ツイッターで書いた妄想物語24

5/1

彼女「無いよりはいいが、他にもっとやるべきことがあるみたいなの、この世に死ぬほどあるよね」
僕「ノー残業デーとか?」
彼女「そう。謎に仕事のリズムを変えさせられるより、普通に有給100%使わせてほしい」
僕「君を守る宣言?」
彼女「稼いで」
僕「毎月交際記念日のプレゼントは?」
彼女「貯金しよ」
 堅実で辛辣な君が好きだと言いたいが、その前にやるべきことがなかったか、もう少し考えてからこの指輪を渡したいと思った。
 高価なジュエリーに興味は無く、その代わりすぐに子供がほしいから、結婚前から育児資金を貯めたいらしいというのはリサーチした。
 指輪なんて、彼女にとっては「無いよりはいいが」の方に分類されてしまうのかもしれない。けれど僕にとっては、ふたりの思い出の品を調達することは何を差し置いてもやるべきことだ。
 知る由もない彼女は言い放つ。
「肌荒れ直して」
これが結婚式までにかっこよくなっておけという意味だと気づいたのは、だいぶあとだった。

(了)

5/15

「大丈夫。きっと、物事はあまり簡単に報われない方がいいんだよ。その方がありがたみを感じられるじゃん」
優しく微笑みかけてくる彼が腹立たしく、私は飲みかけのペットボトルを投げ付けた。
彼のブレザーの袖に、ヘルシア緑茶が染みてゆく。きっと何人もの女の子を抱きしめて涙を吸ってきたであろう神聖なる袖口が、濃紺を超えて真っ黒になるのが清々しかった。
こんな奴の為に痩せてなんかやらない。
めちゃめちゃ自主的に可愛くなってバチバチに垢抜けて、私の努力にひれ伏して「僕が間違ってましたすみません付き合ってください」って言わざるをえなくなる日まで首洗って待ってろボケナス。

(了)

6/5

深夜2:30。僕は頭を抱えていた。
頭が激痛のままここまで仕事をしてしまったし、あとは寝るだけだがこんなに痛いのでは眠れそうにないし、しかしいまから頭痛薬を飲むのはなんだか癪で、それなら最初から飲んでいればよかったという意地を張り続けてこんな時間まで仕事をしてしまったから……
『ねえ、お前はいつからそんな、仕事中毒人間みたいなキャラになったの?』
頭蓋骨の中で、ニヤニヤと笑みを浮かべた僕が、楽しそうに囁く。
『お前はそんなんじゃなかっただろ? 疲れたら寝るし、頭痛をこらえて仕事するような奴じゃなかったじゃん』
「うるさい。僕は好き好んでこの仕事をしているんだ」
『お前、さも頭痛の被害者のような感じで言ってるけど、頭痛を起こしているのはお前だよ? 痛みを感じているのも、その痛みを和らげるために目や肩を揉んでいるのも、なんならいま喋ってるおれもお前だ』
早く寝ろよと、頭蓋骨の中の僕が嗤った。
クソ死ね頭痛と思いながら、薬を手に取る。

(了)

6/7

 家族で出かけるので電車に乗っていたら、大学生の姉が突然、深刻そうにつぶやいた。
「人間の造形としての完成度が高すぎる…………」
 目線の先にあるのは、広告だ。人気俳優が目を細めて首をかしげ、バランス栄養食品の箱をそっと頬に当てている。

 人間の造形、と表現した姉の気持ちはなんとなく分かった。
 イケメンとかかっこいいとかでは済ませない感じ。
 人体は色々な対比や配置で構成されているし、筋肉や骨のふくらみとへこみで形づくられている。内蔵を覆う皮膚がある。眼球や口の粘膜は、直接外気に晒されている。
 その完成度が高すぎるのだと、姉は言ったのだ。
 目をすがめ、黄色い声ではしゃぐわけでもなく――美術品を目の前にした人間の反応だった。

「姉ちゃんはこの人が好きなの?」
「いや、特段そういうわけでは。でもまー、推すことになるんだろーな。この人体が老い崩れてゆくその様も多分美しいっていうところを見届けたいわ」
「広告1枚でその思想に至れるの、オタクの神髄って感じがする」
「オタクはいいぞ〜幸せのハードルが低くて」

(了)

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