interview: the Tiger / 今、ライヴハウスシーンで熱い注目を集めるthe Tigerとは、どんなバンドなのか。4人が話す”これまで”と“これから“。
とにかくライヴがすごくいいのだと去年あたりから評判になっていたバンドだ。ライヴを観た客だけでなく、共演したミュージシャン……しかも自分の信頼する40代~60代くらいのベテラン・ミュージシャンの何人かがSNSなどで「the Tigerはいい」と褒めていた。1~2年前からthe Tigerは“噂のバンド“だったのだ。YouTubeでライヴ映像を見てはいたが、これは実際ナマで観ないことには始まらない。そう思いながらも時間が経ってしまい、ようやく観たのが今年6月。なるほど、このライヴ力はすごい!と、そう思った。どこがどうすごくてどう魅力的なのか。それは翌日に書いたこの感想の通りだ↓
2023年に20代の若い4人がストーンズやザ・バンドからの影響を濃く感じさせるロックンロールやブルーズロックをこんなにも瑞々しく生き生きと鳴らしている……ということがなんだか嬉しかったし、上の記事にも書いた通り、カラダ丸ごと音楽に乗っかり、ときにマイクを両手で握りこんでシャウトするヴォーカル・りんの歌はこれからたくさんの人に力を与えるだろうと、そう思った。だから、ライヴを終えて物販に立っていたりんに、CDを買いがてら「ライヴがめちゃめちゃよかったので、今度ぜひ話を聞かせてほしい」と衝動的に言ってしまったくらいだ。
8月からバンドが来年発売予定のデビュー・フルアルバムのレコーディングに入ると、ライヴの感想記事を読んでくれたEDOYAのディレクターから聞いたのは、その数日後だった。ならば、そのアルバムが世に出るよりも前に、the Tigerがどんなバンドなのか、興味を持った人たちに知ってもらいたい……いや、誰よりもまず自分が知りたい!と、そんな思いから改めてインタビューをオファー。都内のスタジオでレコーディングが始まった8月中旬の暑い日に、その様子を見せてもらい、合間に4人の話を聞いた。
スタジオで、りんは、ライヴのときと同じように激しくカラダを動かしながら歌っていた。そうしないといられないのだ。つまり、理性などではなく、本能で歌う。男性3人もその衝動や躍動が少しも薄れることなく真空パックされるように演奏する。飾りなし、重ねなしの一発録り。そうして録り終え、やがてマスタリングも終わり、まずはライヴで慣らした1曲「金町」が11月29日に配信された。金町は、たいが、りん、あつしが共同生活している葛飾の地名。“ここからリスタートするのだ”“今すぐステージにあがるのだ”という意気を歌った曲である。前田サラのブロウが火を注ぐこの1曲から、まさしく“巡り巡る感情が“爆発して世に放たれる様がイメージできる。力をつけた虎が都市に放たれ、勢い盛んに走り出したのだ。
最高のリード曲「金町」と来年リリースのアルバムの話は次の機会に回すとして、まずは今回、4人の音楽的ルーツと、出会いから現在に至るまでの話を、しっかり紹介しておこう。記念すべき、the Tiger初のインタビュー。熱い曲と共に、4人の熱い思いを感じていただきたい。
インタビュー・構成/ 内本順一
写真/Toshihiko Imai
協力/ JUST LUCK RECORDS、EDOYA CORPORATION、ダンディライオン
*記事が面白かったら投げ銭もしくはサポートをお願いします。あなたのドネーションがこのnoteの次のインタビュー記事を作る予算になります。
「たいがと出会ったことでストーンズを知り、一気にそっちに目覚めました。“なにこれ、めっちゃかっこいい! こういう音楽もあるのかぁ”って感じで」(りん)
ーー出身は、たいがさん、りんさん、あつしさんの3人が名古屋で、ゆうすけさんだけ山梨なんですよね。
ゆうすけ: はい。
たいが: もうめんどくさいから、これから名古屋出身ってことにしといたらいいよ。
ゆうすけ: 自分でもめんどくさいんですよ。「名古屋出身なんですよね?!」って言われたときに、「すいません、僕だけ山梨なんです」って言うのが、なんか相手に悪くて。
ーーははは。バンドは名古屋で3人が始めた。
たいが: そうです。高校が一緒で、3人とも軽音楽部で。
ーー出会ったときの印象って、覚えていますか?
