからでてくるかな? テレ東大学 FUKABORI (Youtube)で拝見した小島武仁さんの「疑似的市場」や「(臓器移植ネットワーク、企業の人事・就職、保育園などの)マッチング&アルゴリズム」の話が興味深いです…( *´艸`)

When you change your thought, you can look at the world changing dramatically ☆

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