【歌詞小説(短編)】ディ・ドリーム・ビリーバー~忌野清志郎~

 「次はこの曲にしましょう!」 先生が教室のみんなに言った。
 「みなさん、この曲知ってますか?」

  知ってる。
 あのふざけた外観が大嫌いだったから、
 テレビに出てきてもすぐにチャンネルを替えていたのだが、
 あの時はたまたま手が離せなくて、チャンネルを替えている余裕がなかった。

 この人、見かけによらす素敵な歌を作るのね…
 人を外見で判断すると、大切なものを見落してしまうかもしれないな…
 知らないうちに手が止まってて、テレビの中の彼に見入ってしまったあの時のことをだんだん思い出してきた。
 
 ずっと夢を見て 安心してた
 僕はDay Dream Believer
 そんで彼女はクイーン
 
 まだうら若き娘だったワタシは
 こんな恋ができたらいいな…なんて思った気もする。
 
 あれから30年・・・
 この歌は忌野清志郎さんが、自分の母親のことを想って歌った曲だと知る。

 ずっと夢を見て幸せだったな
 ずっと夢を見て今も見てる
 ずっと夢を見させてくれてありがとう。
 僕はDay Dream Believer 
 そんで彼女はクイーン
 
 ワタシの写真を見ながら
 息子が清志郎さんのように思ってくれたら
 写真の中のワタシもきっと微笑み続けていられるだろうね。
 
「この曲は、とにかく楽しそうに、元気にやってください!」
 先生が私たちの顔を見る。
「先生、まかせて!元気だけはあるから!振付は覚えられんけど」
 あはは、と笑いながら、
 両手を大げさに振り回し、軽やかとは程遠いステップを踏む。
 
 息子よ。
 こちらこそ、ずっと夢を見させてくれてありがとね。
 I was a daydream believer
 And you give me precious days  

 追伸
 忌野清志郎さんは、初めて実の母親の写真を見た時、こう思ったそうだ。
 “わーい、ぼくのお母さんて こんな可愛い顔してたんだぜ 
 こんなに可愛い顔して 歩いたり、笑ったり、手紙を書いたり 歌ったり  
 泣いたりしてたんだね”
 (忌野清志郎自伝的私小説「ネズミに捧ぐ詩」より)

清志郎さん、チャーミング❤

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