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夏の終わりに聴きたいシャンパンのような唄声について。

明日、夏が終わる。
天気予報は「明日は貴重な晴れになるので、お洗濯があるなら明日中に」と言っていた。
明後日からは秋の雲に覆われる。
ずっと雨らしい。

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夏の終わりは淋しい。
東北に越して来てから尚更、そう思う。

こんな日は、稲垣潤一さんの「夏のクラクション」をエンドレスで聴いていたい。
作詞は売野雅勇さん、作曲は筒美京平さんという、ありがたすぎる作品です。

リリースされたのは、1983年、7月。

始まりの詞が、とにかく美しい。

海沿いのカーブを 君の白いクーペ
曲がれば 夏が終わる

「海沿いのカーブ」を見せられて、
次に「君の白いクーペ」が登場し、
遠ざかるのをゆっくりと見送り、
夏(恋)が終わっていく・・・

最初のたった2行で、音の無い8ミリのフィルムを見せられているようだ。
そう、歌を聴いているのに、音が聞こえない映像の中にいるような気がするのだ。

どうしたら、こんなに計算された美しい詞が書けるのだろう。

売野雅勇さんの詞を最大限に活かしているのが、稲垣さんの声。
少し肌寒くなった海岸で、辛口のシャンパンを飲んでいるような気持ちにさせる。

傷跡に注ぐジンのようだね
胸が痛い 胸が痛い

怪我したとこにジンを注いだことはないが、この表現にはシビれる。
誰も悪くない。そう思わせる。

そして、サビで、

夏のクラクション
Baby もういちど鳴らしてくれ in my heart

と、突然、音のなかった世界に音が登場する。

夏のクラクション
あの日のように 聞かせてくれ
とぎれた夢を 揺り起こすように

いつも彼女は車で来て、車で帰っていったのだろう。見えなくなる寸前にクラクションを鳴らしていたのだろう。クラクションを聞くたび、彼は愛されていると感じただろう。

このサビが、すごく印象的だ。
「夏のぉぉぉ〜クラクション」と唄う。
稲垣さんが、この唄いかたを提案されたらしいが、この唄いかたじゃなければ、この曲は全く違う曲になっていたような気がする。あの稲垣さんのシャンパンのような声で唄われるのだ。
夏よ、終わらないでくれ、と。

せつないったら、ありゃしない。

もうずっと夏の終わりでも良い気がしちゃう。

この曲でサラリと唄われているのでスルーしがちだが、ふたつ目のAメロで、 

悪いのは僕だよ
優しすぎるひとに甘えていたのさ

と謝っちゃってる。
もしかして、年上の女性だったんじゃないか。彼女のことを、ちょっと振り回しちゃったんじゃないか。
と、ちょっとだけダメ男なとこを匂わせるのがきゅんとくる。
完璧だと思っていた相手が「悪いのはぼくだよ」と言っちゃうところが良い。ファンの方々は口を揃えて言うだろう。

「そんなことないわ〜」って。

男性が謝るのは、潔い。
そう思ってなくても、一度、謝っておくと、聴く側は素直になる。(笑)

余談だが、この唄の「海沿い」は、湘南のような気がする。湘南であって欲しい。
逗子とか葉山とか、都会から一時間くらいで行ける海じゃないとダメだ。彼女は都会に住んでいる気がするから。

と、妄想にどっぷり浸ってしまう夏の終わり。

シャンパンのような声が、ずっとずっとループで唄っている。

私は曲が書けないので、作曲は神の領域だと思っている。京平先生は、私の全く預かり知らぬ世界で、まるで美しい彫刻を彫るように曲を完成させていらした気がする。

※たった一度だけ、京平先生の曲に詞を書かせていただいたことがある。今井美樹さんの「光の夢」という曲だ。彼女の2枚目のアルバム「エルフィン」に収録されている。
天国の京平先生、ありがとうございました。

※今日は、nanamanさんの写真を使わせていただきました。ありがとうございました。

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