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よりみち読書会「震美術論」をおえて

よりみち読書会「震美術論」
2021年8月18日 10時〜11時半 インスタライブで配信

 よりみち読書会、最初の一冊は僕の選書から、椹木野衣「震美術論(2017、美術出版社)」を。積読の中から取り上げた一冊で、今回の機会がなければまた当分積読ままだったのではないかと思います。読書に付き合ってくれた、よりみちメンバーのお二人に感謝です。

読書会のルール
① 月一回、一冊ていど
② 選書はその回の担当者が、前回の本の内容をふまえて(つながるように)。
③ 参加はインスタライブか、事前に参加を表明いただければライブ機能でトークでも参加いただけます。(本は読んでね)
④ 参加の前に簡単なレジュメを用意。感想、話したい内容の要約

ライブ配信のアーカイブは残しません。理由はいくつかありますが、記録ではなく体験の共有のためだと思っているからです。


わからなくなる読書

 これは僕の読書感のようなものですが、理想の読書というものがあるのであれば、それは本を読むほど「わからない」ことが増えていく読書ではないかと思います。
 一冊読むと自分が何が「わからない」のかが、とりあえず「わかる」。なので仕方なく、また3冊、5冊と本を読む。するとまた「わからない」ことが出てくる、どんどん「わからない」こと「知らない」ことが増えていく、なので10冊、20冊と・・・。

 ですから、この読書会では次回の選書の基準は、今回の本から繋がっていく「わからない」ことがらになるかと思います。その「わからない」が数珠つなぎのように折り重なって網目を作っていくのではないでしょうか。
 また読書会ですから、複数の人間の視点が入り、同じ本でも複層的に眺めること(人の視点を借りて)できるかと思います。「わからない」網目が立体的に折り重なり見えてくる風景もあるのではないかと楽しみに思っています。

「震美術論」の感想

 本書は作者の前書「日本・現代・美術(1998年)」における「悪い場所」のアップデートの論考にさかれている。触ればいつの間にか元の話にもどる、改善しようと努力する故にまた「悪い場所」へと戻される、「忘却と反復」。同じ時間を何度もスリップするような既視感。

 (いつもイメージするのは、押井守「ビューティフルドリーマー」。押井守が指摘する通り日本のアニメはいつも同じ時間を繰り返している。コナン君は何年放送しても「見た目は子ども」であり、サザエさんは中の人(声優)が変わっても家族構成も年齢も変わらない。日曜の夕方にサザエさんが昭和、平成、令和と変わらずに放送され続ける意味とそのことから作られる共同幻想も「忘却と反復」と言えないだろうか。それは死なない身体であり、脳化した社会だ。脳は自然を嫌う。実際には衰え老化する身体を受け入れることからしか、何事も始まらないようにいつも思うのだ・・)

 既視感といえば、ペストの話題が出たあたりで、この本の出版年を何度も確認した。「2017年初版」にもかかわらず、まるで今このコロナ禍を暗示するような、これこそ著者が語る「事前の記憶」であり「避けがたい事前の問題」ではないか。まして8月終戦やお盆の合間に読むにつけそう感じた。

 本書では「悪い場所」「忘却と反復」を揺れること「震災」に見出した。そのために揺れない西洋と地球・宇宙的規模にまで視座を求めにもとめた。それは、「揺れない大地」=西洋、「揺れる列島」=日本と単純にすえると、かつての西洋と東洋、洋画と日本画のような対比や対概念に陥る危険があり、筆者はそのために膨大に紙面を投じたのではないだろうか。

 日本の固有性を「悪い場所」や揺れることに求めること、見出すこと。そのことの確信はおそらく「西洋」を使わずに自ら「日本」を語れる可能性を示したかったのではないかと思う。自らを持って自らを語ることができるのかと言う問いであり、それは歴史の問題なのだろう。「悪い場所」持ってなお紡げる歴史。


読書会の感想

 椹木野衣は難しい厄介だ、そう思っていた。それでも近著になるにつれだいぶ読み易くなってきたと。そう思っていたのだが、ジャンルの違う人と読書会をする醍醐味はいかに自分が蛸壷の中にいるかを知ることができるかにあるよう思いました。「わからない」ことを共有する、そういった時間は作ろうと思わないと中々持てないように思います。そういった意味では、共有する真ん中にあるものは「本」でもいいし、なんでも良いのだろうと思います。たまたま三人が好きなものが本だった。そしてどうせなら一人で読むには億劫なくらいの本をこの際だから読んでみよう、といった企画です。

 もし、よかったら次回以降も予定していますので、どうぞご参加ください。 


次回の選者
次回は、滝口克典さん選書の「日本社会のしくみ」小熊英二 著/講談社現代新書/2019年」です。

詳しくはこちらのページをご覧ください。https://note.com/junkikuchi/n/n76ea7ffbe8ad

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