続・ニセモノ「弁護士」を見破る方法について(登録番号・弁護士会・修習期等々)

「ニセモノ『弁護士』を見破る方法について」、最初の記事を読んで下さって、ありがとうございます。

 今日は、何故、上記の記事に上げた、ニセモノ弁護士を見破る「質問」が有効なのか、という背景を、ちょっとだけ説明したいと思います。

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 弁護士の世界って、閉ざされていてよく分からないことが多いと思います。実際、取り扱うジャンルが違ったりすると、同じ弁護士と言っても全く違う職業みたいな感じで、働き方や”あるある”なんかも全く違ったりもします。
 とはいえ、弁護士という資格自体は、基本的に皆同じプロセスをたどって取得することになるので、弁護士になるまでに経験することは、基本的に同じということになります。

・司法試験合格後

 いわゆる「法曹」には、大きく、裁判官・検事・弁護士という三者があります。前二者は国家公務員ですが、弁護士は、その執務する業務により公的な役割を果たすこともありますが、資格そのものは、いわゆる公務員には該当しません。(なお、裁判官や検事も、皆弁護士と全く同じ「司法試験」に合格しており、その後資格を得るまでも、特段、何か特別な試験を受けることはありません。)

 司法試験に合格しますと、「修習」という制度があり、これを経て皆、法曹三者のどれかになります(この修習期間中の人々を「修習生」と呼びます)。

 当職の時代の修習開始時には、修習を始めるときに出す最初の書類に、何を志望するか?というアンケートのようなものが付いており、これに、例えば「裁判官希望」とか「検事希望」とか「弁護士希望」とか書くわけです。それで、裁判教官や検察教官(リクルーターを兼ねています)は、修習期間中に、その修習生の志望と照らし合わせて、見込みがあるか、面談したり、実務修習や起案の様子を見たり、成績を見たりして、希望に沿う結果になるかどうか、決めていくわけですね。
 何も志望していなければ、基本弁護士になるので、弁護教官には特段そういうリクルーター的機能はない(はず)です。もちろん、就職の方向性に悩んでいるということがあれば、相談に乗ってくれたりするのですが。
 それから、本人が最初の希望に何も書いていなくても、例えば何かキラリと光るものとか、同じ匂いを感じるとか(?)、そういうことがあれば、裁判教官や検察教官が一本釣りしたりします、たぶん。

 修習の終了時には、二回試験という地獄のような試験があるのですが、そのころには、上記のプロセスを終え、「自分は何(どれ)になるのか」というのが分かった状態になっています。この二回試験は、いわゆる卒業試験みたいなものなのですが、それも三者皆、全く同じものを受けます。裁判官や検事にならない人は、皆、基本、弁護士になり、同じ修習期の人々は、その時の年齢がどうあれ、皆「同期」というくくりになります。 

・登録番号と修習期

 法曹三者の中で、「登録番号」というのを持っているのは、弁護士だけです。これは、各弁護士会に登録してから、もらうんだったっけな…いや、でも、弁護士バッジを見ながらクラスの部屋で同期とわいわい番号について話した覚えがあるので、少なくとも、自分の登録番号が書かれた紙を受領したのは、研修所だったような…すみません、もはや15年以上前なので、記憶があいまいですが、いずれにせよ、弁護士バッジといっしょに登録番号を受領したんだったと思います。
 そして、登録番号は、ランダムではなく、登録者1人ごと、1つずつ番号を打っていき、他人と重複しないように決められていきます。ですので、登録番号を見れば、おおよその修習期(何期か)が分かるんですね。

 当職は旧60期なのですが、この期の登録番号は3万番台の半ばでした。
 今(*2023年)はもう、一番期の若い弁護士でも6万番台だろうと思います。(このあたりは山中理司先生のブログででも探して見ていただければ…)
 
 そんなわけで、いま現役で活動している弁護士のほとんどは5桁台で、そのうち1万番台前半の方は、もはやかなりのお年です(でもこのころの司法試験合格者数の少なさといったら…ゆえに毎年の登録番号の進みもゆっくりなはずですよね)。そして、さらに4桁台(数千番台)の登録番号の方は、もはや仙人か神レベルです(たぶん)。「自由と正義」(*日弁連の会報誌の名前)の登録取消欄なんか見ていますと、やはりこのあたりの番号のセンセイの記載が多いです。 

 そして、法曹界隈は、どちらかというと、年齢よりも「何期か」ということを気にする傾向にあります(喧嘩の相手にお前何年だ、っていうやつと同じマインドですね)。弁護士には、登録番号があり、上記のように修習期と登録番号が基本的にリンクしているので、登録番号から修習期を推測することができるわけです。 

 ちなみに、昔は留学などの理由で一度弁護士登録を外してしまうと、また新たな若い番号が付されてしまっていたのですが、それだと、実はだいぶん中堅なのに超新人弁護士みたいに思われてしまう、それはちょっと…というような、内輪の(しか気にしないような、でも内輪ではとても重要な)事情がありました。その懸念を払拭するために、少し前から(といってもたぶん10年くらい前から)、その時点では単純に欠番になっている、自分のもとの登録番号を取り戻すことができるようになりました。

