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「日向坂46の第三章」へとつなげるバトン :「ひなくり2021 DAY2」感想

ことしも残り一週間。祝祭ムード一色のクリスマス当日、僕は幕張メッセで「ひなくり2021 DAY2」を観た。はじめて現地でライブ参戦した「W-KEYAKI FES. DAY2」の新鮮な感動を超えるものではなかったが、日向坂のファンとしてこの一年を締めくくるには満足な内容だった。この興奮が冷めないうちに、感想を書き留めておこう。後半はだいぶ好き勝手な妄想を書いているので、適当に読んでいただければと思います。


クリスマスは「クールな日向坂」で

日向坂46のOvertureは「これからライブがはじまる」という興奮を観客全員が共有するのにふさわしい音楽だと思う。雲を切り裂いて陽の光が差し込む。ぱっと空が明るくなって、みんなが笑顔になる。僕はOvertureを聞くたびにこの爽やかな情景を思い浮かべる。このイメージはまさしく「日向坂46」そのものではないだろうか。このご時世のライブでは静かにスティックバルーンを叩くしかないが、本当はもう声を出したいし、絶対その方が楽しいだろうなと思う。

1曲目はまさかの「アディショナルタイム」。MVすら作成されていないカップリング曲をここで持ってくるとは予想していなかった。しかも「ひなくり」で…である。無難に「キュン」あたりだろうと構えていたのでびっくりした。2曲目は「膨大な夢に押し潰されて」。センターステージ上で横一列に並んだ21人のメンバーが、一人ひとり電飾のボックスの中でパフォーマンスを披露する。歌割りに応じてそのボックスが光り、どこで誰が歌っているのか分かる演出。幕張メッセという傾斜のない会場で、後方の客にもいまなにが起きているのか伝えようという工夫を感じた。どちらかというとクール系に振り切った構成である。セットリスト後半でも思ったのだが、良くも悪くも「クリスマス」感はない。このあとはめいめい代理センターの「ソンナコトナイヨ」。MCを挟んで、みーぱんセンター「アザトカワイイ」。正直な話、僕はここまでのパートはそれほど乗れなかった。座席がDブロックだったので、センターステージが遠くてメンバーがあまりよく見えなかったのだ。演出はカッコいいし、センターモニターに流れる映像も凝っていたけど、「遠くでやっているなあ」というガッカリ感が若干拭えず。「W-KEYAKI FES. DAY2」の富士急ハイランド・コニファーフォレストも「全国おひさま化計画 東京公演 DAY3」の東京ガーデンシアターも、はじめからそれなりにメンバーを近くに感じられたから、なおさらだった。

しかし、期生曲パートに入って、メンバーがトロッコで会場を移動し始めてから、自分の中でスイッチが切り替わった。一期生曲は「好きということは…」。あまりライブでは披露されないレア曲だ。まずはじめにみーぱんが近くを通った。彼女はセンターステージでもはっきりと目立つ、どこにいても目が向いてしまう生粋のスターオーラを放っているけれど、間近に来ると本当に惚れ惚れするぐらいカッコいい。カワイイよりカッコいいが勝った。そして、柱ステージにはまなふぃとおたけ。まなふぃは一生懸命に会場を見渡して、なるべく観客といっしょになろうと努めているように見えた。僕にはその姿がとても誠実に感じられた。横にいるおたけは残念ながら僕のいるブロックの方は向かなかったけれど、彼女もあちこちに目線を配りながら、ファンからのサインを一つひとつ拾おうとしていた。その動きがちょっとコミカルで可愛かった。

二期生曲は「世界にはThank you!が溢れている」。僕にとって日向坂の中でも屈指のお気に入りで、「W-KEYAKI FES. DAY2」の真夏のパフォーマンスでベタぼれした楽曲。イントロが流れた時点でガッツポーズ。バックステージからどんどん迫ってくる二期生を目で追いかけていたのであまり曲が耳に入ってこなかったが。僕のいるDブロックには丹生ちゃんと美穂が来た。丹生ちゃんはテレビで見るよりずっと「きれいなお姉さん」だという印象が強く残った。語弊があるかもしれないが、すごく「プロのアイドル」だった。美穂はすでにメチャクチャに汗をかいているのがわかって、ふと「やっぱり女バスなんだなあ」と妙な納得をしてしまった。僕の中で女子バスケットボール部はいつも楽しそうに汗を流しているイメージなのだ。とても柔らかくて優しそうな表情で客席に応えるのが強く目に焼き付いた。丹生ちゃんが明るく元気な「ニコニコ」だとしたら、美穂は慈しみの混じった「にっこり」って感じ。

