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「ひなくり2020~おばけホテルと22人のサンタクロース~」

「ひなくり2020~おばけホテルと22人のサンタクロース~」を振り返ろうとすると、語るべきポイントがあまりにも多く、どこから手を付けようかと迷子になってしまう。それだけディープで満足度の高いライブだった。それでもあえてひとことでまとめるとするなら、僕は「全員野球」ということばを選びたい。僕は、常々この姿勢はメンバーだけでなく、彼女たちを支え、プロデュースするスタッフたちもグループのカラーとして積極的に取り込んでいるフシがあると感じていたのだが、今回のライブはその集大成とも言うべき内容になっていた。

たとえば「ひなくり2020」最大の目玉かつサプライズである松田好花の復帰。ライブ直後に生放送された「佐藤満春のジャマしないラジオ」で、ゲストのオードリー・春日が語ったように、おもわず「おかえり」と言いたくなるあの温かい演出を思い出してほしい。ギター片手に「いま旅に出ているあの子さえ帰ってきたら…」と不安がる相棒の富田鈴花のもとへ、「ただいま」の言葉とともに駆け寄る松田好花。彼女の口から「ただいま」が聴けるだけで感動なのだけど、さらに素晴らしかったのはそのあとの「まさか偶然…」のパフォーマンスだ。去年の「ひなくり2019 〜17人のサンタクロースと空のクリスマス〜」のMC中に「(広いステージだったので)鈴花と離れ離れで、隣に鈴花を感じれなくて寂しかった」と涙した彼女のことを想いやるかのように、なんと今回はメンバー全員がすぐそばに座り、寄り添うように囲うかたちをとったのである。となりには富田鈴花もいる。だいじょうぶ、あなたはいつだってひとりじゃない。そんな温かい愛が画面から伝わってくるパフォーマンスだった。

復帰して早々最高の歌と演奏で魅せる松田好花、それから登場当初から目に大粒の涙をためていた彼女を支え、けっして押し付けがましくない距離感で励ましていたまわりのメンバーもさることながら、このような復帰の舞台を用意したまわりのスタッフのサポートもすごいと思う。濱岸ひよりの復帰シングル「ソンナコトナイヨ」のカップリング曲「青春の馬」間奏で、センターの小坂菜緒とのペアダンスが組み込まれたことを思い出した。たとえチームを離れとしても、いつでも戻ってこれるように居場所を用意してあげる。そして、帰ってきたときはメンバーとファンが「おかえり」と祝福してあげる場を、しっかり設けるのである。アイドルと学業の両立に苦しみ、一時離脱を余儀なくされた宮田愛萌も、今回のライブでは現況報告代わりとも言うべき「影ナレ」での出演を果たした。いずれ彼女も帰ってくるし、そのときはみんなで温かく迎え入れてあげよう。そんな気持ちにさせてくれる、ふたつの嬉しいサプライズであった。「3年目のデビュー」のポスターに書かれていた「私たちは誰も諦めない、見捨てない」のことばはウソではないと思う。

「No war in the future 2020」からはじまるクリスマスライブ

また、意外性あふれるセットリストと、22人のパフォーマンスも、この一年の締めくくりにふさわしいものだった。クリスマスライブと言うからには「ママのドレス」や「ホントの時間」あたりを入れてくるのだろうと安直に予想していたけど、蓋を開けてみると1stアルバム「ひなたざか」収録曲の比重が高い上に、ユニット曲の採用も多かった。去年の「ひなくり2019 ~17人のサンタクロースと空のクリスマス~」との被りを避け、なるべく新三期生が参加できるよう配慮したのだろう。結果的にと言うべきか、レア曲も多めになっている。せっかくなので、一曲ずつ振り返ってみよう。

1曲目はまさかの「No war in the future 2020」。「傷つけ血を流し」や「憎しみのドミノ倒し」といった強めのワードが散りばめられた、どちらかというとメッセージ性の強い楽曲で、サンタのコスチュームで踊るには少々物騒な気もするが、ひらがな時代の曲が少ない中、齊藤京子センターかつ22人全体曲をチョイスするのは、全体のバランスで見ると悪くない。2曲目は2ndシングル表題曲「ドレミソラシド」。正直、鑑賞前はこれか「キュン」が最初にくると思っていた。夏にリリースされただけあって燦々とかがやく太陽に照らされたような明るさを持つ楽曲だけど、クリスマスの装いとともに披露されると、またすこし違った印象を受ける。聖なる夜のおとずれを祝福するようなエネルギーにあふれていた。探検隊のコスチュームにお色直ししたメンバーが3曲に披露するのは、「ひなたざか」収録の全体曲「ただがむしゃらに」だ。「日向坂46×DASADA Fall&Winter Collection」で初披露された際は横一列に並んでのパフォーマンスだったが、今回はライブ会場全体を生かした変則的なフォーメーションとなっていた。この曲と「No war in the future 2020」と同じく出るとしたら後半だと予想していたので、最初から色の濃い楽曲が続いたのは、ある意味でサプライズだったと思う。