たいが: あつしの印象がどうだったか覚えてないな。
りん: ドラムを叩いている人っていうくらい。あんまり喋ったりしなかったよね。静かな人って印象。
あつし: まんまじゃん(笑)。学年が違ったから、りんちゃんとは絡みがなかったよね。
りん: その頃はそれぞれがいろんなバンドを掛け持ちしていて、the Tigerで一緒にやろうってなったのはもっとあとのことで。
あつし: オレが卒業して、やることになった。りんちゃんが高3のときだったよね。
りん: そうだそうだ。
ーーそれが何年前の話?
たいが: 9年か10年くらい前ですね。
あつし: やばっ!
ーーじゃあ、ひとりひとり、音楽のルーツを教えてください。
たいが: 僕は、母親が歌をうたっていて、父親がギターを弾いているという環境で育って。子供の頃からローリング・ストーンズとかが家でずっと流れていたんです。そういう昔からのロックやルーツミュージックと日本の昔のバンドしか聴いてこなかったので、高校の頃にまわりが聴いていたような日本のバンドを全然知らなくて。わりと最近になって新しいのを勉強し始めた感じですね。
ーー自発的に辿っていって70年代のロックとかを聴くようになったわけではなく、そういう音楽が普通に流れている家庭環境だった。
たいが: そうです。だから、それしか知らなかった。でもそういう音楽が好きだったから、新しめの音楽を聴く機会があってもわざわざ聴かずに、ルーツミュージックばかり聴いていました。
ーー初めて自分で買ったCDが何だったか覚えてます?
たいが: 自分で小遣い貯めて最初に買ったのはボブ・マーリーの『レジェンド』。小学校5年か6年のときですね。そこからルーツな音楽を好きになって、で、ストーンズに行ったりビートルズに行ったり。それで中古ショップに行きだしてCDを中古で買うようになった。
ーー小学校・中学校でそういうのを聴いている人なんてまわりにいないでしょ?
たいが: いなかったですね。りんくらいかな。
りん: たいがとは中学が一緒で知り合ったんです。
ーーギターを始めたのはいくつのとき?
たいが: 中2だったから、14歳か。ストーンズ、ビートルズを聴くようになって、ギターを始めて。最初はT・レックスを練習した。それからストーンズが好きだからオープンGでずっと練習するようになって。
ーーギタリストのお父さんから習ったり?
たいが: まあちょこちょこっと教えてもらいましたけど、基本的には独学です。訊いても「人に訊くなんて甘い」って言われるから。
りん: きびしい~(笑)
ーーりんさんはどういう音楽を聴いて、どうやって音楽に目覚めたんですか?
りん: うちもお父さんがずっとバンドをやっていて、私がちっちゃい頃から事務所を防音室みたいに変えて練習していたんです。そこに連れていかれて、お父さんのバンドの練習を見たりしていて。だから音楽は当たり前にあったし、クルマのなかでもビートルズとかオアシスが流れていました。なんのこっちゃわかっていなかったですけどね(笑)。で、6コ上のお兄ちゃんがアジカンとかバンプの世代で、CDが家にあって、それは小学生のときにハマってよく聴いていたんです。自分より上の世代の人が好きになるバンドだったから、まわりの子は全然知らなかったけど。それで中学にあがったときに引っ越して、たいがと同じ中学の同じクラスになって知り合って、そこからルーツ音楽を教えてもらうようになった。それまでお兄ちゃんの影響でアジカンとかを聴いていたけど、たいがと出会ったことでストーンズを知り、一気にそっちに目覚めましたね。“なにこれ、めっちゃかっこいい! こういう音楽もあるのかぁ”って感じで。
ーーヴォーカリストになりたいみたいな気持ちはいつ頃から?