三期生曲は「この夏をジャムにしよう」。これってクリスマスライブだよね?という考えが若干ちらついたが、目の前の柱ステージにみくにんが来てくれてどうでもよくなった。「W-KEYAKI FES. DAY2」で僕の目の前にトロッコで来たときは、おびただしいオタクに囲まれてちょっとビックリしているのかな?と思った(そして実際パフォーマンス後のMCタイムで「おひさまのみなさんが思っていたより近いし、顔がわかる」といった旨の感想を述べていた)が、アリーナツアーを経て、見違えるように堂々たるパフォーマンスを見せてくれた。あの瞬間、あのステージでは間違いなく彼女が場を支配する主役で、そのことを自覚して振る舞っているように見えた。しかし、そのあと二番に入って交代でステージに現れたひなのはもっとすごかった。表情や動きの精度がとても高い。僕のまわりの客みんながひなのの虜になっているのがわかったし、みんな彼女に感情の波まで操られているのではないかと思った。

その次は「嘆きのDelete」。かとしがひとりステージ上でソロ歌唱を披露。スモッグ炊きまくり、後ろから照明当てまくりで、もはや神々しさすら感じる演出。三期生が四人がかかりで制圧した幕張メッセの空気をたったひとりで塗り替えてしまうパワーだった。さらに舞台をバックステージに移して花ちゃんズが「まさか偶然…」を歌唱。「ひなくり2019」では柱ステージで別れてパフォーマンスしたことを「(鈴花が近くに居なくて)寂しかった」と涙したこのちゃん。「ひなくり2020」ではサプライズ復帰を果たし、そのときも泣いていた。「二回目のひな誕祭」では、富田鈴花が体調不良で欠席し、ひとりのパフォーマンス。ふたり並んで楽しそうにハーモニーを奏でる「ひなくり2021」の「まさか偶然…」はこれまでの花ちゃんズの歴史を振り返ると、大変感慨深いものだった。


思わぬ「クリスマスプレゼント」

そして、バックステージ上で「こんなに好きになっちゃっていいの?」、「川は流れる」、MCタイムをはさんで、「ホントの時間」のパフォーマンス…と続く。どちらもホーリーな雰囲気すら漂わせていて、まさしくクリスマスライブ!という強度だった。改めて3rdシングルのすばらしさを実感するパートだ。日向坂らしいキュートさもありつつ、しかし、ちょっと近寄りがたい高貴さすらある。「アディショナルタイム」から続くオープニングシークエンスにはいまいち乗り切れなかった僕が、たとえ遠くのステージであってもここに来てぐっとパフォーマンスにのめり込めたのは、単に楽曲が好きだからというだけでなく、期生曲パートでメンバーが会場を隅々まで回って、幕張メッセ全体のボルテージを一段上げてくれたからではないかと思う。あそこで僕もやっとこのライブの一員だと思えた。メンバーが近くにいなくても、一緒にいるという感覚を持てた。「ホントの時間」でバックステージと移動式の汽車ステージとで二手に分かれたメンバーはそのまま「何度でも何度でも」と「日向坂」を披露。「日向坂」をライブ中盤に持ってくるのは意外だったが、思ったより悪くない。「何度でも何度でも」とセットで聞くと、泥臭くも爽やかというこのグループの絶妙なバランスのすばらしさに改めて気付かされる。

