ツイッターで書いた妄想物語まとめ

なんとなく書きました。

10/19
老人「書物には気化する性質の睡眠薬が仕込まれていてな。ページをめくる度に少しずつ散布される仕組みゆえ、長々読んでいると眠くなるのじゃ」
ぼく「ぼくは苦しんで死ぬのは嫌です。年老いて、間もなく死ぬ段になったら、本を読みます。徐々に意識が薄くなって、気づいたら死んでいたいのです」
老人「眠るように死ぬ。最高の召され方じゃな」
ぼく「なるべくむつかしい本を読めるようになります」
少年は来るべき死に際に向かって、難しい本を次々読みこなすようになった。すると、鎮痛剤をとりすぎると効きが悪くなるように、だんだん本を読んでも眠くならなくなった。
青年期には、自分が眠るように死ぬための難しい本を自分で著すようになった。
ぼく「足りない、眠れない。足りないよ」
青年は一心不乱に本を書き、何日も眠らないまま半狂乱になって死んだ。
そして遺されたのが、伝説の名著『ぎっくり腰のひみつ』である。
(了)
10/20
僕はなぜかいつも食事が億劫だった。もぐもぐするのも面倒だし、お腹がいっぱいになると全やる気をなくすから嫌いだった。でもある時、それが僕の怠惰ではなく、食事の悪魔のせいであることに気づいた。奴は僕の脳に語りかける。
――腹が減っては戦はできぬ。だから腹がすかないようにしてやろう。ほれ
空腹を感じず食事が面倒になり衰弱していった僕は、頻繁に桃源郷の妄想を見るようになった。ポイフルが手を繋いでダンスしている。ひと粒つまんで食べれば3日何も食べなくていい。ここまで考えたところで何もオチが思いつかなかった。夕飯はちゃんと食べようと思う。
(了)
10/21
僕は酷い殺人鬼になりたくて、ありとあらゆる手段を考えた結果、人類全員に腐った食べ物を与えてお腹痛くしてトイレをパンクさせればいいと思った。恥と腹痛で地獄の苦しみを味わえばいいと。しかし僕は調べるうち、驚愕の事実を知った。貧困国ではトイレが整備されておらず、汚れた水を飲んで命を落とす人々がたくさんいると。
元々トイレがなければ「お腹が痛いのにトイレに行けない」という屈辱を味わわせることができないので、まず僕は、貧しい地域に足を運んでトイレをたくさん作ることにした。水洗トイレを作るにはちゃんと水が流れないとまずいので、上下水道を整備した。
全世界にトイレができたのは僕の99歳の誕生日だった。さあ全員お腹を痛くするぞ。シチューを外で腐らせてばらまこうとしたが、ボランティアが手伝ってしまい炊き出しになった。死ぬ間際思った。人類を困らせるのは大変だが、僕が天国行きか地獄行きかで殺戮の争いが起きたのがせめてもの救いだと
(了)
10/22
僕はケーキの側面に人差し指をくぽっと埋めて、できた穴に匂い玉を入れた。それをぐるりと一周する。周りの生クリームで適当に穴をごまかしたら、いちごの香りたっぷりのケーキができた。初めての共同作業で、新郎新婦はきっとよろこぶだろう。そう思ったのに、新婦がすくいあげたケーキを食べた新郎はぺっぺとはき出し、ふたりは大げんかになり、ホテルと揉め、ついには……
僕はこのことを夏休みの日記に書こうと思っていたのだけど、予想外のことが起きたのでやめた。学校に出す文章にはタブーが多すぎることを知った。そんな経験が原風景となって、いま僕は作家をしている。小説は自由だ。
(了)
11/2
老人「能ある鷹は爪を隠す、の逆を何と言うか知っておるか?」
僕「うーん、能がない……」
老人「ひよこは可愛い、じゃ」
僕「え!?」
老人「お前は能力を磨くよりも、ひよことして可愛くピヨピヨしていなさい」
僕「嫌、いやだあっ!」
おじいさんが止めるのを振り切って、僕は駆け出した。
村を出て都会で勉強しようと思った。勉強して能力をつければ鷹になれるし、謙虚でいれば爪が隠せると思ったのだ。
やってみると、どうやら僕は勉強が好きらしかった。色々な分野に興味を持ち、始める度にひよこ状態からスタートした。周りの人は皆優しく、助けられ、可愛がられた。
僕は夜の窓辺で、村から届いたおじいさんの訃報に落ち込みながら思った。
おじいさんの言った通りだった。爪がない僕の周りには優しい人が集まる。それが僕の長所なら、僕は可愛さだけで高みを目指してみたい。おじいさんのあの教えを守ろう。
これが僕の人生の転機だった。

『伝記・ひよこ大統領』より

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