りん: ちっちゃいときは、歌いたいとか特に思ってなかった。でもギターは小学校3年くらいのときにお父さんが教えてくれて弾くようになって。あと、お父さんがクラムボンのライヴに連れていってくれて、ライヴを観ることが好きになったんです。ただ中学のときに引っ越したから友達がいなくて。その頃が一番内気で、ずっと音楽を聴いていました。歌いたいという気持ちもまだなかった。で、中3のときに、たいががバンドを組んでなんか出し物をやるっていうのがあって。
たいが: ああ、あったね。3年生の送迎会みたいなやつ。誰かがバンドでなんかやろうと言い出して、オレがギター弾いてるのをそいつが知っていたからやることになった。それがオレの初めてのステージ。
りん: それを観て、”あ、ギター弾く人なんだ”と思って、そこからさらに仲良くなりました。それで”高校、どこに進もうと思ってるの?”みたいな話をして。私は軽音楽部のある高校に行きたいって話をして、たいがも同じように思っていたから、同じ高校に行くことになったんです。なるべく自由にできる学校に行きたかったから、そういうところを選んで。そこの軽音部は、とりあえず顧問がいるっていうだけで、みんな好きに練習するっていう感じでした。
たいが: 見学会みたいなのがあったからいくつか見に行ったんだけど、うちらの行ってたその高校が一番自由な雰囲気だったんですよ。別の学校の軽音部は、朝練があって、みんなでギターを弾く時間があったりして、そんなのやりたくないなって思ったので。オレはやりたい音楽がもう決まっていたから、メンバーを探しにいっとる感じでしたけど。
りん: そこで、あつしと出会ったりもして。
ーーその当時から長くやれるバンドを組んでプロでやっていこうと思っていたんですか?
たいが: オレは、プロかどうかはわからないけど、音楽でずっとやっていきたいとは思っていました。
りん: 私はただギターを弾きたくて軽音部に入ったんです。だけどギターをやりたいって子が多くて、ヴォーカルをやりたい子が少なかったので、歌うしかないってなって。そのときはシェリル・クロウとかやってたよね。あと、アヴリル・ラヴィーンとか。
たいが: レッド・ツェッペリンもやっとったね。
りん: そういうカヴァーをやって、で、高校を卒業するくらいに”本気でヴォーカルをやるしかない!”ってなって。
ーー自主的にヴォーカリストの道を選んだわけではなく、歌う人がいなかったから始めたと。
りん: そうです。
たいが: いや、違うよ。オレが中学のときに、りんの歌声を聴いて、”いける!”って思ったから無理やりやらせたんだよ。
りん: それ、自分ではわかってなかったんですよ。ずっと歌でやっていこうとはまったく思っていなかったので。
ーー今はもちろん、自分はヴォーカリストだという意識でしょ?
りん: それはもう。こんなに楽しいってことに気づいちゃったんで。始めはなんにもわかってなくて、ただ一生懸命歌っているだけだったんですけど、今は歌うのが本当に楽しい。
「動画を見てみたら、すごいかっこよかった。かっこいいのに、なんでくすぶってるんだろうと思って、そこの興味もわいて」(ゆうすけ)
ーーでは続いて、あつしさん。どんなふうに音楽を好きになっていったんですか?
あつし: 僕が中学2年のときに『BECK』というマンガが流行ってまして。その映画版のオープニングテーマがレッチリの「Around The World」で、エンディングテーマがオアシスの「Don't Look Back in Anger」だったんです。それを聴いて、めっちゃかっこいいなと思った。それまでは日本で流行っているバンド……マキシマム ザ ホルモンとか10-FEETとかを聴いていたんですけど、レッチリとオアシスから洋楽のロックに行って、ストーンズとかも聴き始めて。
たいが: オレと出会った頃はパンクだったよな。
あつし: そう。そういうのをカヴァーして叩いていたんですけど。
たいが: でもそういうドラムのスタイルじゃないから、合わないなと思っていて。あつしは、カラダはでかいけど、パワーで叩くタイプじゃないから。気もちっちゃいし。
あつし: まあ、気はちっちゃいですね(笑)
たいが: だからオレがちょっとずつ刷り込んでいったんです。まずAC/DCを聴かせて、それからビートルズとか聴かせて、徐々にこう……。
あつし: AC/DCを聴かされて、”めっちゃかっこいいじゃん!”ってなった。まあ、わかりやすかったし。ビートルズは最初そんなに聴かなかったんですけど、たいがに洗脳されて、気づいたらよく聴くようになっていて。それからザ・バンド。ザ・バンドは最近めっちゃ聴いているんです。
ーードラムはいくつのときに始めたんですか?
あつし: 高校に入ってからなんです。最初、僕、ギターだったんですよ。りんちゃんが話したのと一緒なんですけど、軽音部を見たら自由な雰囲気で活動しやすそうだったから、そこに入ってギターをやっていました。でも、さっきのりんちゃんの話じゃないけど、ギター、多いんですよ。それに対して、僕の代はドラムが全然いなくて。中学からドラムをやっている子がひとりいただけだった。それで「おまえ、ドラムやれよ」みたいに言われて。
りん: あ、言われたんだ?!
