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Antonioとのレッスン(サックス)

長らく練習を続けてうまくならないサックスだが、コロナの中でちょっと思うところあったのか、オンラインレッスンを受け始めたのは2年前か。コロナの中で、オンラインレッスンを提供する会社(ウェブサイト)が急に増え始めたのだ。オンラインレッスンといえば語学が主だが、世の中がぐっとオンラインへ向かう中、楽器レッスンも、そしてサックスのレッスンを提供するところも多少出てきたなと思ったからだ。

無料レッスンを渡り歩く

実は、Antonioにたどり着くまでには何人か、所謂初回の無料レッスンを受けた。講師もクラシック系だったり、ポピュラー系というかフュージョン系だったり、と志向もまちまち、そして相性もいろいろだからだ。
私は首都圏にいた時分、ヤマハ音楽教室をはじめ個人まで、多数の講師にサックスを習ってきたから、どんな先生がいいか、合わないか、多少は心得がある。
大学のビッグバンド出身のBさんは、感じの良い青年だったが、会社勤めの傍らの講師で、引っ越し転職の時期で、あまり日程が取れない人だった(1-2回で離脱)。また関西方面のCさんは、バークリー出の渋好みのプレイヤーだが、なぜかアンブシュアへのこだわりが異様に強く、レッスン時間のほとんどをその説明に費やしてしまう(オンラインレッスンはいいところもあるがアンブシュアなどは教えてもらいづらい)。私も結構ダメ出しをされ2回で離脱。そしてまた関西方面のDさんは、なかなか良い先生だった。まじめに取り組んだことのなかったオーバートーンの練習の重要性を説明してもらい(これは今でも続けている)、効率の良いアドリブの練習方法を伝授してもらった。しかし、結構レッスン料が高く、3-4回で離脱。どんな質問にも的確に答えてくれるので、余裕があればまたお願いしたい先生だった。また東京方面のEさんは、中年の円熟プレイヤーで歌謡曲の伴奏が得意そうな先生だった。ジャズだって吹けるとおっしゃっていたが、なんとなく彼のデモ演奏が私に合わない気がして1回で離脱。
私はなんとかレッスン料を下げられないかと(1時間3000円前後まで)、以前から海外、それも欧米ではなくアジア系の先生などに習えないかと密かに思っていた。いくつかのオンラインレッスンのサイトを物色するうち、Preplyなるウェブサイトにたどり着き、そこでサックスの先生として登録されていたのがAntonio。多数の講師登録があるが、明らかにジャズ畑の講師は彼くらいだったからだ。

Antonioとのレッスン

Antonioは若いアルゼンチン人だ。レッスン料も日本の先生の半額くらいだった。初回のレッスンを申し込むと、スムーズに予約ができ、レッスンを受けることができた。
彼は当初イギリスから接続してきた。もともとアルゼンチン人だが、欧州で暮らしたいと考えているのか、ロンドンに定住しようとしていた。ところが、家族との絆が強いのだとか、時々帰郷したアルゼンチンから接続してくる。その後、彼とのレッスンは2年近く続いているが、現在彼はバルセロナにいる。おそらくイギリスには定着できなかったのだ。彼女と暮らしており、音楽で身を立てていきたいと考えているようだが、まだまだ現地の音楽業界で仕事を得るほどではなさそうで、またオンラインレッスンの予約状況もほとんど埋まっていない。
私がAntonioとのレッスンに落ち着いたのはもちろん後述するレッスン内容がよかったからだが、明るい性格で、生徒を否定せず、今後の練習の展望を与えてくれるという点だろう。Antonioは大学で音楽を専攻しているが、彼と同様、素晴らしい先生から教授を受けてきたのではないかと時々思う。

レッスン1:練習を分解せよ

Antonioから、スケールやアルペジオ、あるいは初見でフレーズを吹く際に「アーティキュレーションをつけずに、譜面のリズムどおりに単に音符をレガートで吹くように」と言われた。確か私が、ある2-5-1のフレーズを吹いて見せた時だと思う。Antonio曰く、運指の練習と、口を伴ったフレージング(アーティキュレーション)の練習とは分けて行い、指が付いていけていない段階では、アーティキュレーションはつけないほうがいいという。私が吹いたのは、いわゆるジャズっぽいシンコペーションを伴ったタンギング付きのフレーズだったからだ。最近は慣れたが、ジャズっぽく吹く癖がついていたので、譜面のリズムどおりに単に音符をレガートで吹くのは意外に難しかった。
Antonioはリズムに厳しい。3連符がきちっとはまっているのか、付点の長さが正しいかとか。レガートで吹くと、それがよく分かる。

レッスン2:BPM60にスローダウン

Antonio曰く、ボブ・レイノルズの受け売りでもあるとのことだが、吹けないフレーズは、メトロノームを60とか80に落として、ゆっくりで噛みしめるような感じでいいから、練習しなさいと言われる。60というといわゆるバラードのテンポなのだが、あまりにゆっくり過ぎて、不思議な感じがする。しかしAntonio曰く、スピードに頭を奪われて、やっつけで演奏するのではなく、運指に集中しつつ、時間的な余裕をもって、音が響いているか、次のコードは何か、と考えながら、進む練習をするのだという。その後、私はアドリブの書き譜などを吹いてみるときにこの方法をとったり、irealProで練習する際にまずは60か80でやってみるようにしている。
それから、書き譜を演奏するときにはYouTube音源で実際の演奏を再生速度を0.75とか0.5に落として聞くようにしている。(Youtubeのいいところだ)細かいニュアンスを含めて確認できるからだ。パーカーのオムニブックから数曲練習した時には、パーカーの200なんぼBPMの演奏を0.5倍速とかさらに遅いスピードで再生した。驚くなかれ、パーカーのぶっ飛ぶようなスピードのフレージングは恐ろしくリズムがタイトで、どんなにゆっくり聞いてもイーブンに8分音符や16分音符が吹かれているのだ。

Antonioとのレッスンは、特定のよい教材があるというわけでもないのだが、ある課題(私ができないこと)を克服するための練習の仕方について、なぜそれが有効かという理屈を伴って、結構ポイントをついた内容になっている。多くのレッスンを受けてきたつもりの私だが、「だんだんスピードを上げる」「シンコペーションを無意識にできるように」といった何となくの共通項があったと思う。しかしそれらとは異なるアプローチで、Antonioには有効なロジックを示してくれ、私には説得力があっていつも感心するのだ。Antonioのヒントは、まだまだあるので、改めて書いていきたいと思う。


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