松田好花の電撃復帰とともに披露された「まさか偶然…」をもって物語は本格的に始動することになる。5曲目には、もはやライブ定番曲である「川は流れる」。去年の「ひなくり2019 ~17人のサンタクロースと空のクリスマス~」では電飾を仕込んだ衣装がイルミネーションのように光り、幻想的な雰囲気をつくっていたけど、今回はゴンドラとARを駆使した動きのある演出になっていた。こちらもライブごとに異なる表情を見せるカメレオン的楽曲になりつつある。

6曲目には佐々木美玲、加藤史帆、齊藤京子が「どうして雨だと言ったんだろう?」を披露。一期生のなかではリードボーカル的役割の3人が、ときに激しいダンスも交えてクールなパフォーマンスで魅せてくれた。いっさい表情を崩さないのもすごい。伏線もへったくれもない強引な急カーブでねじこまれた7曲目は「ソンナコトナイヨ」。毎回ストーリー仕立てのライブなのにシングル表題曲だけは組み込み方が雑だと思う。ここからはメンバーがメイド服に着替えて登場。「ソンナコトナイヨ」は非常にフォーメーションチェンジが激しく、運動量の多い楽曲だが、オンラインライブらしくメンバーの輪の中から覗きこむカメラワークや、あえてショットを切り替えない長回しでの演出が採用され、臨場感たっぷりのパフォーマンスになっていた。8曲目の「こんな整列を誰がさせるのか?」はけやき坂46時代のレア曲。僕もユニエアでしか見たことがなかった。意外にも影山優佳は初参加らしい。余談だが彼女はカメラに抜かれるたびに完ぺきな表情を作っていて、最後までそれを崩すことがなかった。その安定感はメンバーの中でも随一ではないだろうか。もはや超人である。

上村ひなのデビルモードの大立ち回り

2期生+上村ひなのによる9曲目「Dash&Rush」では、ステージの上だけでなく、迷路のように入り組んだ「おばけホテル」のセットをメンバーが縦横無尽に駆けまわり、歌でおばけたちを退治していく内容。アップテンポで戦闘的な雰囲気が物語にもマッチしている。猫みたいなパンチでおばけを殴る丹生ちゃんが可愛かったし、クールに決める金村美玖もカッコよかった。各メンバーが自分の解釈でこの曲に臨み、それぞれのカラーを出しているのが面白い。オンラインライブのメリットを最大限生かした演出で、今回のライブでもトップの熱量だったと思う。その次は三期生曲の「この夏をジャムにしよう」。上村ひなのはここから先、最後までほぼ出ずっぱりになる。こちらは4人が歌と踊りでモンスターを倒し、最後はジャムにして瓶に詰めるという冷静に考えるとおそろしい演出。「日向坂で会いましょう」のスタジオライブのときに比べるとみんな肩の力も抜け、表情も豊かで可愛らしかった。上村ひなのはすでに貫禄があるが、新三期生の中だとやはりみくにんがいちばん上手い。キュート系もクール系もいけそうだ。タイプ的にはみーぱんに近いのではないかと思っている。そして第二部の最後は富田鈴花によるラップ。デコ出しモードになりビジュアル覚醒中の彼女だけど、本当に楽しそうに歌ってくれるから、見ていてこっちもハッピーな気持ちになる。そろそろ「まさか偶然…」の次のユニット曲がほしいところだ。

第三部の幕開けは「窓を開けなくても」。こちらはメンバーがゴンドラに乗り、雨の降る火山や橋のない川など、これまで冒険してきた道をたどりつつ「おばけホテル」に戻っていくという内容だ。12曲目は小坂菜緒と金村美玖による「See Through」。洋のこさかなと和のお美玖のコントラストがうまく噛み合っている。どちらもメイド服の衣装と無機質な表情が決まっていてすばらしかった。このあとの「アザトカワイイ」では別人のような雰囲気でパフォーマンスをするのだから、アイドルって本当にすごい。

その次はデビルモードの上村ひなのとその他全員が対決する「キツネ」。「日向坂で会いましょう」のアンガールズ・田中へのドッキリ企画でも思ったけど、ひなのはやはりこういう変化球的な使い方がハマる。本人への負荷を考えるとほどほどに留めてほしいものの、最年少メンバーながらヒール役の大立ち回りが違和感なく許容されるのは、彼女のスター性が為せるものなのではないだろうか。14曲目には上村ひなのがソロ曲「一番好きだとみんなに言っていた小説のタイトルを思い出せない」を披露。このライブで唯一と言っていいほど序盤からしっかり伏線がはられ、物語のラインに組み込まれていた楽曲だ。いきなり最初の歌詞を間違えていたが、音も安定していて堂々たるパフォーマンスだった。彼女はふんわりしたキャラクターに反して、歌声が太く力強いのがとてもいい。ちなみに先述の「佐藤満春のジャマしないラジオ」で春日がベストパフォーマンスにあげていたのはこの曲であった。