あつし: そう。「ヴォーカルかドラムか、どっちかだ」と言われて、じゃあドラムをやってみるかと。まあ、ギターは中2のときに興味持って始めたけど全然上手くならなかったし。それで動画見ながらオアシスのコピーとかして、ストーンズも聴きまくってコピーして。
ーーチャーリー・ワッツのドラムはそう簡単にはコピーできないでしょ?
あつし: できないですね。まあ、そこからドラムを始めて、たいがと最初にバンドを組んだのが高2のときでした。
たいが: オレが高1のときだね。
あつし: そこから、たいがの洗脳が始まった(笑)
たいが: ちょっとずつオレの好みの音楽を刷り込んで、そっち向きのドラムを叩くように洗脳しました(笑)
ーーつまり、たいがさんのなかでは、こういう音楽をやるんだという明確なビジョンがその時点であったということですよね。
たいが: そうですね。そこまで明確ではないですけど、なんとなくはありました。
ーーそれは、今、the Tigerがやっている音楽に近かった?
たいが: だいぶ近かったと思います。
ーーでは、ゆうすけさん。ベースを始めたきっかけは?
ゆうすけ: ベースを始めたのは、このバンドに入ってからなんですよ。だから2年ちょっと前ですね。それまではギターを弾いていたんです。中学でギターを始めて、高校まで熱心にやっていたんですけど、大学時代はバンド活動をせずに過ごして、それからちゃんと就職してサラリーマンをやっていました。で、1年働いたくらいのタイミングでthe Tigerの存在を知って、ベースを募集していたから、ベースを弾いたことがないのにダメモトで声かけて入れてもらったんです。
ーーベースを弾いたことがないのに、どうして入りたいと思ったんですか?
ゆうすけ: the Tigerの存在を知ったのはメンバー募集サイトで、自分もそこに登録していたんです。一覧で出るんですけど、そのなかにthe Tigerとあって、バンド名で登録しているのが珍しかったんですよ。たいていは、これからバンドを始めたいっていう人が登録するものなので。で、動画を見てみたら、すごいかっこよかった。かっこいいのに、なんでくすぶってるんだろうと思って、そこの興味もわいて。それで自分から声かけて、あれよあれよという間にメンバーになっていた感じで。
ーーたいがさん的には、熱意を感じて加入してもらったわけですか?
たいが: 熱意、感じましたね。会いに行って話したら、やる気があるし、仕事も辞めるって言っとるし。まあベースは弾いたことなくてもやってるうちに上手くなるだろうからいいかと思って。逆にやったことないほうが、変に型ができてるよりいいんじゃないかと思った。最初からバンドに入ってやってもらったほうが、色に染めやすいかなと(笑)
ゆうすけ: もともと音楽的に好きな方向が一緒だったというのも大きかった。
たいが: 最初に話したときに、テレヴィジョンが好きとか言ってて、テレヴィジョンが好きなやつなんかまわりにいないし、面白いなと思って。あと、同い年っていうのもでかかったし、家もまあ近かったんですよ。で、左利きだし。
りん: 見栄えがね。
だいじ: そう、大事だから。
ーー好きなバンドは?
ゆうすけ: 王道ですけど、やっぱりビートルズ、ストーンズとか。でも音楽に熱中するきっかけになったのは、カスケーズなんですよ。「悲しき雨音」の。それが未だにめっちゃ好きで。
ーーほお。カスケーズをそこまで好きって言う人は珍しいかも。因みに好きなベーシストは?
ゆうすけ: やっぱりポール・マッカートニーですかね。
たいが: 細野晴臣じゃないの?
ゆうすけ: 細野さんも大好きです。
ーーあつしさんは、好きなドラマーは?
あつし: チャーリー・ワッツですね。
ーーおおっ! たいがさんは、好きなギタリストは?
たいが: 僕はギタリストを好きになるというより、バンドが好きというか、バンドとして出してる音で好きになるほうなので。バンドをやりたいんですよ、オレは。だから誰々のギターに憧れるというよりは、アンサンブルに対する憧れのほうが強いですね。まあそれでも強いてあげるなら、スティーヴィー・レイ・ヴォーン。キース・リチャーズも。
ーーなるほど。りんさんは?
