見出し画像

日向坂46「君しか勝たん」各楽曲とプロモーション期間を振り返る

約1年ぶりのシングル「君しか勝たん」のプロモーションが一巡した。日向坂のファンになってからはじめてのシングルリリースは、毎日がお祭りのようで楽しかった。MVのプレミア公開に、個人PVの予告編、それから連日のバラエティ番組出演…と、あまりの露出の多さにすべてを追うのを諦めたほどだ。うれしい悲鳴である。

気になる売り上げも、握手会が開催できない中、かなり奮闘した部類と言えるだろう。乃木坂や櫻坂など先輩グループはCDセールスの数字を落としていたが、日向坂は初週約50万枚のすべり出しでなんとか微減に留まった(「ソンナコトナイヨ」は約55万枚)。この状況でなければ間違いなく60万以上売り上げていたであろうペースだ。しかし、ビルボードのヒットチャートではBTSの「Butter」に一位の座を譲っている。さすがに世界的スター集団が相手では分が悪いとはいえ、最近のヒットチャートはCDの販売枚数の影響を抑えるように係数をかけており、「握手会商法」がすでに時代遅れの戦い方であることを改めて突きつけられた。正直、僕もこのやり方はファンになる前も、なってからも良いものだとは思っていない。グループの発展を考えれば、そろそろ戦い方を変えなければならないのは明らかだろう(僕も特典の個人PV見たさに4パターン買っているから、このビジネスに加担しているのは事実だけど)。

今回のnoteでは、各収録曲について感想を述べつつ、ここ数週間の「君しか勝たん」プロモーション期間(というお祭り)を振り返りたいと思う。


表題曲「君しか勝たん」の抱える問題点

表題曲「君しか勝たん」は、多くのメンバーが云うには「スルメ曲」らしい。噛めば噛むほど味が出るということだ。正直、グループの名前を売り出す表題曲が、なんども噛まないと味がしないようじゃ困る、と思う。戦う土俵が違うかもしれないが、NiziUがプレデビュー曲「Make You Happy」で旋風を巻き起こし、2ndシングル「Take a picture」でキャッチーさはそのままに、チアフルな輝きを上乗せした楽曲でファンの心をがっちり掴んでいった様を見ていると、ちょっと悔しくなる。商店街のスピーカーやテレビの歌番組で流れてくる音をふと耳にしただけで「ああ、日向坂の曲ね」となるぐらい、一発でガツンと食らう曲がほしい。

ただ、表題曲云々を抜きにして聴けば、「君しか勝たん」はそれほど悪くない曲だと思う(ようになってきた)。あいかわらず秋元康の歌詞は全然メロディにハマっていないし、肝心の「君しか勝たん」というフレーズは「かったんー」と少々間の抜けた響きで当てられている。そもそもタイトルとメンヘラみたい歌詞が合っていない。しかし、秋っぽい切なさ(春曲だけど)を漂わせた曲調は、たしかになんども聴いているとクセになってくる。バズ狙いの「キュン」路線が続く中、ひさびさにしっとり系が来たのは、良い兆候だと思う。センター・加藤史帆の歌唱力を活かした一番のAメロは、まるまる彼女のソローパートになっていて聴き応えがあるし、メンバーのダンススキルを信じた複雑なフォーメーション移動もチャレンジングだ。特にオチサビ後の大移動は音楽番組で見ても迫力があった。

「君しか勝たん」のプロモーションでは、レギュラー放送の歌番組をおそらくすべて制覇している。おかげで各番組のカラーや技術力を比較することができた。個人的なお気に入りはフジテレビの「MUSIC FAIR」とNHKの「うたコン」だ。「MUSIC FAIR」はダイナミックなフォーメーション移動の面白さを捉えつつ、各メンバーのソロショットも可能な限り抜いていて、全体のバランスがすばらしかった。「うたコン」はいまどき民放の歌番組ではまず見られない生オーケストラをバッグにした生歌披露(被せかもしれないけど)。音源とは異なるこの場限りのアレンジは、「君しか勝たん」により爽やかで夏らしいカラーを加えてくれた。映像の美しさでは「ミュージックステーション」がダントツのクオリティを見せている。その他の音楽番組ではときにステージが暗く、光量不足で映像にノイズが入ってしまうことがあった。一方、「ミュージックステーション」はおそらく照明の数が多く、光の当て方も工夫しているのだろう。ステージはとても明るく、メンバーの顔は鮮明に見えるし、ノイズが一切入らない。老舗番組の経験値のちがいを見たと思った。

