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Cry for the moon. ~あなたのいない朝

カタチが自分を決めること。
状況が自分を決めること。
そのことを気づかせてもらって、私は前に進めた。


自分を貫くことは、時には必要だと思う。

けれど、自我を押し通そうとするのは、ちょっと違う。

自問。それが最善なのか?と自問することを忘れてはならないと思う。

『こうありたい』という想いの中に、他者への思いやりがあるだろうか?
『こうありたい』と願うことは、自己満足や自己都合ではないだろうか?
正しさや善意の押し付けに、なっていないだろうか?

確かに、やってみなければ結果はわからない。
誰だって、自分が一番可愛いし本能的に自分を守ろうともする。
ただ、ほんの少し立ち止まって問い直すことはできると思う。


子どもでなくなった私たちは、そのことを自問する必要が少なからずあるのだと思う。


英語の慣用句にこんな言葉がある。


―― Cry for the moon.


叶わないことを望むこと。

シンプルに訳すと『あの月を取って、と泣く』だろうか。


夢を追うことは素晴らしいし、目標があるから前に進める。
目的地という到達点を定めることで、人のモチベーションは何倍にも増幅される。

事実、衛兵の訓練で「目的地を伝えたグループ」と「目的地を伝えないグループ」にわけて歩かせたところ、疲労度が何倍も違ったというデータがあると聞いた。

それくらい、目的地の認識は身体パフォーマンスにも大きな影響を及ぼす。


それゆえに目標のない自己研鑽は惰性に陥りやすく『こうありたい』と望むことは、人が動くためのエネルギーになる。


『あの月を取ってと泣く』ことと、『あの月に行きたいと泣く』ことは、似ているようでまるで違う。

行きたいと思うことは、そこに向かって前進する力を含んでいる。

あの月を取ってと泣くのは、駄々をこねて自分は動こうとせず、誰かの力をアテにしている。

欲しいものは、欲しいと思うだけではたぶん手に入らない。
もし手に入ったとしても、それはきっと偶然の産物でしかない。


『あの月に行きたいと泣く』のは、自分の中での葛藤がある涙。
『あの月を取ってと泣く』のは、他者に依存した涙。


それは子どもにだけ許される涙。
大人になったら月を欲しがって泣くことは、もうできない。
そのことを知らなければならない。


月は、どんなに泣いても自分のところにはやってこない。
それは決して叶わないことだから。
ただ、月に行こうと努力することはできる。


どんなに途方もない夢だって、いつか現実になる日が来るかもしれない。
マグカップを持つことが大変だった2歳の頃に、人と話しながらコーヒーを飲むことができる世界を知らないように、想像しなかった未来もというカタチが自分を決めてくれる日が訪れるかもしれない。

最適な努力込みの前提で。


カタチにハマったとき、その状況において結果的にそれが“正しかった”のであって、“正しい”からカタチにハマるわけではない。

『覗けた』つもりになっちゃダメなんだなと、つくづく思う。

それもやっぱりカタチをアテにするわけではもちろんなくて。
状況に最適にはめられるだけの、最善の努力をしたときに、はじめてカタチが自分を決めてくれると思う。


正しさを押し通そうとするのでもなく、善意を押し売りするのでもなく、訪れるかもしれない「何か」をただ待つのでもなく、
訪れるカタチを想像して、それに沿える自分の準備をしておくこと。
それが努力の正しいカタチなんじゃないかと思う。



恋も、きっと同じ。


自分が相手と一緒にいたいと望んでも、相手が望まなければそれは『月を取ってほしい』と泣くだけになってしまう。
相手の意図しないプレゼントも、善意の行為も、それがいくら正しく見えても、善意の押し売りにしかならない。

けれど、いつその時がきてもいいように自分の中での準備や、好意を伝える努力は必要だと思う。
方法はそれこそ死ぬほど考えるしかない。


恋にマニュアルなんて、ないから。


~雨だって晴れだって 願いは届かない
 あなたのいない朝は来るから
 今は信号が変われば流される
 思いよ逝きなさい


ドリカムの『朝がまた来る』

あなたのいない朝は来るし、信号が変われば流される。
まさにカタチが自分を決めている。

あなたのいる朝というカタチがいつかやって来るかもしれないし、来ないかもしれない。
でもその日が来ることをただ待つのではなく、その日が来てもいい自分になれる最適な努力をすること。

取れない月を思って泣くよりも、そこに行くために努力する涙を流したい。


でも。

そんなに言うほどカンタンじゃない。

取れない月とわかっていても、どうしようもないとわかっていても。

流さずにいられない涙があることを、知ってるから。

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