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アイドルの楽曲にハマった日:RYUTist「水硝子」/「ファルセット」

僕は長らくアイドルとアーティストは別物だと考えていた。楽曲を通してメッセージや世界観を伝えるアーティストと、「なにを歌うか」ではなく「誰が歌うか」が重視されるアイドルは、そもそもの目的が違うのだと。もちろん、いまではそれがとても乱暴な考えだったとわかっている。たしかに固定ファンの存在にあぐらをかいた粗雑な楽曲はたくさん存在するし、アイドルの楽曲のよさはその世界に浸かった側の人間でないと味わえないことも多い。なによりアイドルの世界は入口が狭い。しかし、だからこそ自由度が高く、ひと口に「アイドル楽曲」ではまとめきれないほど豊かな生態系がそこには広がっている。最近では、高いパフォーマンス性を売りにしたK-POPが日本で定着したことに加え、コロナ禍で握手会商法が大幅に制限されるようになり、アイドルも音楽性をおざなりにしては生き残れない時代になっている。Sexy Zoneの「RIGHT NEXT TO YOU」はジャニーズにも変化の波が来ていることを予感させたし、「BiSH」のアイナ・ジ・エンドのようにパフォーマンスに定評のあるメンバーがソロ活動をする例も増えると思う。「アーティストとしてのアイドル」の価値はますます高まっているのだ。

そんな中、僕がはじめて出会った「アーティストとしてのアイドル」が新潟県新潟市の古町を拠点として活動するご当地アイドル、RYUTistだ。

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古町地区は古くから京都・祇園のような花街として栄え、芸者や遊女を多く見かけたことから「柳都」の異名を持つ(由来は諸説ある)。RYUTistというグループ名はそんな古町の歴史に因んで付けられたのだ。

新潟といえばご当地アイドルの先駆け、Negiccoがいる。アイドルの枠組みの中でも玄人好みのする楽曲をリリースし、その音楽性の高さが評価されているだけでなく、メンバー全員がアラサーの既婚者になってもアイドルを続けるなど、さまざまな点で女性アイドルの壁を壊し続けているグループだ。RYUTistもそのフォロワー的な位置にいると言えるだろう。

特に去年リリースされたアルバム「ファルセット」は音楽ファンからの評判も良かった。楽曲提供者には「現在のインディー・ポップ・シーンを支える若き作家が集結」しているらしい。僕もこのアルバムをきっかけにRYUTistの存在を知った。フルートやマリンバをつかった音色がとても落ち着くし、居心地がいい。じっくり聴き込めば新たな発見がある一方、朝ごはんの準備をしながら流せるぐらい背景の音としてなじむ身軽さもある。

特に好きなのは柴田聡子が作詞・作曲した「ナイスポーズ」だ。

こっち向いてよ 今から撮るから 
変な顔しないで ちゃんと考えて
いっつもふざけて そんなのばっかりで
また今度ねって まあしょうがないかって

写真を撮ろうとするたびにふざけて変な顔をしてしまう「君」と、そんな彼に相手してもらえず、ちょっと距離を感じはじめている主人公の女の子。コンマ一秒の感情のゆらぎを、「指でつくった四角」のフレームに収め、もっとも輝かしい瞬間として切り取ってしまうリリック、リズミカルなイントロから終盤にかけて徐々に緊迫感を増していくサウンド、そしてラスサビのハモリの多幸感。去年聴いた音楽のなかでもトップクラスに好きだ。

「ナイスポーズ」の魅力については、このブログが丁寧に、かつ、かなりの熱量をもって語っているので、ぜひあわせて読んでみてほしい。

なぜ自分がその音楽にハマっているのかをことばにするのはとても難しい。映画や小説以上に肉体的な感覚をふくむと思うからだ。畢竟、楽曲の魅力はいくら頭を捻ってもことばでは伝えきれないし、再現もできない。とにかく聴いてみて、としか言いようがないのだ。そして、おすすめした相手がハマらなかったらそれでおしまいなのである。僕だって「ファルセット」を知るタイミングがすこしでもズレていたら、こうやってnoteを書くほどRYUTistを好きになっていなかったかもしれない。結局のところ音楽とは相性であるし、その出会いは運命なのである。

しかし、あえてその魅力を言語化するならば、元気の押し売りみたいなパワフルソングでもなければ、わざとらしく清楚感を押し出すでもない、あくまで楽曲の中から「RYUTistらしさ」を探るその姿勢が僕には心地よいのかもしれない。また、彼女たちのパフォーマンスには独特のやわらかい空気とあたたかさがあって、聴いていてとても癒やされる。4人のボーカルの声質とバランスも個人的にはちょうどいい。それでいて「アーティスト」の側に寄り過ぎるでもなく、しっかり「アーティストとしてのアイドル」になっているのが良いと思う。まだまだメンバーも若いので、これからの展開にも期待できそうだ。

5月9日にリリースされた新曲「水硝子」も非常にすばらしかったので、最後に紹介しておこう。作曲・編曲は、最近adiue(上白石萌歌)にも楽曲を提供した君島大空。

つかみからなかなか複雑な展開の曲で、途中振り落とされそうになるけれど、最後までしっかりアイドル・ポップスらしさを失うことがない。それでいて刺激的だし「RYUTist」の音楽になっている。雪解け水のような透明感とひんやりとした肌触りは、聴いていてクセになる。音だけ聴くと僕にはちょっと取っつきにくい難しさがあるのだけど、RYUTistのやさしいボーカルがちょうどよく中和してくれている。「ナイスポーズ」が大好きだったのでハードルは上がりきっていたのだけど、それは杞憂だった。リリースされたばかりながら、何度も聴くぐらいお気に入りの曲だ。

僕は日向坂46のファンなのだけど、正直、秋元康プロデュースの楽曲は僕の趣味に合わないものが多い。だからこそ、RYUTistの「ALIVE」や「ナイスポーズ」をはじめて聴いたときは衝撃的だったし、アイドル楽曲だからといって自分の好みを諦める必要もないなと思った。いまはコロナ禍でなかなか旅行も難しいけれど、状況が良くなって気兼ねなく外出できるようになったら、ぜひ新潟に行ってみたい。そして、RYUTistのライブを見て、そのあと温泉宿に泊まり、ひとりでのんびり湯に浸かったり、日本酒を飲んだりするのである(まんまと術中にハマっている)。

その他のコンテンツ

最後にRYUtist以外のアイドル楽曲について紹介。

眉村ちあき「DEKI☆NAI」

ソロのアイドル(というよりシンガーソングライター?)としてさまざまな表現に挑戦している眉村ちあき。「DEKI☆NAI」はラジオで流れていて好きになった曲。「Hey Guys」を「弊害s」に掛けているのは正直ダサいが、気に入っている。先に音だけ聴いていたのでリリックを読んだときにびっくりした。

フィロソフィーのダンス「ヒューリスティック・シティ(mabanua  remix)」

フィロソフィーのダンスも音楽性の高さを売りにしているイメージがある。残念ながらざっと聴いた限りではあまり好きな曲はなかったのだけど、mabanuaが手掛けた「ヒューリスティック・シティ」のremixは気に入っている。単にmabanuaが好きなだけかもしれないが。

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