しかし、残念ながらフルサイズ&ロングショットが売りの「CDTVライブ!ライブ!」では、残念ながら迫力よりも見にくさが上回っている。「MUSIC BLOOD」や「シブヤノオト」、「プレミアMelodiX!」も同様で、カット割りが多すぎて目が回りそうになった。この原因はハッキリしている。フォーメーション移動が複雑過ぎる上に、歌割りがいびつなのである。「アザトカワイイ」では、前列と後列の境目なく自由に行き来しつつ、テレビ披露用の「見どころ」はしっかり用意されていた。どこの歌詞で誰を抜けばいいか、誰を抜いてほしいかのメッセージが明白なのだ。一方、「君しか勝たん」は個々の見せ場よりも「全体の動き」の魅力を重視している。言い方は悪いかもしれないが、一人ひとりのメンバーはマスゲームのコマとして動くのである。だから、歌割りにないメンバーは客席から背を向けることすらある(ここは「CDTVライブ!ライブ!」がわかりやすいので、見られる人は是非確認してほしい)。さらに、なぜか一番(テレビサイズ)に二列目単独の歌割りがない。Aメロはセンター・加藤、Bメロはフロントの小坂&金村、丹生&河田で展開し、サビ前は三列目が交互に前に出て歌っているため、テレビサイズだと本来出番が多いはずの二列目の映る機会がまったくないのだ。裏センターの齊藤京子と両脇の高本&佐々木は小阪&金村パートでふたりの前にしゃがんでいるのでまだ映りやすいのだけど、両端の渡邉美穂と上村ひなのは完全に割りを食っている。みんなを目立たせるための工夫が裏目に出てしまったのだ。正直、個人的に今回のパフォーマンスの組み立ては失敗だと思う。これまでの各メンバーの見せ場までこまかく配慮した采配がすばらしかっただけに、消化不良の残る内容だった。


全体カップリング曲「声の足跡」&「膨大な夢に押し潰されて」

5thシングルのフォーメーションはいくつかのサプライズがあった。まず、加藤史帆のセンター抜擢と、それに伴う「としきょん」シンメの解体、高本彩花の二列目復帰。それから「声の足跡」の佐々木美玲&丹生明里のダブルセンター。そして、一期生曲の東村芽依のセンター起用。しかし、よく考えてみると、これらはサプライズと旧来のバランスの確保を両立させた、絶妙な采配であることに気づく。

まず、「としきょん」について。ふたりはグループを引っ張る二大人気メンバーのため、シンメを崩すのにはなかなか勇気が要る。しかし、振り返ってみると2021年の上半期は「きょんことかとし」の半年であり、それぞれにスポットライトが当たるように計算されていたのだ。2月発売の写真集「とっておきの恋人」で齊藤京子が改名デビュー後のソロ写真集いちばん乗り。一方の加藤史帆は5月リリースのシングルで初センター。ふたりとも、一ヶ月ずつ「グループの顔」になる期間が与えられた。そして、シングルでは加藤史帆が外仕事で前面に出る一方、齊藤京子も表題曲では裏センター、一期生曲ではセンター横のポジションを当てられており、とても大事に扱っているのが分かる。しっかりふたりに花を持たせているし、だからファンも納得感をもって受け入れることができたのではないかと思う。ここらへんのバランス感覚は1月に書いたセンター予想の記事通りになったので、結構うれしい。

また、そうなると前回アルバムリード曲でセンターを務めた佐々木美玲は…となるけど、ここも抜け目なくポジションを用意している。日向坂46主演ドラマ「声春っ!」では主役を務め、主題歌「声の足跡」でもダブルセンターの一角を担う。前作センターとなるとフロントに下げるのか、それとも二列目にするのか、置き場所が難しいところだけど、彼女に「声春っ!」軸の座長を任せ、表題曲では二列目の足場固めにまわすことで、フロントに「なおみく」を残しつつ、丹生&河田のコンビを前に引っ張り出すのに成功している。「声の足跡」を単独センターにせず、丹生明里の挑戦の場にしたのもすごく良いと思った。いずれは彼女も表題曲センターに…と期待させてくれるし、なにより「大人っぽい丹生ちゃん」という新機軸の足がかりにもなっているからだ。以前の「声の足跡」MV考察の記事でも書いた通り、彼女のシリアスなパフォーマンスは「けやき坂46」のイズムを残しており、天真爛漫なだけではないもうひとつの魅力がいかんなく発揮されているのだ。