りん: 一番好きなのは、やっぱりストーンズ。
ーーミックになりたい。
りん: いや、なりたいとは思わないけど(笑)、なんでこんなにかっこいいんだろって。これがバンドだよなぁって思うので。ザ・バンドもそうですね。“バンドってこれだよ!”っていう感覚。私はリヴォン・ヘルムの歌が大好きなんですよ。あとはアレサとか。清志郎とか。
ーーミック、清志郎、アレサの影響が大きいんだろうなというのは、ライヴを観ていてよくわかる。
りん: うん。あと、美空ひばりさん、江利チエミさん。江利チエミさんの「八木節」をラジオでたまたま聴いたときには衝撃を受けました。そこからレコードも集めるようになって。まだ全然集められていないんですけど。
たいが: 確か、最初に買ったレコードが江利チエミじゃなかった?
りん: そう。ラジオで聴いて大好きになったんです。
「”オレ、東京行くのもいいと思うんだよ”って話したら、意外とふたりとも”いこうか”っていう軽い感じで」(たいが)
ーーでは、バンドの歴史について聞いていきたいんだけど。結成が、たいがさんとりんさんが高3のときだったと(=2014年)。始めからthe Tigerというバンド名だったんですか?
たいが: そうです。高校で組むとバンド名を提出しなきゃいけなくて、考えるのがめんどくさかったから、それで提出して。
あつし: たいががいないときに、僕とほかのメンバーが、たいがが始めたバンドだからthe Tigerでええやんって(笑)
ーー最近のバンドは長いバンド名が多いけど。
たいが: オレはああいうのが好きじゃなくて。
あつし: 簡潔でいい。
ーー結成時のメンバーは、たいがさんと、あつしさんと、りんさんと……。
たいが: あと、りんは初めギターだったので、ほかのヴォーカルがいて。それから今いないベースと。
ーー結成当初はカヴァーをやっていたんですか?
たいが: いや、最初からほとんどオリジナルでしたね。ライヴハウスに出てやるなら、オリジナルじゃなきゃダメだと思っていました。カヴァーで出る考えは最初からなかった。
ーーライヴハウスに出始めたのはいつぐらい?
たいが: バンド始めてすぐですね。高3のとき。
りん: 学校に行って、そのあとライヴハウスに行くわけですよ。で、私はMCがすごい苦手なので、ライヴがある日は学校で「ありがとうございました。次の曲は何々です」みたいに、どこでなんて言うか全部書いて。授業中、先生の話を全然聞かずに、それを考えていたのを覚えてます。
たいが: ステージ上で険悪なムードになったこととかあったよね。
あつし: あったねえ。ここであれを言うって決めたのに、言う場所が違うじゃねえかって(笑)
ーー名古屋のライヴハウスでよく一緒にやっていたバンドとか、共感できるバンドとかって、ありました?
たいが: なかったですね。
りん: あははは。ばっさり。
たいが: 仲がいいバンドとか、未だにない。
ーー今はどちらかというと大ベテランのバンドやミュージシャンと繋がっていっている。大人に好かれるバンドって感じだもんね。
たいが: そうですね。名古屋のときは本当に繋がりとか何もなかった。
ーー上京したのはいつですか?
たいが: 3年前。コロナが始まる1ヵ月くらい前です。
りん: 最悪のタイミング。
たいが: そう。ライヴが全部なくなって。
ーーそのとき、ゆうすけさんは……。
ゆうすけ: 僕がまだ入ってないときですね。
たいが: コロナの状況が一番厳しいときだったから、メンバーも集めにくかった。
ーー上京を決めたときは、東京で一旗揚げようみたいな意気込みがあったわけでしょ?
たいが: 名古屋から出てくる時点でメンバーがひとり欠けていたし、名古屋で5~6年やって見つからないってことはもういねえよ、東京行ってメンバー探そうって思って。名古屋の一時期は僕がベースをやったりもしてましたからね。で、家でミーティングがてら飲んでいて、「オレ、東京行くのもいいと思うんだよ」って話したら、意外とふたりとも「いこうか」っていう軽い感じで。
りん: 東京というワードを出したのが、たいがだったというだけで、あのときはみんな同じ感じで思っていたから。すごく自然に「だよね」ってなった。そっから早かったよね。
たいが: すぐに引っ越しの日程決めて。まあ、けっこう軽い気持ちだったんですよ。若いうちに一回東京に住んでみたいな、ぐらいの。
りん: でも、このタイミングしかないって感じはあったよね。今行かなかったら、一生行くタイミングはない、みたいな。
ーーところがどっこい。
たいが: すぐにコロナがきて。
あつし: 気づいたらライヴが全部キャンセルになって。
ーーどう過ごしたの?
