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逆風に立ち向かう力強さ:日向坂46 6thシングル「ってか」

PCのキーボードが壊れた。「a」と「o」が反応せず、ほぼ使い物にならなくなった。しかし、だからと言って困ることもなく、一ヶ月近く放置してしまった。当然、noteの更新も滞っていた。きょうやっと新しいPCを買ったので、このように文章を書いている。しかし、この空白の一ヶ間にも、日向坂46は着実に活躍の幅を広げていた。

たとえば、全国アリーナツアー「全国おひさま化計画」の巡業開始。あるいは、濱岸ひよりのファッション誌「with」専属モデル就任。そして「キョコロヒー」のバラバラ大選挙優勝と時間帯昇格、日向坂46の準レギュラー番組「X-MOMENT Presents CHOTeN ~今週、誰を予想する?~」や、このちゃんの冠ラジオ番組「日向坂46松田好花の日向坂高校放送部」の開始。さらには、金村美玖のジェニーハイ「夏嵐」ミュージックビデオ出演。こうやって並べてみると、ひよたんのモデル、齊藤京子の「時間帯昇格」の野望、このちゃんのラジオ、丹生ちゃんのゲーム、お美玖のアート路線…いずれも本人発信の「夢」や「得意なこと」が実現している。マネジメントのお仕事の振り分け方もうまいのだろうけど、なにより、メンバーの努力の結果だろう。彼女たちなら、まだまだファンに夢を見させてくれそうだ。

なんと言ってもいちばんのニュースは、6thシングル「ってか」のリリースと、金村美玖のセンター抜擢だ。1stシングル「ひなたざか」のセンターに佐々木美玲が抜擢され、こさかな固定起用の「日向坂46第一章」にひと区切りがついた後、5thシングル「君しか勝たん」のセンターに加藤史帆が選ばれた流れを踏まえ、ファンのあいだでは齊藤京子を次期センターに推す声が多かった。なので、なんの予告もなくいきなり「日向坂で会いましょう」のエンディングでシングルのリリースとフォーメーションを発表した唐突さも含めて、金村美玖のセンターは若干のサプライズ感をもって受け止められたのだ。かくいう僕も彼女の表題曲センターが見られるのは「約束の卵」以降だと思っていたので、予想より早いタイミングでの抜擢にはびっくりした。しかし、振り返ってみれば、これは当然の流れでもあったのだ。去年の夏公開のドキュメンタリー映画「3年目のデビュー」で彼女の「青春の馬」代役センターが特集され、直接ライブに行けなかったファンのあいだでもそのパフォーマンス力に注目があつまった。さらに「君しか勝たん」ヒット祈願「チアリーディング」企画での堂々たるダンスや、音楽特番「ラフ・アンド・ミュージック」での「Butter」ダンスカバーのセンターパフォーマンスでは、グループの中心でこそ発揮される彼女の輝き、これまでの日向坂センター像とは異なる、ひとりで楽曲の世界観を背負う力強さを証明している。だから、僕は驚きつつも、納得感をもって彼女のセンター起用を受け入れることができた。なにより、僕自身が「金村美玖センター」が来る日を待ち望んでいたので、とてもうれしかった。

肝心の表題曲について考えよう。タイトルの「ってか」は、例のごとくインパクト重視の軽率な戦略か…と思ったが、楽曲を知った上で聞くと、当初の印象ほど悪くはない。しかし、バズリ重視のわりに単体ではトレンド入りしない言葉選びだったり、発表直後にハッシュタグを変更するお粗末さや、発表当日朝のゲリラ的にポスターを置いた場所が辺鄙すぎて滑ってしまったり…といったゴタゴタを見ると、どこまで深く考えてこのプロジェクトを進めているのだろうか…と不安になってしまう。「レコメン!」でかとしがタイトルを示唆して「ぴえんでは?」なんて騒がれていたときの絶望感に比べれば、だいぶ救われた気もするけれど。

楽曲は、個人的にはこれまでの表題でいちばん良いと思う。疾走感がありつつも、爽やかで、坂道アイドルらしさが全面に出ている。「アザトカワイイ」や「君しか勝たん」もメロディ自体は悪くないのだが、このあと触れる通り、歌詞が邪魔をしていて素直に聞けなかったので、せわしないサウンドでそこらへんの違和感を後景化した策が奏功しているように思う。坂道楽曲にありがちな謎の男声コーラスもなく、非常に聞きやすい。女声ユニゾンで単調にならないようスパイスとして足しているのかもしれないが、基本的にキモいだけ(「君しか勝たん」Aメロ前の「タラッタッタッター」は史上最悪である)なので、今回の編曲はとても好感が持てる。YOASOBIのAyaseを意識したであろう、ピアノの旋律が主張するサウンドも悪くない。

坂道では、最近のボカロ楽曲ブームにならって「ジェネリックYOASOBI」の曲をいくつか作っており、「ってか」もその流れに位置づけることができる。おそらく最初は櫻坂46 デビューシングルのカップリング曲「なぜ恋をしてこなかったんだろう?」だと思われる。ファンのあいだではMVの完成度の高さもあいまって「表題より良いのでは?」なんて声も漏れ聞こえてきた。乃木坂46 27thでは表題曲「ごめんねFingers crosssed」で、ふたたび「ジェネリックYOASOBI」が登場。こちらは逆にトンチキMVの評判が著しく悪かったが、「ってか」にて三度目の採用と相成った。メロディだけ聴くと「ごめんねFingers crosssed」のほうがよっぽどボカロ楽曲の影響を受けていて、「ってか」はむしろ懐かしさすら覚える。詳細な分析はもっと音楽に造詣が深い人に任せるが、今回は編曲による味付けがうまくいったパターンなのではないかと思う。