 このように、弁護士として登録するまでには、だいたいどんな人でも上記のような事情を経験・認識しているはずなので、ニセモノかどうかを確認するには、まず「何期ですか?」「登録番号は?」という質問を投げかけるのが、有効と思われるわけなのです。登録数日の新人弁護士でもない限り、自分の番号は基本的に皆、そらで言えるはずです。

 昔むかし、未成年者がライブハウスとかクラブに入らないように、入り口の人が干支を聞く、みたいなことがありましたが(いまもあるんだろうか…)、それと似ているように思います。

・所属弁護士会

 前回の「ニセモノ弁護士」の時にも書いたように、弁護士は、すべからく日弁連の会員として登録されています。これは義務で、弁護士と名乗るからには、登録をしなければなりません。

 そして、日弁連の会員として登録されるためには、まず各地域の弁護士会に所属する必要があります。当職は東京弁護士会というところに所属しておりますが、全国の都道府県には、弁護士会が各一つ以上あります。東京は人数が多い関係もあり、「東京弁護士会(東弁)」「第一東京弁護士会(一弁)」「第二東京弁護士会(二弁)」の3会があり、まとめて「東京三会」と言われたりします。

 それから、これはまったくの余談で、これを書くために調べていて気付いたんですが、各地の弁護士会が「〇〇県弁護士会」という表現だったり、”都道府県”の記載はなくて「○○弁護士会」だったりするのも面白いです。埼玉や群馬、京都、大阪などは、「県」「府」などが弁護士会の名前に入っていないんですね。何故なんでしょう、語呂の良さでしょうか。なお、北海道は大きいためでしょうけれど、「札幌」「旭川」「函館」「釧路」と分かれていますが、この北海道と東京以外は、弁護士会は一都道府県に一つで、その中に地域をつかさどる「支部」があったりします。
 ちなみに昔は神奈川県は「横浜弁護士会」という名称でしたが、少し前に、横浜だけが神奈川じゃねえぞ!勝手に神奈川レペゼンすんな!という一揆が起こり(たぶん <ちなみに当職は非横浜の神奈川県出身者です)、いまは「神奈川県弁護士会」という名称になっています。このように、県庁所在地の名前=弁護士会名として、残るは、石川県(金沢弁護士会)のみのようです。

 自分の所属する弁護士会は、職印の登録とか事務所所在地の登録等の色々な手続をする先だったり、各種委員会だったり、研修や各種配転を受けたり、それよりも何よりも毎月それなりに高額な会費を支払わなければならない先なので、自分の所属する弁護士会を尋ねられて「あれ?どこだったっけな?ごめん忘れちゃった」という弁護士も、まずいません。

 そんなわけで、弁護士を名乗る人に、あなたの所属する弁護士会はどこですか?と聞くことも、ニセモノかどうかを確認するのには、有効なはずなわけなんです。

・弁護士バッジ

 いろいろ書いていたらとても長くなってしまいましたが(ここまで読んで下さってありがとうございます)、最後に弁護士バッジの話をしようと思います。(裁判官と検事もバッジがあるんですが、それは私の知っていることは少ないし、またの機会があればということで。)
 弁護士バッジは、ヒマワリの花を象ったもので、一人に一つ登録の際にもらえるものなのですが、裏面には、自分の登録番号が彫り付けてあります。ゆえに、弁護士バッジを落としちゃいますと、誰が落としたか、すぐ分かっちゃうということになりますね。ちなみに、これをつけていれば、裁判所の入り口で荷物検査がある場合でも、検査なしで通過できます。私は会員証の提示で済ませちゃうことが多いですが。

 そしてどうでもいいことですが、この弁護士バッジは造幣局が作っています。けっこう弁護士でも知らない人が多いのですが、裏面の登録番号の下に「造幣局製」と、小さく刻んであるんですね。

 恐らくニセモノ弁護士が出てくるシーンは、最近は電話やアプリなどの連絡であることが多く、実際弁護士をかたる人物に直接面と向かうことは稀なのかもしれませんが、もしその人が弁護士バッジとおぼしきものを付けておられるなら、ちょっと見せて、と、裏面を見せてもらって、登録番号と合致しているか、こっそり日弁連のサイトで確認してみたらいいかもしれません。

 そういえば、これを書いていて思い出したのですが、バッジは基本金メッキされているので(ごくまれに純金製の特別製を注文する人もいますが)、もらいたてのときは、ほんっとうにピカピカなんです。それが恥ずかしくて(いまとなってはむしろそれが恥ずかしい話ですけど)、皆、お財布の小銭入れに入れたりして、金メッキが早くはがれるように小細工したりしていました。まあ、そんなことしなくても、分かる人には新人だって、簡単に分かっちゃうし、新人であっても腕が立つ人は立つし、いくら年とっても腕が立たない人は立たないんですけどね、きっと。
 
 では、また。


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