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EACH STORY THE CAMP 2024@五光牧場オートキャンプ場
2024年10月5日(土)~6(日)
長野県・野辺山高原にある五光牧場オートキャンプ場で「EACH STORY THE CAMP 2024」。
2021年から本格的に始まったキャンプフェスで、出演ミュージシャンはアンビエント系主体。自分は普段からアンビエント・ミュージックを聴いているわけではなく、知らない(または音を聴いたことのない)出演者が大半ではあったのだが、「日本で一番美しい野外フェス」と言われていたことで興味を持ち、昨年の編集映像を見て「行ってみたい」と思うように。翌週には「朝霧JAM」があって今年も行くのだが、秋の間にもう一回くらいキャンプしたいねと妻と話していたこともあって、行くことを決めた。最後に発表された出演者のなかに気になっていたThandi Ntuli(タンディ・ントゥリ)の名前があったことも大きかった。
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雨で地面がぐちゃぐちゃにぬかるみ、オートキャンプ場では幾台かの車がスタック。そんな状況ではあったものの、設営したテントから歩いて会場に入るとすぐに「来てよかった」という気持ちになった。
まず規模感がちょうどいい。池の前にあるメインの「LAKE STAGE」、それを見下ろせる丘にある小さな「HILL STAGE」、森のなかの「RIVER STAGE」と3つのステージがあるのだが、すぐに動ける距離。飲食店(ラーメン屋さん、カレーや唐揚げの店、パンとコーヒー屋さんなど)もすぐ近くにあり、数は多くないけど、人の数に合っている。
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商業っぽさは皆無で、キャンプ場にも会場内にも案内の立て看板みたいなものはまったくなく、飲食店の人たちもみんなゆる~い感じ。コーヒーを頼んだらお店の女性がゆっくり豆から挽いて何度も味見をし、出てくるまでに15分かかったり。天然酵母のパン屋さんで妻が値段を聞いたら「いくらにするかまだ決めてなくて」と言われたり。ドーナツ屋さんで妻がドーナツを買おうとしたら「今、発酵中です」と言われたり。都会でそれだと「おいおい!」となるが、そのゆるい加減がそこでは嫌なものじゃなく。むしろ都会のテンポのほうが間違えなんじゃないかとすら思えてきたり。
お客さんも長野のコミュニティの人が多い感じで、子供を連れた人、犬を連れた人が、今まで行ったどのフェスよりも多かった。こういうところでのびのびと楽しんでいる子供は大らかに生きていけそうだなぁ、なんて思ったりも。
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そして「日本で一番美しい野外フェス」というのは嘘じゃなく、とりわけ夕方から夜にかけて森の木々や池に光があたったその景色は幻想的で本当に美しかった。霧雨が幻想的な景色をより一層のものとしていた一日目、晴れて澄んだ空気のおいしかった二日目と、両日それぞれのよさがあり、すっかり気持ちが和らいだ。
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一日目はChihei Hatakeyama×hakobune、Ishika、マヒトゥ・ザ・ピーZZZ(アンビエント・セット)、Thandi Ntuli、笹久保伸、space opera symphony、SUSO SAIZ、YAMA a.k.a. sahib、Henning Schmiedtを観た。二日目はEmily A. Sprague、ermhoiを観たあとテントを片付け、15時過ぎに会場を出た。
素晴らしかったのはThandi Ntuli、SUSO SAIZ、Henning Schmiedtの3組だ。
南アフリカのジャズビアニストであるThandi Ntuliは、配信で聴いて、いいな、ライブ観たいなと思っていたところ、数日前に柳樂光隆さんがインタビュー/執筆された記事がアップされ、それを読んだことで絶対にナマで体験したいと思っていた。
↓これを読めば彼女の音楽が深く理解できる…というインタビュー記事。
池を前にしたLAKE STAGEで彼女が演奏した時間帯はずっと雨が降っていたのだが、それでも僕は聴き入ってしまった。ピアノはクラシックの背景を持ちながらもジャズ的なのだが、ヴォーカルにはブルーズまたはR&B的な成分が濃くある。また南アフリカ特有のグルーヴもときどき含まれ、苦味と弾みが行き来したりもする。ジャズ!とかブルーズ!と固有のジャンルでは括れない、それらに近い何かといった感じに惹きつけられた。また南アフリカ出身ということでミリアム・マケバに対するリスペクトを話したりもしていた。いろんな歴史があった上での彼女のこういう音楽の深みなんだなと思いながら、それをこの景色、このシチュエーションで聴けるというのは実に得難い体験だなと思った。
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日が暮れて雨もやんでからLAKE STAGEに登場したSUSO SAIZ(スソ・サイス)は、「2010年代のニューエイジ・リバイバルの最重要人物の1人で、スペインのポスト・ミニマル/ アンビエントの巨匠」(EACH STORYのアーティスト紹介文より)。僕の思うアンビエントとはこういうもの、という感じで、催眠的という言い方が相応しい音。でも静謐でありながらも表現が揺らいでないというか。室内で聴いたらどう感じるのかはわからないが、照明のあたった池や木々の美しさと冷たい空気を見たり感じたりしながらその音に耳を澄ますのは「体験」として貴重なものに思えたし、不思議な安らぎがあった。「音楽を聴く」というよりは、集中していまここにある全てを耳と目と皮膚で「感じる」というような。そんな初めての体験により、「アンビエントは自然のなかで聴いてこそ」という発見と実感が確かにあったのだった。
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1日目の最後にLAKE STAGEで観たのは旧東ドイツ出身のピアニスト、Henning Schmiedt(ヘニング・シュミート)。「静謐でありながらも表現が揺らいでない」とSUSO SAIZの感想を書いたが、Henning Schmiedtのピアノ演奏もまたそういうもの。だがSUSO SAIZのそれとは違ってメロディがあるので、彼の弾くピアノからいろんな景色がイメージできた。曲解説も丁寧でわかりやすく、「雪」とか「池の蛙」とか、そういったものを頭に浮かべながら聴いた。「私はとても幸せです。なぜって、今こんなに美しい場所で演奏することができているのですから」。彼はそう言っていたが、そのことはよく理解できたし、観ている人たちみんなも「こんなに美しい場所で美しいピアノ音楽を聴けて幸せ」に感じていたことと思うし、僕はずっとこの時間が続いてほしいなと思ったりもしていた。
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もう一度書くが、「アンビエントは自然のなかで聴いてこそ」。アンビエント系アーティストの室内での演奏をろくに聴いたことのない自分が言うのもなんだが、それが初めてEACH STORYに参加しての僕なりの答えのようなものだ。音響も素晴らしく、得難い、幸福な体験だった。来年もまた行きたい。
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