ところで、このように緻密に(といっても僕の推測だけど)設計された「声の足跡」に対し、もうひとつのカップリング全体曲「膨大な夢に押し潰されて」はいまいち立ち位置がつかめない。全体の雰囲気は「どうして雨だと言ったんだろう?」に続く一昔前のアニソン路線。ギターをジャカジャカ鳴らして熱くまとめる曲調はメンバーからの評価も高いようだけど、正直、僕は「またこのタイプか」と思ってしまった。歌詞も「ただがむしゃらに」と被っている。番組サポーターを務める「高校生クイズ」の主題歌になるのでは?と憶測も飛び交っており、結果次第では見方を変える必要があるけれど、すくなくとも現時点ではこの曲をどう使いたいのか見えてこない。どうせなら音楽面でもっと遊んでみればよかったのにと思う。

同じ感想は表題曲センター・加藤史帆のソロ曲「嘆きのDelete」でも抱いた。これは完全に好みの問題なので大変申し訳ないのだけど、ラジオ初解禁の音源を聴いて以来、ほとんど聴いていない(この記事を書くためにひさびさに聴き直した)。どうしてこの手の「懐かしのアニソン調」が多いのだろうか。一曲ならともかくこう何曲も続いてしまうとさすがに手数が少ないのではと思ってしまう。彼女の歌のポテンシャルを引き出すという意味でも、個人PVの「Sing for you」の方が良かった。「嘆きのDelete」は「どうして雨だと言ったんだろう?」で魅せた低い歌声を活かした曲調だけれど、こちらは「男友達だから」に近いかもしれない。


良作ぞろいの期生曲

期生曲に関しては、以前MVが公開された際に第一印象をまとめている。今回はここで触れられなかった点について書いていきたいと思う。

まず注目したいのは二期生曲「世界にはThankyou!が溢れている」だ。先ほど触れたフォーメーション采配のうまさがここにも出ている。小坂菜緒のセンター起用だ。彼女は「ソンナコトナイヨ」をもって一旦センターの座を下がり、「アザトカワイイ」「君しか勝たん」とセンター横のポジションに就いている。彼女はフォーメーション発表後に更新したブログで、気になることを書いている。

私にとっては、楽しみな反面不安もあるけれど、与えられたことを全うする他ないですから。自分のペースで少しずつ、形作っていけるといいなと思います。

なんか難しいですよね。ここにきて改めて思うことも、少なからずあるけれどそれを、包み隠さず、全部お話しすることは不可能に近くて。皆さんも様々な場面で遭遇している気持ちなんじゃないかなとも思います。

これを言うことは果たしていいことなのだろうか…頭の中で何回も何回も考えて、紡ぎ出す言葉に、その人の丁寧さが伝わってくるような気がします。

全然内容が逸れてしまいましたが、、、自分らしくいることを目標に頑張りたいと思います

この記事がアップされたときは、ファンの間でもちょっとした憶測を呼んだ。彼女は頭がいいからどのようにも受け取れる文章を書く。だからあくまでこれは僕の想像に過ぎないのだけど、やはり彼女もセンターに選ばれなかったことが少なからず悔しいのではないか。いまの自分の気持ちを素直に吐き出すのは難しい、分かる人だけが察してね…というのは、きっとどれだけもっと前に出たいと野心を燃やしても、いまは「センター小坂菜緒」のタイミングではないとわかっているからだと思う。少なくとも彼女が現状のすべてに満足しているわけでないことは読み取れるだろう。

話を戻すが、今回、二期生曲のセンターに小坂菜緒が選ばれたのは、ある意味当然の結果とはいえ、とてもいい采配だと思った。「どうする?どうする?どうする?」のように、カップリング曲だからこそ新しいフォーメーションに挑戦するのもいいのだけど、ここは人気・実力ともにグループのトップである彼女に任せることを選んだのだろう。表題曲で新センター抜擢のサイクルをまわす中、二期生曲では小坂菜緒にしっかりエースの仕事をしてもらう。5thシングルの収録曲はどれも加藤史帆、齊藤京子、佐々木美玲、丹生明里…みんなにスポットライトが当たるように練られたすばらしいフォーメーションになっていると思った。