灼熱のクライマックス

ここからしばらくハイカロリーなライブ定番曲が続く。ふたたび全体曲に戻って15曲目は「キュン」を歌唱。続く「My fans」は、燃え盛る炎の中、非常に熱気のこもったパフォーマンスとなった。もともとはファンとアイドルの関係を挑発的に歌った楽曲なのだが、つかみの「私のためならなんでもするって 言ってくれたよね覚えてる?」のフレーズは、作中の22人のサンタクロースからポカにたいする不満とリンクしていて面白い。前評判どおりライブ映えする楽曲で、今後のあたらしいスタンダードになりそうな気配がする。さらにイントロ部分のフリーダンスの振り付けが注目された「誰よりも高く跳べ!2020」。正解はマイケル・ジャクソンの「スリラー」だった。あれはお化けじゃなくてゾンビだろうと思うが、野暮なツッコミをしてはいけない。ちなみにキャプテンのことだからM-1ネタを入れてくるだろうという僕の予想は見事に外れた。CRまさのりやってほしかったけどなあ。さすがのキャプテンもパチンコ台をやるという選択肢はなかったらしい。

みーぱん、かとし、齊藤京子が「日向坂で会いましょう」のテンションそのままに「ぶりっ子」を披露する寸劇を経た18曲目は、満を持しての「アザトカワイイ」である。あいかわらずおふざけと本気モードの落差がすさまじい日向坂46だけど、「My fans」→「誰よりも高く跳べ!2020」→「ぶりっ子」→「アザトカワイイ」の流れは、このライブでも特に高低差が激しかった。サウナと水風呂に交互に入るように、カッコいいとカワイイを浴びせられ続けるうちにどんどん身体が火照ってくるのだ。ステージの端っこでは「ホテル王」が「かわいすぎる~」とか叫びながらのたうち回っていたが、画面の前の自分たちにしか見えなかった。メイド服を着たメンバーのアザトカワイイパフォーマンスは当たり前のように全員優勝していたので、あえてここで個別に触れることはしない。

19曲目はライブ終盤のお決まり「JOYFUL LOVE」だ。客席に並べられたサイリウムがつくる虹色の景色は、本来であれば東京ドームで見られるはずのものだった。そう考えるとやはり寂しさはあるものの、こうやってリモートであってもファンがその場に居るかのような演出で盛り上げてくれるのはとてもありがたい。そして最後はグループの歩みをたどる「日向坂」。先日のアルバム振り返り記事では、けやき坂46時代を強く意識した歌詞が少々「古い」のではないかと指摘したが、東京ドーム公演が来年に延期になったいま、幸か不幸かあらたな意味が加わっているように思う。特に「ちょっと遠回りをして どうにかここまでやって来た 全力で登るだけ 僕たちは日向坂」のフレーズは、聞いていて響いてくるものがあった。

ライブTシャツに着替えてのアンコールパートでは、1曲目に「青春の馬」を披露。あえて本編では見せず、最後に持ってくる演出が憎い。印象的だったのは、けっして万全のコンディションとは言えなかったセンター・小坂菜緒の手を、むしろリードするように引っ張る濱岸ひよりの姿だ。「日向坂46×DASADA LIVE&FASHION SHOW in 横浜アリーナ」で金村美玖にリードされて涙を流していた頃とは非常に対照的で、この1年の成長を感じさせるパフォーマンスだった。

そしてMCパートに入ると、キャプテンに呼ばれる形で松田好花が登場。鼻を真っ赤にして泣く彼女を見て、思わず僕もグッときてしまったけど、いちばん心に響いたのは、渡邉美穂の涙とことばであった。いつもは冷静にまわりを見てみんなをサポートするポジションにまわる印象が強い分、彼女が感情をあらわにするときの気持ちの大きさに、見ているこちらも感動してしまうのである。たとえばそれは「ひなくり2019 〜17人のサンタクロースと空のクリスマス〜」における東京ドーム公演のサプライズ発表であったり、「青春の馬」の振り入れのタイミングであったりする。どれも彼女がグループのことを真剣に考えているがゆえの涙だ。だからこそ、今回の「高校球児」のような泣きっぷりと「全員そろってステージに立てることは当たり前じゃないんだなって」という言葉には重い意味があるし、それは最後に披露された「約束の卵 2020」の「もし仲間が倒れた時は 僕が背う」へと繋がるのである。まさしくこれは冒頭にふれた「全員野球」の精神であり、「私たちは誰も諦めない、見捨てない」なのではないか。2020年は握手会やライブなど主戦場での活動が封じられたり、メンバーが相次いで離脱したりと、かならずしも順風満帆ではなかったけれど、あのクライマックスをみて、きっとこれから先どんなことがあっても、日向坂46は彼女たちらしくあり続けてくれるのだろうと確信した。

復帰した松田好花を迎えて、新たな「日向坂46 #1」がはじまる。

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