「今日も一日ありがとうございました。おやすみなさい」
あのとき、あの人の、キラーパス。
『認知症の人たちの小さくて大きなひと言 〜私の声が見えますか?〜』(監修=永田久美子、発行=harunosora)という書籍には、認知症の人が吐露した、たくさんのつぶやきや言葉が綴られています。
それは、どんなとき、どんな理由で発せられたのでしょうか。
また、周囲の人は、それを聴いたとき、どう思い、何を感じたのでしょうか。
本書から抜粋して紹介します。
p.122より
「今日も一日ありがとうございました。おやすみなさい」
Y・Kさん(87歳・女性・兵庫県)
<以下、グループホーム介護職・谷口貴子さんの回想>
Yさんは、グループホームに入居して半年くらい。
入ってきた当初は「帰りたい」といつもいつも訴えていました。
Yさんを含め、入居者の人たちは、いつも寝る前の夜7時くらいに、みんなで昆布茶を飲みます。
ある夜、昆布茶を飲み終わったときです。
みなさんの就寝のお手伝いを始めようとしたところ、Yさんがリビングにいないことに気がつきました。
あわてて探しに行きましたが、ご自分の部屋にも姿がありません。
玄関を見に行くと、そこにYさんがぽつんと立っていました。
Yさん、外を見つめて手を合わせながら何かつぶやいています。
「今日も一日ありがとうございました。おやすみなさい……」。
私は「誰におやみなさいって言ってたんですか?」と声をかけました。
「そらあんた、家(うち)に向かって言ってるに決まってんじゃないの。やっぱり家が一番いいわよ。でも帰るわけにはいかないでしょ。ここにいれば離れて暮らしている息子も安心するし……」。
私は胸が熱くなり、思わずYさんを抱きしめてしまいました。
『認知症の人たちの小さくて大きなひと言 〜私の声が見えますか?〜』(監修=永田久美子、発行=harunosora)