このあとはセンターステージとバックステージを両方使ったパフォーマンス。僕の席からはどっちも遠いので、少々困った。まわりはだいたいバックステージを向いていたので、僕もそれに合わせていたのだが、ひとりだけ頑なにセンターステージに向かってペンライトを振り続けるおっさんがいてノイズだった。僕はメンバーが見たいのに、なぜ無表情でステージを見つめるおっさんと向かい合わなければならないのか。おそらくセンターステージの方に推しメンがいたのだろうが。こっちの身にもなってくれと思った。しかし、「My fans」と「キツネ」の炎対水の対決は幕張メッセの欠点をひっくり返す妙案だ。「HINATAZAKA46 Live Online, YES! with YOU! ~“22人”の音楽隊と風変わりな仲間たち~」で好評だった「キツネ」のバトル演出を彷彿とさせる、このライブのハイライトと言えるだろう。どっちを見ればいいのかわからなくて大変だったけど、とても楽しかった。さらにその後は6thシングル表題曲「ってか」を披露。「全国おひさま化計画」で観たときよりも洗練されている印象を受けた。一方、ライブも終盤に差し掛かり、クリスマスライブの趣旨からはだいぶ外れ、「全国おひさま化計画」との大きな差異を見いだせなかったのは事実だ。「キツネ」はいつものようにパチンコのようなテイストの鳥居ムービーが流れる(もはやここまで開き直ってトンチキ演出に振り切るとそれはそれで楽しいのだが)し、「ってか」はMVのにんじん怪獣が暴れまわり、メンバーががんばってそれを倒すという演出。「HINATAZAKA46 Live Online, YES! with YOU! ~“22人”の音楽隊と風変わりな仲間たち~」のストーリー仕立ての演出に強く惹かれ、少なからず「ひなくり2020」のような雰囲気を期待していた僕にとって、クリスマス要素が感じられないステージはちょっと期待はずれだった。「ひなくり2019 〜17人のサンタクロースと空のクリスマス〜」や「ひなくり2020〜おばけホテルと22人のサンタクロース〜」のようにサブタイトルが付いていない時点で、シンプルな構成は見越しておいてもよかったのかもしれないが。有観客ライブが解禁されてからはパフォーマンス重視のライブに切り替えたようだが、どこかでストーリー仕立てのステージは継続してほしいと思う。

ところで「ってか」の前にはバックステージのメンバーがトロッコに乗ってセンターステージへ戻るパートがあった。ここでは富田、影ちゃん、金村さん…が前を通った。もうひとりかふたり居た気がするけど、金村さんが近くに来るのわかった時点で気が気じゃなくなり、全部吹っ飛んでしまった。たぶん目の前を通る時間なんてせいぜい1,2秒だろう。それでもふだんテレビやラジオで追いかけている人がすぐ近くに居るとすごくドキドキするし、本当に存在するんだな〜とうれしくなった。「レスをもらいたい」というファンの気持もすごくわかった。そして「また来たい」と思ってしまった。このよろこびを胸にしまってもう少しがんばろうと思うには十分の体験だった。

最後はサンタクロース風衣装に着替えて「誰よりも高く跳べ!2020」、「思いがけないダブルレインボー」、「JOYFUL LOVE」の三曲を披露。「誰よりも高く跳べ!2020」は陽世が煽りを担当。「もっと声出してけ〜」って叫び始めてオイオイとなった。イントロはみんなでカスカスダンス。先日の「日向坂で会いましょう」で「全国おひさま化計画」東京公演では「春日さんが来ると聞いてカスカスダンスをやった」にも関わらず、結局一回も会場には来られなかったと明かされたが、どうやら今回はきちんと夫婦で観覧に来ていたようだ。「思いがけないダブルレインボー」は有観客ライブ初披露。音源だけ聞くと「乃木坂46のパロディ」にしか思えなかったが、CRE8BOYによる振り付け込みで見ると、そんなに悪くない。動きは激しくないものの、フォーメーションの移動がわりと複雑で、見ごたえのあるパフォーマンスになっている。最後は21人全員がトロッコに乗って客席の「虹」を渡りながら「JOYFUL LOVE」をパフォーマンス。ほぼすべての客席を、誰かしらが近くを通る演出。僕のブロックにはかとし、齊藤京子、キャプテン、みーぱん…が来たと思う。正直、ここも色んな人が一斉に来たので正確に覚えている自信がない。しかし、みんなから「一人も取りこぼさずにレスを返す」という気迫を感じた。

アンコール一曲目は「君しか勝たん」。みんなでスティックバルーンを叩くのは自分もパフォーマンスの一部になったようで楽しかった。ラスサビの大移動はテレビで見るとわかりにくいが、広めのステージだと迫力がある。その次はMCタイム。いつもは流暢なキャプテンのしゃべりが妙にたどたどしく、緊張しているように見えたので、これはなにか発表があるぞと思った。「3回目のひな誕祭」を東京ドームで開催する告知だった。ついにやってきた「約束の彼の地」である。そのままの流れで「約束の卵」を披露。聖なる夜の祭典は、思わぬ「クリスマスプレゼント」の衝撃の余韻とともに幕を閉じた。

