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ウイルスが蔓延しきった世界

未だ原因究明はできていないが、正体不明のウイルスが世界中に散らばった。
致死率は低いものの、感染力は高く、感染した患者は症状がなくても隔離処置が施されていた。

主婦たちの井戸端会議は、もっぱらこのウイルスの話で持ち切りだ。
「3丁目の鈴木さん、感染したらしいわよ」
「確かに最近急に見掛けなくなったわね」

「学習塾の講師の方も感染したんですって」
「だからあの塾、ずっとシャッターが降りてるのね」

どんなに警戒しても罹ってしまう高い感染力を持つウイルス。しかしいつの間にか感染した人は注意が足りないからというような目を周囲から向けられたり、何か油断したような行動をしたのがいけないんだと、楽しむ行動は慎むべきだという風潮が世の中に出来上がっていた。

「今日うちの県、感染者数5人ってなってたけど、アレ八木さんの家の人たち、全員なっちゃったんですって」
「まぁ怖い。ご主人、出張で各地を飛び回っていたみたいですもんね」

「杉山病院の看護婦さんで発症した方いるんですって」
「まぁ!嫌だ。正義感出して、感染者を受け入れるのはいいけど、ちゃんと対策をしてほしいものね」

毎日のように感染者は増えていき、その数は増加の一途を辿っていた。
政府もワクチン開発に尽力を注ぎ、少しでも感染のリスクを減らすための法律を作ってはいるが、一向に収まる気配はない。

「すべての学校がオンラインで授業をやってるんですってね」
「そうみたいね。新入生は友達もできずに大変ね」

「わたしの家の隣の小林さん、感染者と会ってたから今、隔離対象になっちゃったんですって」
「まぁ、大変ね。ホントに身近なところまでウイルスが来ているわね」

世界中の英知を結集して問題解決に当たっているが、一向にゴールの見えない戦いが続いている。世の中を完全にストップさせれば一時的にウイルスの広がりを抑えられるが、それではお金の流れも止まってしまい、ウイルスに打ち勝った後の世界が大変なことになってしまう。正解の分からない問題を抱えたまま時間だけが過ぎていっていた。

「久しぶり~、元気してた?実は私感染しちゃってたみたいで、ううん症状は軽くて。特に辛くなかったんだけど」
「それは何より~。私も旦那が隔離対象になっちゃって、ずっと家に居たのよ。もうドラマばっかり見てたわ」

世界の隅から隅までウイルスが蔓延しきったような状況になってきて、徐々にこのライフスタイルにもみんなが慣れ始め、新たな問題が生まれていた。

「おはよう~。体調はどう?」
「うん平気平気。もう陰性って出たから。」
「そっか、ホント大変だったわね。それより知ってる、4丁目の小山さん。まだ家族誰もウイルスに罹ってないんですって」
「まぁ、そうなの~」
「あの家お金持ちだから、きっとなにか裏でやってるのよ。この状況でウイルスに罹ってないって、絶対怪しいわよ」
「ホントそうね。確かにあそこの旦那さん、市議会議員さんとも仲が良いって誰か言ってた」
「あら!間違いないわね。」
「この状況でウイルスに感染してないなんて、絶対何かあるわね…」

そう、ウイルスに罹っていない人バッシングが幕を開けた。


ひとり~の小さな手~♬なにもできないけど~♬それでもみんなの手と手を合わせれば♬何かできる♪何かできる♪