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クジラに飲み込まれた男

発展途上を続けている国の海。

この海は、この国の人たちの胃袋を支えていると言われている。
何全種類の魚介類が獲れ、この海水から作られた塩は身体に良いことでも知られていた。

その海の港に1つの小舟が辿り着いた。

「おい、お前はどこから来たんだ。我々の審査を通らないとこの先は通さんぞ」

『私はジョージと言います。クジラに飲み込まれてしまったのですが、無事生還しました』

「そんな話し信じられるか、クジラに飲み込まれた人間が生きていけるわけがないだろう」

『本当なんです。私も最初は信じられませんでしたが、何とかここまで辿り着くことができて、信じられない気持ちです』

「証拠を見せてみろ、証拠を」

男が戸惑いながら答える。
『証拠と言われましても・・・』

すると警備員が男の小舟に乗っていた袋に気付いた。
「おい、その袋の中身は何だ?」

『これですか?これはクジラの井の中にあったモノです。クジラの井の中から無事に出られたら、お金に変えられるかもと思いまして』

「袋の中身を見せてみろ。ゆっくりだぞ」

『はい、盗らないでくださいよ』

「口答えせずに早く開けろ!」

男がゆっくりと結び目を解き、袋を開けた。
『これはクジラが飲み込んだメガネです。ブランド品から変わった形の物まで。この国の発展は止まることを知らず、視力の矯正を誰もが受けられる時代なので、メガネが不要になり、どんどん捨てられているのでしょう。
売ればかなり高価なメガネまで捨てられているので、この国の経済の好調ぶりが伺えます』

「メガネかぁ。確かにこの国ではもう不要だな。今やメガネを掛けている人もいるが、オシャレ目的がほとんどで、そのほとんどがパソコンと連動していて、体温や歩行距離など、個人専用の使い方をしているから、オーダーメイドで作って、半永久的に使ってるからな」

『ですよね。このメガネを少し洗って発展途上国に行って売れば、大金が入るかなぁ~と思いまして』

そう言うと、男は小舟を大海に向かって漕ぎだした。
警備員たちも止めるわけでもなく、男の小舟を見送っていた。
男が向かう先は晴れ渡っていて、穏やかな風が吹いている。まるでこの国の未来を表しているようだ。


そして-
少子高齢化が続いている国の海。

この海は、この国の人たちの胃袋を支えていると言われている。
何全種類の魚介類が獲れ、この海水から作られた塩は身体に良いことでも知られていた。

その海の港に1つの小舟が辿り着いた。

「おい、お前はどこから来たんだ。我々の審査を通らないとこの先は通さんぞ」

『私はジョージと言います。クジラに飲み込まれてしまったのですが、無事生還しました』

「そんな話し信じられるか、クジラに飲み込まれた人間が生きていけるわけがないだろう」

『本当なんです。私も最初は信じられませんでしたが、何とかここまで辿り着くことができて、信じられない気持ちです』

「証拠を見せてみろ、証拠を」

男が戸惑いながら答える。
『証拠と言われましても・・・』

すると警備員が男の小舟に乗っていた袋に気付いた。
「おい、その袋の中身は何だ?」

『これですか?これはクジラの井の中にあったモノです。クジラの井の中から無事に出られたら、お金に変えられるかもと思いまして』

「袋の中身を見せてみろ。ゆっくりだぞ」

『はい、盗らないでくださいよ』

「口答えせずに早く開けろ!」

男がゆっくりと結び目を解き、袋を開けた。
『これはクジラが飲み込んだメガネです。ほとんどが老眼鏡ですが、これをプレスして素材ごとに分別すれば、大金にはなりませんが、しばらくの蓄えにはなると思うんです。
今やこの国は高齢者ばっかりで、経済も停滞気味、クジラの井の中にも、ほとんどお金に変えられそうなものは入ってきませんでした。この老眼鏡もボロボロになるまで使っていたみたいですが、素材には影響ないので』

「メガネかぁ~。もうメガネかけている人は高齢者ばっかりで、最近は老眼鏡以外のメガネはあんまり見たことないなぁ~」

『ですよね。このメガネを工場に持って行けば、少しのお金には変えられると思うんですよね』

すると、警備員たちはお互いの顔を示し合わせて、急いで男の小舟に乗り込んだ。

『なんですか、やめてください!』
「おい、そのメガネをよこせ」
『何するんだやめろ~』

そう言うと、男は小舟を大海に向かって漕ぎだした。
船上で掴み合いが始まった。小舟はゆらゆら揺れていて、安定感がまったくない。まるでこの国も未来を表しているようだった。


ひとり~の小さな手~♬なにもできないけど~♬それでもみんなの手と手を合わせれば♬何かできる♪何かできる♪