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「キョコロヒー」:水曜深夜の異空間

日向坂の出演番組を追いかけていると、たいして興味のなかった共演者の芸人もいっしょに好きになってしまうことがある。冠番組「日向坂で会いましょう」のオードリーはもちろん、吉本臭がキツくてどちらかというと僕の中では「嫌い」のカテゴリーだった小籔千豊も「HINABINGO!」を見ているうちに好感を持つようになった。配信番組だと「大好き!日向坂」のアンタッチャブル柴田やアンジャッシュ児嶋、「日向坂46です。ちょっといいですか?」のゲスト陣…。あくまで日向坂が主役なので、MCやゲストもいろいろ気を遣うのだろうけど、その優しさや包容力にふれて、なぜだか僕もうれしくなってしまう(よく考えたら誰目線?ってなるけれど)。

その極地が四月からはじまったテレビ朝日の深夜番組「キョコロヒー」である。齊藤京子を目当てに見ていたはずが、いつのまにかヒコロヒーの方を応援するようになっていた。暴力的なまでに噛み合わないふたりのオフビートなトーク。あらゆるこちらの予想を裏切って暴れまわる齊藤京子を、上品だが棘のあることばで制し続けるヒコロヒーはさながらベテラン闘牛士だ。LINEの連絡先を交換したり、バラバラ大選挙一位をよろこびあったり、仲良くなったと思ったら、急に齊藤京子が不用意な発言をして不穏な空気が流れてしまう。演者とスタッフの信頼関係のうえに成り立つ「TVショー」だとわかっていても、時々見ているこっちがヒヤヒヤする瞬間がある。いったい齊藤京子の頭の中はどうなっているのだろう。一応「ダンスバラエティ」がテーマの番組だけど、彼女は何者なのか?どうやったら適切な距離感をつかめるのか?という謎の究明が裏テーマと言っていいかもしれない。このご時世にスタートした番組だけあって最初からずっとふたりのあいだにはアクリル板が立っているのだが、壁越しに会話する少々間抜けな絵面(これは仕方ないとはいえ最近のバラエティ番組全般に言えることだ)が、掛け合いのシュールさを際立たせている。

それもこれもヒコロヒーがその寛大すぎる心で齊藤京子の狂った発言を受け止め、絶妙な角度から突っ込んでくれるからだ。地上波放送分はまだいい方で、YouTubeの未公開配信分は「さすがにそれはマズイだろ」「よくヒコロヒーは受け身を取れたな」と驚愕する内容で溢れている。齊藤京子を理解していなければ、たぶんムリだと思う。おそらくすべての芸人のなかでヒコロヒーがいちばん彼女の扱い方を心得ている。オードリー若林よりもだ(大阪のラジオは聞けないので、そこでの「おきょん」の扱いはよくわからないが)。齊藤京子もそのことをよくわかっていて、だからこそヒコロヒーに全身を預け、自由に暴れまわっているのだろう。とにかく、このふたりの組み合わせで企画書を書いた人は天才だと思う。

こんど「バラバラ大選挙」一位の特典として特番の放送があるらしい。どんな内容になるか楽しみだが、「ふたりのトーク中心」という土台は崩さないでいてほしいと思う。ゲストを呼んでも、齊藤京子とヒコロヒーのふたりだけという空間は守ってほしい。あえて3人目を加えることで壊される均衡、あらたな化学反応もあるかもしれないが。この番組のスタッフなら絶妙なラインを突いてくれると思うので期待している。

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