また「世界にはThankyou!が溢れている」の作曲・編曲は、おなじみの野村陽一郎だ。彼はこれまで「キュン」「ドレミソラシド」「ホントの時間」
「ママのドレス」の作曲・編曲を手掛けている。「日向坂サウンド」の担い手といっても過言ではないだろう。「世界にはThankyou!が溢れている」もじっくり聴いてみると、じつはいちばん正統派の「日向坂サウンド」になっていることがわかる。もしかしたらもともと表題曲用に作られたものが最終的にカップリングに回されたのかもしれない。それぐらい完成度の高い曲だと思う。振り付けはCRE8BOYだが、こちらはサーカス風のメルヘンチックな雰囲気にぴったりの内容になっていてすばらしい。僕は「君しか勝たん」より、こっちの方が好みだ。

三期生曲「Right?」は正統派アイドルソングの趣き。「この夏をジャムにしよう」に続き、末っ子4人にしか出せない無邪気でポップな明るさに溢れている。いりぽん先生による振り付けも(いい意味で)おしゃれ過ぎず、この妙な垢抜けなさが三期生の現在地をビビッドに表現する。以前のnoteでも触れたとおり、MVは上村ひなののスキルの高さが光っていた。自分のパフォーマンスがどう映るのか、どのように見せればいちばん魅力的なのかをわかっているのだろう。どのショットで切り取っても惚れ惚れするほど美しい(特に浜辺の場面!)。しかし、新三期生の3人も負けていない。髙橋未来虹はすでに堂々たるパフォーマンスで頭一つ抜けたポテンシャルの高さを見せつけた。山口陽世も笑顔がだいぶ自然になって、気後れみたいなものはほとんどなくなってきたように思う。森本茉莉は後日個人PVの感想記事で詳しく触れたいが、可愛い系からサイコパス系まで幅広い表現の可能性を感じる。「アザトカワイイ」に比べても表情が豊かだし、きっと来年の彼女は別人のように進化しているだろう。

一期生曲「どうする?どうする?どうする?」のセンター・東村芽依はサプライズだった。彼女のわきを固めるフロントが齊藤京子と高本彩花のコンビなのも面白い。ふたりでセンターを取り合う構図というわけだ。そして、二期生曲には個別の歌割りがないが、こちらはAメロの東村芽依から始まり、佐々木久美、齊藤京子、高本彩花…と全員にソロパートが用意されている。個人的には高瀬愛奈のパートが好きだ。最近は「日向坂で会いましょう」や「レコメン!」でも積極的にピックアップされており、みんなが彼女の飛躍をサポートしている。年初に「日向坂新聞」でキャプテンと加藤史帆が語っていた「あとはまなふぃ」の実行である。それはまるでダイアンに東京でも活躍してもらおうと躍起になっている千鳥やかまいたちのようだ。

また、この曲もダンスがとても魅力的だ。振付師は「キツネ」や「ホントの時間」の木下菜津子。サビ終わりの「お手上げ~」とでも言いたげな腕プラプラのポーズがとてもカワイイ。これを東村芽依がやるからなお良い。日向坂といえばCRE8BOYかTAKAHIROがおなじみだけれど、僕は木下菜津子の名前も覚えておいたほうがいいと思う。先に挙げた二組はキャッチーさの中にもカッコいい動きを取り入れ、全体をギュッと締める印象があるけれど、彼女はより「アイドルらしい」ダンスをつくる振付師なのではないだろうか。一期生のワチャワチャ感がちょうどよく盛り込まれた、すてきな振り付けに仕上がっている。


まだまだお祭りは続く

このプロモーション期間は、なによりテレビ出演が多かった。いま乃木坂46が新しいシングルの宣伝で各番組を行脚しているけれど、そんな先輩に引けを取らないぐらいの勢いでテレビに出ていた。毎日のようにゴールデン番組で見かけたし、その物量は「アザトカワイイ」の比ではなかった。「日向撮」の宣伝期間からシームレスにつながっていたので、なおさらたくさん露出しているように見えたと思う。「オトラクション」や「しゃべくり007」など、丸々メインの企画として扱ってくれる番組も多く、5月末の二週間は毎日たのしく過ごすことができた。逆にテレビ出演でこれ以上って望める?と不安になるぐらいの活躍だ。

いまテレビ業界はターゲットの年齢層を下げた番組作りをしている。第七世代やアイドルの出演枠が増える中、日向坂46はうまいことその枠にハマったらしい。あまりに急に露出が増えたのでちょっと戸惑うぐらいだけど、このあとは小坂菜緒の「ヒノマルソウル」と「君は誰?」のプロモーションがあるし、来月は「W-KEYAKI FES」、8月には影山優佳が出演する「かぐや様は告らせたい2」の封切りだ。そのあとはもしかすると次のシングルも…。ことしの後半もまだまだ楽しいことが続きそうである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?