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課題図書『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』から広がる超現実と世界

昨今、課題図書として読み始めたのはシュルレアリスムの奥深い世界への入口となるアンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』。本書を手にしたのは、シュルレアリスムの視点から私の写真に共感と関心を示してくれた人が愛読書にしていたことがきっかけ。その方の視点を通じて私は写真を撮る者としての自己確認ができた。そうした経緯からシュルレアリスムの核心に近づきたいと思ったのだ。

シュルレアリズムの鍵

ご存じの方には釈迦に説法だけど、いちおう説明を。シュルレアリスムは現実を超えた新たな表現を追求する1920年代にフランスで生まれた芸術運動のこと。アンドレ・ブルトンはその中心人物で、同書に収められているのが、彼の運動の発端となった『シュルレアリスム宣言』だ。

そこでは、無意識の探求と夢の表現を通じた、創造の新たな可能性が謳われ、「純粋な精神の自動記述」とシュルレアリスムを定義されている。論文というよりも思いつくまま、衝動のままに書き連ねたコラムや詩を交えたアフォリズム、熱量に溢れるマニフェストだ。

「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」

「溶ける魚」と私の写真

同書には『溶ける魚』も収められている。この作品はシュルレアリスムの理念にそい、自動記述技法を用いて記されたもの。約2Pほどでまとめられた小品集になっている。

日記のようでもあり、昨今でいうフリーライティングのようでもあり、無意識の思考や妄想……「種子のある心臓」や「愛の脳味噌」、「白貂の乳房を持つ女」が出てくる、自動記述で書かれた32編の小品が書き留められている。それらは、伝統的な文学の形式を打ち破り、読者に新たな視覚と感覚を想起させるよう突きつけてくる。

誤解されがちなのだが、「シュルレアリスム」はファンタジーや幻想のように「ここではない別の世界」ではない。つまり、現実を突き抜けた、「さらなる現実」を示している。その、突き抜けの技法が重要だ。

手前味噌だけど、私の写真を楽しんで下さる方から「撮影された被写体が現実であるにもかかわらず、浮遊感がある」「現実を夢のように変え、視覚の奥にある脳裏のどこかに響く」と言われたことがある。

日常のなかの現実と超現実の間のレイヤーを突き抜けることで視覚的な浮遊感が浮き彫りになり、脳裏に響く。自分の写真とシュルリアリスムは親和性が高いと感じる理由はそこだ。


視点の共有

こうしてシュルレアリスムの視点を日常に取り入れることで、見る角度を変え、周囲の世界に新たな意味を見出すことができる。読み手に自己認識を拡張する方法を提案し、現実の一面だけでなく、その背後にある超現実的な要素を探求し、日常生活においても新たな発見を促すことになる。

「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」とシュルレアリズムから学ぶことは、私たちと世界との距離感、関係性を考え直すことだ。本書を通じて、超現実の視点を共有し、写真を通じて、その探究の旅を続け、日常の中に潜む超現実を写し撮りたい、そして多くの人に楽しんでもらいたいと願っている。


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