見出し画像

ペライチ小説~完璧な一日~

きょうはすべてが上手くいった。

会社で行われた新しいプロジェクトのプレゼンは成功し、会議室を出ると社長に呼び止められ、握手を求められた。その光景を見ていて、このプロジェクトのリーダーである部長も社長の後ろで満面の笑みを浮かべている。

自分のデスクに戻ると職場のマドンナ・サラちゃんが手作りのマーマレードをくれた。
余ったからという一言は付いていたが、同期のコジマは貰えていないようで、羨ましそうな目でこちらを見ている。

帰り道、ホームに着いたら、同時に電車は滑り込んできて、なぜか端っこの席が空いていた。
席に着くと、隣には小学校低学年ぐらいの男の子が座り、ソワソワしながら路線図と手に持ったメモ帳を交互に見ている。どうやら駅でちゃんと降りられるか不安なようだ。
メモ帳に書かれている降りる駅を見ると、私が降りる駅と同じだ。
「同じ駅だから一緒に降りようか?」と声を掛けると「ありがとうございます」と大きな声でお礼を言われ、安心したのか、その後は私の腕に持たれるように眠ってしまった。

駅に着く手前で起こして、一緒に降りると再び大きな声でお礼を言って、走って行ってしまった。よっぽどドキドキしながら電車に乗っていたのだろう。初めての冒険だったのかも。

家まで続く道には信号がいくつかあるが、すべて青信号だった。家の前に着くと、リビングには明かりが付いていて、家の中から妻と娘の楽しそうな話し声が外まで漏れている。どうやらきょうの夕飯は娘の好きなトマトドリアのようだ。

カギを開けて家の中に入る。
自分の部屋へ行き、スーツから部屋着に着替える。きょうはいつも以上に張り切っていたのか、部屋着に袖を通すと、ガクッと疲れを感じた。

リビングに行き、妻と娘の顔を見て、私は冷蔵庫に入っていた値下げシールの貼ってあるお弁当を手に取る。レンジでチンして、自分の部屋でお弁当を食べる。
そう私は妻と娘から無視をされている。

ひとり~の小さな手~♬なにもできないけど~♬それでもみんなの手と手を合わせれば♬何かできる♪何かできる♪