キュビストとわたし～キュビスム展＠西洋美術館
わたしの持っている資格と言えば、一昨年に認定され現在絶賛活用中の「日本語音読指導者」一連のもの、あと昨日まで長いこと忘れていましたが、「美術館学芸員」です。
昨日は父に頼まれて実家近くのソフトバンクに行き、インターネット契約に付き合いました。
お昼を食べながら、「学芸員の仕事をしないのか？」と尋ねられて思い出しました。大学で学芸員課程後に試験を受けて取った資格、美術館の数が限られているので非常に狭き門、就職氷河期でもあった大学４年生のころだから、とっくに諦めてそのままになっていました。大学でも富山出身の先輩が大学院修了後地元の美術館に就職したという話しか聞いていません。
たまたま、午後は上野の西洋美術館に行くことにしていました。目当ては「キュビスム展」。
大学時代に西洋美術史を専攻し、２０世紀美術が好きでフランス人画家ジョルジュ・ブラックの作品を研究、色々な切り口で数回ゼミで発表し、４年は卒論の年、「ジョルジュ・ブラックの触覚主義について」というタイトルで卒論を書きました。
ブラックはピカソと一緒にキュビスムという美術運動を起こしたことで知られています。日本ではあまり認知されていませんが、フランス人はみな知っています。亡くなったときは国葬が行われました。
世界には無数の美術館がありますが、わたしが一番好きな美術館はパリにあるポンピドゥセンターかピカソ美術館です。一番好きな、と言ったものの迷うなあ甲乙つけがたい、訪れた回数はピカソ美術館が圧倒的に多いからピカソかなあ。しかしポンピドゥは箱も中身もいつ行ってもワクワクします。
ちなみに日本国内に限定すると、木場にある東京都現代美術館、一度しか行ったことないけど丸亀にある猪熊弦一郎現代美術館です。やっぱり二館選んじゃうんだな(;'∀')
２８日まで上野の西洋美術館で行われている「キュビスム展美の革命」はポンピドゥセンターの作品で構成されているのでわたしの好みドンピシャでした。
入ってすぐにキュビスムの名付け親である詩人アポリネールのことばに討たれます。
ー芸術の大革命
ーキュビスムが従来の絵画からはっきりと峻別される点は、キュビスムが模倣の芸術ではなく、創造にまで高まろうと目指す概念の芸術であるということだ。
キュビスムはもうよく知られていますが、対象を遠近法など使い人間の眼に見える通りに描くのではなく、様々な角度からとらえた対象を一枚のキャンバスに描いたりする実験的なムーブメントです。地味な色で対象を分解しまくった「分析的キュビスム」、それらが落ち着きを見せパピエコレと呼ばれる文字の書かれた印刷物や壁紙を貼り付けたり、櫛で模様をつけ木目に見せたり、色彩も復活した「総合的キュビスム」の２段階を経て進みますが、ブラックが第一次世界大戦に出征したことで突如途絶えます。
以降はホアン・グリスなど後進のキュビストたちがキュビスムを推し進めていきます。
アポリネールのことば、今まで当たり前で会った美術の様式と全く違うことを始めたキュビストたちを称えています。ピカソとブラックは決まった画商からしか作品を世に出していなかったのですが、その後のキュビストたちは積極的に公募展などに作品を出したので、人々の嘲笑を受けたり愛国心がないなどと非難されたりしたそうです。（展示で知った）
今となっては現代アートのスタートのように言われますが、当時は完全にマイノリティで疎ましかったキュビスム。
笑ってしまいました。
もともとは印象派の祖マネが好きでゼミに入ったのに、ちょっと絵を見るようになったらキュビスム画家を選択し、現代美術Loverになった。
約四半世紀後、自然派な考えになり、薬は飲まない、注射もしない、子どもの教育についても学校に否定的になったり、マジョリティグループにいない構図に。
そういう気質なのだろうか。
おこがましいですが、今の常識に「違う！」と思う気持ちをキュビストたちに沿わせてしまいました。
ポンピドゥの所蔵作品だけあって、画集などですでに知っている絵ばかり、大変贅沢な展覧会でした。
やはりピカソとブラックが二人で黙々と実験していた時代の作品が好きで、のちのキュビストたちが展開していった作品にはあまり心が動かず、ブランクーシとモディリアーニの彫刻の美しさにしばし立ち止まったくらいで後半の作品はすいすいっと観て終わりました。
アートなお土産ゲット。いつも気に入った作品のポストカードを数枚買いますが、なんということ！ブラックのが一枚もない！トートバッグと水筒に注力しました。
とにもかくにも、ひとり自由に思考しながらの美術館、楽しゅうございました。
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