僕の座席はセンターステージもバックステージも両方遠く、全員パフォーマンスの醍醐味を肌身で感じる機会は少なかった。コニファーフォレストや東京ガーデンシアターに比べると「ライブに来た」という感動は弱かったと思う。一方、メンバーが近くに来てくれるパートもたくさんあって、最大瞬間的な興奮はこれまでのライブでいちばんだった。どっちを重視するかによるけれど、僕はレスを返してもらうより、ステージで躍動するメンバーのパフォーマンスをこの目と耳で感じたいので、もうすこし小さい箱でじっくり観たいと思った。発声ありだったら違うのかもしれないけど。


日向坂46の第三章


小坂菜緒のセンターと共に駆け抜けたデビュー2年間が「日向坂46の第一章」だとしたら、みーぱん、かとし、金村さんの3人でバトンを繋いだコロナ禍の2年間は「日向坂46の第二章」だ。そしていよいよ東京ドーム公演をもって「日向坂46の第三章」がやってくる。良くも悪くも「3回目のひな誕祭」の前と後では、グループの形は大きく変わるだろうと思う。本来は2020年の冬に迎えるはずだったひとつの節目は、コロナ禍の混乱によって、二度の「見送り」の憂き目にあった。2022年の「ひなくり」を待たずして、東京ドーム公演を持ってきたのは、さまざまな事情はあろうが、もはやこれ以上の先送りはグループの停滞を意味するということだろう。常に「変化」を示し続けならない宿命を背負うグループアイドルにとって、この2年の社会情勢は大きな困難だった。日向坂はこの逆境を跳ね返し、むしろうまく波に乗れたと思う。

しかし、これは「日向坂46の第一章」の延長戦だった、という見方もできる。「日向坂46の第二章」は、ひらがな時代の「ハッピーオーラ」から築き上げてきたグループの強みを存分に生かした2年だった一方、この方向性を極めた先の限界もまた見えてきてしまった。まちがいなく「日向坂46の第二章」はグループ最初の全盛期である。基本的にグループアイドルは一期生がいる間が強くて、中心メンバーが抜けていくと徐々に衰退していく。10年近く人気が衰えない乃木坂46は例外中の例外だ。日向坂一期生のアイドルとしてのキャリアはそろそろ円熟期に突入しつつある。みんな自分の強みを自覚しはじめ、それぞれの進むべき道を見つける段階に入っている。僕が心配しても仕方ないのだが、ここまでずっと坂道を駆け上ってきたグループにとって最初の大きな壁はすぐ目の前に迫っていると思う。日向坂46は「箱推し」が多いと言われるし、グループの「密度の濃さ」がファンを引きつける大きな魅力であることはたしかだ。だからこそ「変化」がとてもむずかしい。「B.L.T.」8月号の「ごりごりドーナッツ」特集や、「BRODY」2月号の「一期生」特集でメンバーたちが口を揃えて言う「全員せーので解散したい」という展望は、あながち冗談ばかりではないのかなとも思う。

「日向坂46の第三章」がグループの今後を決定づける分水嶺になるのは確実だ。そういう意味で、いちライブの演出とはいえコロナ禍のオンラインライブで好評だった「ストーリー仕立て」の選択肢を「ひなくり2021」であっさり捨ててしまったのは、若干不満だった。これを「日向坂46の第二章」の集大成と位置づけるならば、正直、物足りない内容だったからだ。しかし、このへんの評価はあとから確定されるものだと思う。「日向坂46の第三章」始動を目論むならば、どこかで「日向坂46ドキュメンタリー第二弾」が来る気もしている。「3年目のデビュー」と「日向坂46ストーリー」で新規ファン向けの「正史」を提示したので、「日向坂46の第三章」を楽しむための補助線は改めて示されるだろうと思うからだ。正直、「日向坂46の第三章」がどういうものになるのかはまったくわからないし、いまが最高の状態なので「変化」に対する願望もあまりない。でも、ひとつ言えるとしたら、近いうちに丹生ちゃんのセンターが来るかもしれない、ということ。こさかなセンターが創り上げた日向坂46の根幹が「初々しさ」にあり、「アザトカワイイ」〜「ってか」がキャッチーさを重視した王道感にあるとしたら、次に日向坂のカラーを方向づけるのは丹生ちゃんのキャラクターしかない気がしている。この答え合わせは楽しみ半分、不安半分といったところだ。

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