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仙人からのチョイワルおじいちゃん

「サンドイッチ弁当作ったんだけど、お父さん食べるかな?」
「食べます。」

朝の生存確認メールにて。
今日はオトンの家に娘訪問介護に行くことにした。

(今までのおとぼけ父娘日記を集めてマガジンはじめました。このnoteの最後にマガジンについての思いが書いてあります。)

・・・

しばらく私の調子が悪くて、オトンに会いに行けていなかったのだが、その日の朝は私の調子がとても良く、ウキウキと息子と父と私のサンドイッチ弁当を用意した。

前回の娘訪問介護では、父の元気がなくて大好きなテレビも観ずに、ずっとベッドに横になって目を瞑っていた。
いつもは私が掃除や洗濯している時も父はニコニコ面白い話をするのにその日は殆ど喋らず、手作り弁当も静かにモソモソ食べていてとても心配だった。

それなのに、私自身の調子がイマイチで、なかなか会いに行けない自分を責めてはモヤモヤしていた。

よし、今日は行くぞ!オトン、待っててね!!

お弁当とエプロンと沢山お土産を持って。(もちろんお気に入りのマグヌードルも。)
5月になりすっかり暖かくなった陽と風の中、自転車を立ち漕ぎで父の家へと急ぐ。風に乗ってくる新緑の香りも気持ちが良い。

玄関のチャイムを鳴らしても聞こえないので合鍵で家の中に入り、テレビを観ている父の顔を覗き込む。「いらっしゃい!」と笑顔で言う父がいた。私も笑顔になる。
「お父さん、元気そうだね!」「うん、じゅんみはちゃんは元気になったの?ムリしちゃだめだよ。」
そんな優しくて可愛いオトンが私は大好きだ。

先ずは洗濯。
洗濯物を見るとお風呂に入っているか、着替えはしているかなどがわかる。暖かくなったからか、何度か入浴しているようだ。ヒゲもキレイに剃っている。キッチンのフキンも取り替える。水切りラックのフキンにふせてあったカップもキレイに洗ってある。
調子が良いのだな。ホッと一安心する。
リネン類やテーブルのランチョンマットも替え、洗濯機を回し、布団や毛布、枕、ラグをベランダに干す。

「お兄ちゃんの家に行ってね、ワンコと遊んだんだよ!ワンコが動き回って元気でねぇ、とっても可愛かったよ。」と顔をクシャクシャにして幸せそうに嬉しそうに笑っていた。
父は兄のことが昔から大好きだ。多忙を極める兄は、何とか時間を作っては父に会いに来てくれる。兄は父自慢の優しくて明るい親孝行な息子だ。
きっと素敵な楽しい親子の時間だったのだな。
だから父がこんなに元気なのだろうと、温かい気持ちになった。

いつも通り新幹線?の速さで一通り家事を終えると、お楽しみのランチタイムが始まる。
今日も紅茶をタップリ水筒に入れて持ってきた。色とりどりの小さめにカットしたサンドイッチを父が美味しそうに頬張る。
「ちょっと、お父さん!もう少しよく噛んでゆっくり食べて!喉に詰まるでしょ!」私は相変わらず怖くて気の強い娘。「ゆっくり食べてるよー。」ニコニコ食べている。
「美味しいね!」「うん、美味しいね!」
好物のイチゴサンドは、後で食べるから冷蔵庫に入れてね。と嬉しそうに取ってある。

サンドイッチを食べながら、ふと「もしさ、お母さんがまだ生きてたらどんな感じのおばあちゃんかな?」と聞くと、
「きっと歳をとっても賑やかでオシャベリだよ。」
と、口の前で手をグーパーさせて、オシャベリのジェスチャーをするオトン。可愛い。
「お母さんが亡くなってそろそろ10年経つかな?」
「え???もう18年だよ?」「あ、そっか!」とニコニコしている。え?大丈夫??
ちょっと、というかかなり不安になったけど、まぁいいか。

髪の毛がだいぶ伸びて再び仙人になりかけていたので、散髪セットを持ってきた。
お腹もいっぱいになり、暖かい空気の中でイスに座っている父は、私にバリカンでガンガン散髪されながらも、気持ちよさそうにウトウト居眠りしていた。
毛量が多く、黒々していた父の頭は、白髪になり頭頂部が少し薄くなってきた。それだけで涙が出る。オトンがおじいちゃんになったと共に、私もすっかりおばさんになってしまったようだ。相当涙もろくなった。
襟足も、剃り残しのヒゲも、長く伸びた眉毛も丁寧に整えた。

「はい!チョイワルおじいちゃんになったよ!」
鏡でチェックすると、父の気分はジローラモさんらしく「ありかとうね!」と背筋がピンと伸びていた。
いつもは入りたがらないお風呂に足取り軽く入って行った。洗いたてで、よく乾いたお日様の香りのする肌着とバスタオルを用意しておいた。

外を見ると、ついさっきまで晴天だったのに雨雲が近付き、今にも降り出しそうだったので慌てて帰ることにした。
お風呂を覗き込み「雨降りそうだから自転車で帰れるうちに帰るね。」と言うと、サッと恥ずかしそうに体を隠した父が「ありがとう!気を付けてね。」とニッコリしていた。

雨が振り始める前の湿った香りのする風を切って、立ち漕ぎで帰り道を急ぐ。

家に着くと雨雲が消え、また晴天に戻っていた。
「あ!帽子忘れた!」と気付く。慌てて帰ったからだ。私のお気に入りのデニムキャップ。

オトン、近々帽子を取りに行くね。また美味しいお弁当を持って。
あとさ、長くかかった検査が全て終わってね、再発も転移もしてなかったよ。これからも反抗期の娘は、オトンとのおとぼけ訪問介護を楽しみにしてるから。
だからさ、お願いだから、元気で長生きしてね。

空を見上げ、雲が切れてまた顔を出したお日様を見ながら、そっと心で呟いた。

・・・

チョイワルおじいちゃんになって、ご満悦♪のオトンを描きました。

・・・

「娘訪問介護日記」というマガジンを始めてみました。

私は以前、介護のお仕事をしていましたが、乳がんとお腹の別の手術で体力と気力が低下し、お仕事での介護はできなくなりました。
父は元々社交的で明るくて活発だったのですが、病気による聴力の低下から引きこもりがちになり、それから徐々に体力と気力も低下していきました。認知症はありませんが、家事ができない(やらない)人なので父は弱ってしまいました。

「娘訪問介護」なんて偉そうに書いていますが、
お仕事としては、できなくなってしまった「介護」を、父子家庭で兄と私を育ててくれた父に、私自身の調子が良い時に不定期で会いに行くことで「娘介護」をやらせてもらい、更に父に癒やしや安らぎをもらっているような感じなのです。

私が父をお手伝いしているようでいて、本当は父が私を今でも助けてくれているんだなと思っています。

家事や料理は適当にできるけど、体力が続かない、力仕事はできない、口ばかり達者で強気で甘えん坊な反抗期の娘と、
家事はできないけど、心が優しくて温かくて面白い父とのおとぼけ日記を集めたマガジンです。

読んでくださりありがとうございます! 嬉しくて飛び上がります♪ 私の心の中の言葉や絵を見て何か感じてくださればいいなと願いつつ。