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「アザトカワイイ」MVを考察してみる

日向坂46 1stアルバム「ひなたざか」のリード曲「アザトカワイイ」のミュージックビデオが解禁された。

音源を聴いたときは「キュン」以降のシングル表題曲を踏襲した王道アイドル路線で置きに行ったなと思ったけど、ミュージックビデオを見てその印象が少し変わった。「アザトカワイイ」自体は明るく可愛らしい曲調にもかかわらず、映像は「青春の馬」を思わせるシリアスなトーンもまとっている。時折差し込まれる幻想的なショットは意味ありげで、なかなか考察しがいある内容となっている。それでいてチグハグにはならず「日向坂らしさ」全開の爽やかなミュージックビデオにまとまっているのはさすがだ。今回はそんな「アザトカワイイ」のミュージックビデオを僕なりに読み解いてみたいと思う。

※ 今回スクリーンショット多めなので閲覧環境によっては重いかもしれません。

1. 日向坂46らしさ溢れる衣装

「アザトカワイイ」の衣装は3パターンあるようだ。いずれも日向坂46らしい爽やかで可愛らしいデザインとなっている。

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メイン衣装は日向坂46のグループカラーである水色と、けやき坂46時代の「期待していない自分」を連想させる白を組み合わせたクールなデザインだ。スカートの先のひだのパターンも「期待していない自分」を強く意識しているように見える。日向坂46初のアシンメトリーのデザインはインパクトも抜群で、センター佐々木美玲らしいカッコよさも兼ね備えており、すばらしい衣装になっていると思うが、乃木坂46「Route246」の衣装と若干フォルムが被っている気がしなくもない。

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もうひとつの新衣装はメイン衣装のモチーフを引き継いだ水色のセーラー服だ。歌詞に「女子高生」のワードが入っているように、高校生の恋愛をテーマにした「アザトカワイイ」。その世界観にぴったりのデザインだ。鮮やかながらも落ち着いた色調は「青春の馬」のドレスを連想させる。

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最後は大きめのリボンとチェック柄のスカートというオーソドックスな学生服。メンバーごとに異なるカーディガンを着ていることにも注目だ。日向坂46で良くも悪くもひねりのない制服を着るのはちょっとめずらしい気もする。フリの中に時々登場する「萌え袖」を意識しているのかもしれない。

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2. スピーディで激しいダンス

今回の振り付けは「キュン」以降シングル表題曲を担当してきたCRE8BOYではなく、けやき坂46時代の楽曲に多く携わってきたTAKAHIRO(上野隆博)によるものとなっている。CRE8BOYは「キュン」のキュンキュンダンス、「ドレミソラシド」のドレミダンス(肩シェイク)やチャールストン、「ソンナコトナイヨ」のチョキチョキダンスなど、一度見たら忘れられないキャッチーな動作を中心にパフォーマンスを組み立ててることで、ある種の中毒性を演出することに成功していたと思う。言うなれば「恋ダンス」的発想で、見た目には分かりやすいけどいざ真似しようとすると絶妙に難しい、チャレンジ精神をくすぐる振り付けで毎回話題を呼んでいた。TikTokのバズなどを目指していたのかもしれない。テレビ番組でのパフォーマンスにも向いていたと思う。

一方のTAKAHIROによる「アザトカワイイ」の振り付けはこれまでとテイストが異なるようである。タイトル通り至るところに〈アザトカワイイ〉動作は散りばめられているけど、このダンスのキーとなる動きやポーズはないように思われる。せいぜい隣同士でハートを作るフリぐらいだろうか。今回はキュンキュンダンスのようなキャッチーなビジュアルを作ることを初めから目指していない。

では「アザトカワイイ」の狙いは何なのか。

僕が思うに「アザトカワイイ」はこれまで以上に各メンバーの見せ場を意識している。ミュージックビデオを見た限りの印象だが、曲中のフォーメーションチェンジも非常に多い。たとえば一番のサビ終盤。髙橋未来虹のソロショットのあと、新三期生が先輩たちの背中を馬跳びして、どんどん前に出ていく。このあとの全体像はミュージックビデオだと見えにくいのだが、新三期生3人がフロントに出てサビを締めるダンスになっているようなのだ。

