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ハイブリッドな友達との青春を振り返ってみたら、まず犬が出てきた。

今日、友達が久しぶりにライブを行う。
どなたかのゲストとして呼ばれて唄うことはあったが、ワンマンで行うのは10数年ぶりかもしれない。

40年くらい前、やはり同じシンガーソングライターの友人に、
「絶対、気が合うと思う。ふたり、すごく似てるから」
と、言われて紹介された。
しかし、40年間、彼女と私が似ていると思ったことはない。
太陽のように明るい彼女と、曇り空みたいな私。
思いついたことをすぐ言葉に出来る彼女と、考えて考えて結局、何も言えない私と。

ただ、笑いのセンスは近い。
価値観が近いということだろう。
友達でいるには多分、これはとても大切なことだ。
悲しむ理由も近いから、触れられたくない時には、お互いそっとしておく。

彼女は、高校生でSINGER & SONGWRITERでデビューした。自分で詞も曲も書いて唄っていた。16歳で。だから、ハタチそこそこで出会った頃には、すでに「ぎょーかいじん」ぽくて、スタジオミュージシャンの男性達に囲まれても、なんの気負いも衒いもなく、スタジオのソファに座り、みんなと笑いながらテレビを観ていた。
圧倒された。髪が短くて、元気が良くて、ハイブリッドな感じがした。

何?ハイブリッドって?

自分で言ってて、よく分からない。
慌てて調べたら「二つ以上の能力を持つ人」らしい。うん、外れていない。
高校生から才能を発揮して、さらに誰とでも仲良くなれる雰囲気を兼ね備えている。そして、心底明るい。
うらやましい。という気持ちが一気に押し寄せた。劣等感の塊のような私とは、全く違う生き物のような気がした。

しかし、彼女とは予言通り、すぐに仲良くなった。
一緒に曲も作ったし、一緒にいろんなとこへも出掛けた。同じマンションに住んでいた時代もある。違う部屋だったが、毎日のように一緒に夕飯を食べたりした。

このマンションの向かいに、立派な一軒家があった。世良犬という、コリーかシェパードか大型犬を飼っていた。何故、犬種を断定できないか?見たことがないからだ。お屋敷は高い塀に囲まれて中の様子を見ることが出来なかった。散歩に連れ出しているのを見たこともなかった。
ただ、あまりにも大きな声で吠えるため、世良犬は庭で飼われているようだった。

世良犬という名前は、彼女と私で勝手に付けた名前。声がめちゃくちゃハスキーなのだ。本当の名前は、今も知らない。

そう、世良公則さんの世良。
(世良さん、ごめんなさい。大好きです。本当に)

世良公則さんは、今でこそ俳優をされているが、その昔は「世良公則&ツイスト」というバンドで、めちゃくちゃカッコいい曲を歌っていらした方だ。
何曲目かのシングルに「性(さが)」という曲があった。イントロが無く、ドアタマで世良さんが、
「オゥオゥー、オゥオゥー!」と叫ぶ箇所がある。
めちゃくちゃハスキーな声で、髪がサラサラでカッコよくて、女の子はきゃあきゃあ言って気絶した。私もきゃあきゃあ言って、ファンクラブに入った。

その、世良さんの「オゥオゥー!」にそっくりな声で世良犬がよく吠えた。
部屋で仕事をしていると、元気な世良犬が吠える。郵便屋さんに吠え、出前のお兄さんに吠え、ただ通りを歩く人の気配にすら吠えた。

ある日、彼女が慌てて仕事から帰ってきた。
「世良犬が今、通りを歩いてる!しかも、ひとりで!」
飼い主さんが一緒ではなく、単独行動。
逃げたのかもしれないと彼女が言う。

「なんで、その犬が世良犬だと分かるの?見たことないじゃん?」

私がそう言うと、あんな大きい犬を飼っているお宅は他にいない。と彼女は言う。
それに、吠えなくても体型を見ただけで、あのハスキーな声の持ち主だと分かるらしい。

さすが、ヴォーカリスト。

「どうする?」

どうするって言われても、どうしよう。
彼女も私も猫派。犬は飼ったことがない。
幼稚園の頃、雑貨屋の小型犬に噛まれてから、犬は苦手なのだ。大型犬なら、尚更、怖い。
「おうちのひと、知らないなら、おしえてあげたほうがいいよね?」
と、彼女。
そうだね、犬に触れない私たちなら、せめて教えてあげなくちゃいけないよね。外にあまり出たことがない様子だから、迷子になってしまう。

ビビりな私たちは、犬をつかまえようなどという挑戦者にはならず、ただただ情報を流すだけのメッセンジャーになることにした。

世良犬は、ライオンのようにデカいらしい。

私たちは、サファリパークへ丸腰で出てしまうような気持ちで外へ出た。
大丈夫、世良犬は、近くにいない。
向かいのお宅の年季の入った木製の塀の前に立つ。
恐る恐るインターフォンを押す。
「はい?」と、出てこられた声に犬のことを伝えると、慌てて入り口まで出てこられた。品の良い50代くらいの女性だった。
彼女が自分の住む場所を伝え「怪しい者ではありません宣言」をして、私たちは失礼した。
とてつもなくでかいミッションを終えた気分だった。

後日、彼女の家に世良犬の飼い主がお礼に来た。
やはり、犬が勝手に外へ出てしまったらしく、そのことには全く気がついていなかったらしい。
世良犬は飼い主を見つけると、すんなりと帰宅したそうだ。
ひとときの冒険を楽しみ満足したのか、なんだか微笑ましい。
「お裾分け」と言って、彼女は水玉模様のカルピスを持ってきた。お礼にいただいたそうだ。

なんと律儀な。

これ飲んだら、世良さんみたいにハスキーな声になれるかな?
とか言って、かなり濃いめに作って、ふたりで飲んだ。

30数年前の青春の味だ。
彼女と一緒にいると面白いことがたくさん起きた。心底楽しいことも、困ったことも、今となれば全部キラキラ光っている。
その彼女が今日は、懐かしいミュージシャン達とライブに立つ。

「やっぱさ、音を奏で合うって大切だよね。久しぶりに唄うから自信なかったんだけど、リハーサルやっていてわかったことがある。音楽ってさ・・・」

あ、共鳴だよね。1+1は2じゃなくて、1000くらいになるよね?
とか言うのか?と思ったら、

「音楽って、禊ぎだ!」

と、のたまった。

「みそぎ」って、おいおいおい!
なんとなくわかるけど・・・迷いや雑念が消えるくらいのパワーでるよね・・・とかそういうことだと思うけど・・・

せめて、初恋の味とか、言ってくれませんかねえ。

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