最近叩かれがちな秋元康による歌詞も、それほどノイズにならない。デビュー曲「キュン」以降、日向坂の表題曲はほぼ一目惚れ男子の片思いソング一辺倒だったが、「ってか」は女子目線の物語になっている。これは表題曲だと「こんなに好きになっちゃっていいの?」以来である。カップリングでは「抱きしめてやる」や「My fans」が挙げられる。いずれも曲調は比較的「カッコイイ系」で、初々しい王道アイドルソングを得意としてきたグループの表題曲で、しかも、金村美玖センターの楽曲にこの歌詞を持ってきたのはとても良い判断だと思う。「可愛いから好きになっただなんて 全然ピンとこないのよ」というフレーズは、ある意味、これまで「カワイイ系」で攻めてきた日向坂の自己言及とも捉えられるだろう(ぜんぶ歌詞書いているのお前じゃねーか!と秋元康には突っ込みたくなるが)。また、この楽曲の「男には媚びない」スタンスは、金村美玖のまとうクールなオーラには符合するところがあり、日向坂の楽曲では珍しく「当て書き」っぽさもある。

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振り付けはひらがなけやき時代からグループを支えてきたTAKAHIROが担当している。これまでシングル表題曲を担当してきたCRE8BOYは、乃木坂46 28th「君に叱られた」の振り付けに起用されており、現在発表されている限りでは「ってか」楽曲には参加していない。全体カップリング曲の「何度でも何度でも」は、「キツネ」や「ホントの時間」を振り付けた木下奈津子が担当している。TVサイズ向けのキャッチーなダンスを得意とするCRE8BOYに対し、日向坂46のライブ演出(ステージング)も行っているTAKAHIROは、ステージ全体の使い方まで織り込んだ、演舞的なダンス演出がうまい。今回の「ってか」は、まだMVを通して断片的にしかパフォーマンスを見られないため詳細な分析ができないものの、かなりダイナミックで激しいダンスのようだ。これも「青春の馬」の代役センターで魅せた金村美玖の情熱的なダンスを、うまいぐあいにグループ全体の動きに馴染むように取り込んでいる。歌詞もふくめて全体的な印象は「抱きしめてやる」に近く、そこはかとない「ひらがなけやき臭」を感じるのは僕だけだろうか。

最後にMVの話をしよう。撮影は「ソンナコトナイヨ」以来の屋外ロケ。「日向」を名乗るからには、太陽のもとでパフォーマンスする姿が見たいと常づえの思っていたし、じっさい炎天下の「W-KEYAKIFES.」でのメンバーの輝きはすさまじかったので、ひさびさのロケMVは大歓迎だった。じつは事前にロケバス運転手がうっかり情報をお漏らしして、MV撮影が屋外で行われたことはすでにバレていたのだが、まさかソフトクリームの形をした敵と戦うヒーローモノ(あるいは戦隊モノ)風のビデオだとは思わなかった。「ザ・スーサイド・スクワッド」のクライマックスを思い出さずにはいられなかったが、クールビューティーを追求しつつも、アイドルMVらしいチョケ要素も忍ばせていて、非常にすばらしい。かとしのスーパーヒーロー着地は面白いし、間奏の各メンバーによるソロダンスは見ごたえがある。衣装もパンツスタイルでありながら大きめのプリーツが付いているため風に靡くと華々しい。各メンバーごとに異なるグラデーションで染められているのもこだわりを感じてポイントが高い。「カッコイイ」と「カワイイ」を両立させ、ときに「オモシロイ」も盛り込んだ「ってか」のMVは、「日向坂らしさ」をこれまでと違う角度から照らすと同時に、泥臭くもクールであろうとする金村美玖の魅力を存分に引き出しているといえる。

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また、グループからはぐれてしまったメンバー(金村美玖)には誰かが手を差し伸べ(としきょんシンメ!)、全員で力を合わせて「逆風」に立ち向かう(最後に、金村美玖はみんなの力を借りて、ソフトクリームの敵に最後の一撃を喰らわせる)一連のストーリーも、日向坂46がこれまで大事にしてきた価値観そのものである。「逆風」のなかにオレンジ色のコロナウイルスらしき障害物が紛れているので、この「逆風」は日向坂46に立ちはだかる昨今の情勢と考えてもいいかもしれない。「君しか勝たん」や「どうする?どうする?どうする?」、あるいは高橋未来虹個人PV「そういえば、あの頃」ですでに示唆されてきたコロナ禍における不定形のアイドル像、言い換えれば、がむしゃらに走り続けてきた「キュン」から「ソンナコトナイヨ」まで「小坂菜緒センター期」の頃に思い描いていたのとは全く異なる未来で、満足に活動できない中、いかにグループとして成長していくのか?といった答えのない問いに対する、日向坂46なりの決意表明として、僕はこのMVを受け止めようと思う。

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