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森本茉莉に至っては一瞬ではあるがセンターポジションに躍り出ている。いちばん後ろの列だからといって、ずっと端で踊っているわけではない。新加入の彼女たちにもしっかり見せ場を持たせ、輝く瞬間を与えているのである。常々日向坂46はどのポジションにも魅力のあるグループだと思っていたけど、こうやって自在に場所をシャッフルすることでどのメンバーにもアピールのチャンスが与えられているのは〈箱推し〉の僕としても大変嬉しいことである。

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移動が多いのに合わせて、ダンスもかなり激しいものになっている。これまで以上に振りのバリエーションは豊かだし「アザトカワイイ」というタイトルの印象に比してスピード感がある。うがった見方をすれば曲のテンポが一定なために、パフォーマンスで味付けを濃い目にしているのかもしれない。ミュージックビデオだとぶつ切りになってしまうが、通しでみたら結構目まぐるしいダンスになっているのではないかと思う。思い返せば「こんなに好きになっちゃっていいの?」もサビのラーメンの湯切りみたいなモーションも、「ソンナコトナイヨ」のチョキチョキダンスも実際にやろうとしたら相当体力を持っていかれるテンション高めの振り付けだった。彼女たちへの要求のレベルがどんどん上っていることの証なのかもしれない。

ところで既にファンの間で話題になっているのが、曲中たびたび登場する「オードリー」要素である。僕もまさかとは思ったけど、多くの人が同じ指摘をしているのでおそらくそうなのだろう。富田鈴花と松田好花による「鬼瓦」のほか、加藤史帆と宮田愛萌の「トゥース」もある。春日曰く「正しいトゥースは左手」らしいので、もしかしたら違うかもしれないけど。この場面は各々が考える可愛いポーズを取っているように見えるが、その上でふたりがトゥースを選択したのかと思うと面白い。ライブ等でいくらでも遊びを入れる余地がありそうだ。こういう茶目っ気も日向坂46らしいのである。

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3. 誰が佐々木美玲の手を掴んだのか

冒頭でも書いた通り「アザトカワイイ」のミュージックビデオはその曲調にに反してシリアスで切ないトーンが印象的である。もちろんフォーカスしているのは笑顔で楽しそうに踊るメンバーの姿だけど、オープニングから曲のスタート以降、時折ドキッとするようなショットが差し込まれており、「アザトカワイイ」だけではないなにかを感じさせる内容になっている。僕はこのミュージックビデオに少々気が早いながらも「ひなたざか」というアルバム全体のテーマがあるのではないかと思っている。順を追って気になるショットを確認していこう。

一人ぼっちの佐々木美玲

「アザトカワイイ」のファーストショットは一人ぼっちで椅子に座る佐々木美玲だ。本作のセンターを務める彼女が佇むのは、白い砂の惑星を思わせる大地。高校生の恋愛をテーマにしているのに、いきなり宇宙SFのようなショットが出てくるのでびっくりしてしまった。

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そのあとサブリミナルのようにインサートされるのは無人の木々や、逆再生で巻き上がっていく砂、王冠をつくる水滴。このあとミュージックビデオを見ていくと分かるが、ここは過去のミュージックビデオの引用になっている。いちばん分かりやすいのは「青春の馬」だが、そのほかに多用される水のモチーフは「キュン」を連想させるし、カラフルな虹色のフィルムは「JOYFUL LOVE」のビジュアルを思い起こさせる。

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どうやら椅子に座る佐々木美玲は、けやき坂46から日向坂46までの軌跡を頭の中で辿っているようなのだ。このひとけのない一連のショットはどことなく不気味で、死の臭いすら感じさせる。

彼女を探していたのは…

そんな彼女を探し求めて一人荒野を走る少女。不安げな表情で周囲を見渡すのは金村美玖だった。

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誰かが自分を探していると察知する佐々木美玲。しかし、ハッと気づいたその瞬間、彼女は水の中へと落ちて行く。画像14

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深く深く沈んでいく彼女をバックに表示される「HINATAZAKA46」の文字。ここで「釣られてしまいました…」と「アザトカワイイ」の曲が始まるのだが、こうやって映像とのコンビネーションで見せられると、少々イントロから受ける印象も変わってくる。

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繰り返される円形のモチーフ

「アザトカワイイ」の裏テーマとも言うべきシリアスパートはすべて3番目の衣装(オーソドックスな学生服)で統一されているが、より強調されているのが円形のモチーフである。海に沈んでいく佐々木美玲が見上げるのは、水面の上に輝く太陽。結論を先取りしてしまえば、彼女はここで海の「水色」の中に「おひさま」を見つけるのである。そしてこのおひさま=太陽は、円形のモチーフとなってこのあとたびたび登場するのである。

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並べてみると、いずれも「空色」がテーマとなっていることがわかる。「空」「雲」「水」のイメージはなんども繰り返され、表テーマの「アザトカワイイ」を表現したアシンメトリーの衣装と水色のセーラー服のパートとオーバーラップしていくことになる。

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空を見上げる20人

曲の終盤に差し掛かったタイミングで、いよいよ表テーマと裏テーマが交わることになる。

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スクエアの舞台の上に並んだメンバーが空を見上げているこの場面。よく見ると佐々木美玲と金村美玖が居ない。彼女たちもまた水の底から手を伸ばし、誰かの助けを求めている。センターの佐々木美玲と20人の動作が同期していく…。

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ふたたび誰から近くにいることを感じる佐々木美玲。もうすぐそばまで彼女は来ているのだ。

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佐々木美玲の手を謎の少女が掴み取る。もうここまでくれば分かるだろう。白い大地をを彷徨っていた金村美玖が、ついに彼女を見つけたのである。オープングで逆再生されていた零れ落ちる砂のショットがもう一度インサートされる。彼女の時間が再び動き出したことが示唆される、

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もう誰も一人ではない。次のショットではスクエアの舞台に佐々木美玲と金村美玖が加わっている。22人全員がここにきて揃うのである。

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最後はみーぱんスマイル!

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片思い同士のハートが組み合わさってきれいなハートを作る。

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メンバーに背中を押されるように前に出た佐々木美玲。ここで彼女がなにをつぶやいているのかは無音なので謎だが、僕には「釣られちゃいました」と言っているように見える。

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佐々木美玲のパーソナルヒストリー

ここから先は僕個人の解釈だが、「アザトカワイイ」のミュージックビデオは日向坂46の歴史と佐々木美玲のパーソナルヒストリーを描いているのではないかと思う。

いまでこそセンター復帰で波に乗る佐々木美玲だが、かつては卒業まで考えたというほどドン底の時期を経験している。冒頭では砂の惑星で一人ぼっちだった彼女が、仲間たちの応援を浴びながら、最後は金村美玖に手を引かれてこの世界に戻ってくる一連のストーリーに、佐々木美玲の苦悩と復活を重ねたくなるのである。また、先に述べたように、海=チームカラーの水色と太陽=おひさまの重なるビジュアルからは「日向」のワードが連想される。牽強付会ではあるが、必死に手をのばす金村美玖のポジションにファン、もしくは佐々木美玲を応援するメンバーみんなの声を結びつけてもいいかもしれない。

また、長濱ねる兼任解除後にセンターを務め、ひらがなけやき時代を引っ張ってきた佐々木美玲が「日向坂46第一章」の締めにふたたび元のポジションに戻ってきたことを、ミュージックビデオでは手を引っ張られる(=釣られる)姿に仮託したと読むこともできるだろう。詳しくはアルバムの構成を見ないことにはわからないし、もしかしたらカップリングで入るであろう新曲のラインナップを見たらまたこの解釈は変わってくるかもしれない。しかし、現時点で集められる情報をもとに、このようなテーマを読み取ることもできるのではないかと思うのだ。

ところで、そうなると気になるのが「なぜ手を引くのが金村美玖なんだ?」ということである。前センターの小坂菜緒やキャプテンの佐々木久美、そのほかの一期生でも良かったはずなのに、である。金村美玖推しの僕としてはここに5thシングルへの布石を読み取りたくなる。佐々木美玲の手を引いた金村美玖が「日向坂46第二章」の幕開けにセンターを務めたらこれ以上きれいな流れはないと思うのだが…そろそろ妄想が止まらなくなってきたので、ここで筆を置くことにしよう。

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