たいが: まあバイトしながら、練習だけは続けてました。
りん: インスタライヴをやったり。
たいが: なんかやらんと、気ぃ狂いそうだったもんな。
あつし: 心、折れそうだったよね。
たいが: インスタライヴも、誰も見てなくてもいいからやるんだって感じで。やることがある、ってことが大事だったから。暇すぎて、週一でやっとったもんな。
りん: 自分たちのためにやってたよね。
ーーそのときは、ベースは?
たいが: ベースレスでインスタライヴやってました。オレが弾いてしまうと、ベースのおるバンドだと思われて新しい人が見つからんからっていうのもあって。でまあ、世の中の感じからして2年くらいは動けんだろうと思っていたから、その間にベースを見つけて、曲を作ったり覚えてもらったりする期間にしようってことで。
りん: あとは路上ライヴをやって。
たいが: やってたね。オレがバイトが嫌になって無職になった時期に、路上ライヴで稼ごうとか言って、りんとふたりで高円寺とかシモキタの高架下とかでやって。あの頃はコロナで人がいなかったから、文句も言われなかったしね。で、意外と稼げたんですよ。ハシゴすると1万を超えたりして。路上、面白かったよね。
りん: 面白かったね。なんか、自作の詩を持ってくるおじさんがいたりして(笑)
たいが: あと、たまたまJIROKICHIの人が見てくれていて、コロナが明けてからJOROKICHIに出してもらえるようにもなったし。
ーーそして2021年に、ゆうすけさんが加入。入って、すぐに馴染めました?
ゆうすけ: バンドに入ってベースを買ったので、スタジオに行ってもベースの使い勝手がわかんなくて。なのに入って1ヵ月も経たないうちにライヴハウスに出たんですよ。下北沢のBASEMENT BAR。そのときは全然弾けてなかった。そこからなんだかんだ2年くらい経って、まあ、なんとかやっております(笑)
ーーいや、僕は6月に初めてthe Tigerのライヴを観たわけだけど、リズム隊の息がぴったり合っていて、素晴らしいバンドアンサンブルだと思ったけどね。
たいが: ゆうすけがバンド経験がなくて、型がなかったのが逆によかったんだと思います。
「言葉が聞き取れるように歌うというのは、自分のなかの課題でもあったんです。聞き取りにくいんじゃないかと思っていたので」(りん)
ーーthe Tigerは70年代的なロックンロールやブルーズロックを若い感性でフレッシュに捉え直していて、それこそストーンズやザ・バンドからの影響を自分たちなりに咀嚼しながらオリジナルの日本語詞楽曲でおおらかに放っている……っていう感じがするんだけど、その音楽性をどんどん突き詰めていきたいと思っているの?
たいが: そうですね。まあ、みんなそこまで上手くないし、難しいことができないから。結局そこを極めていくってことになるんじゃない?
りん: そうだね。コードチェンジが多いのとかはそんなに。
あつし: うん。3コードで完結するようなのがいい。
ーー昔と違って今はちゃんといい学校を出た学力の高い人がバンドをやることが多くなっている。曲構成とか戦略とか、意識を高く持って、頭で考えながら音楽をやる人が本当に増えたなぁと僕なんかは感じるんだけど。
りん: いやぁ、ほんとそうですね。
ーーでも、the Tigerはいまどき珍しく本能的に音楽をやっているし、肉体的だし、ライヴバンドであることに何より重きを置いていて、そこがいいなと。
たいが: 頭悪いからね(笑)。別に難しいことをやりたいと思ったこともないし。
りん: 聴くのは好きだけど、やろうとは思わないね。
ーー心底自分たちが楽しいと思える音楽を楽しんでやっているってことが伝わってくる。
りん: 楽しいですからねぇ、本当に。練習も昼間から夜遅くまでやってるときもあるし。
たいが: 実際やってる時間より酒飲んでる時間が長いときもあるけどね(笑)
ーー曲作りはどんなふうにやっているんですか?
たいが: りんとふたりでやっています。
ーー作曲がたいがさんで、詞がりんさん?
りん: いや、そこはけっこうバラバラで。曲も詞もそれぞれで書いてくることが多いです。でも、たまに一緒に書いたりもしますし。
ーー「こういう歌詞を書いてよ」って注文したりすることもある?
りん: それはないです。一回も言ったことない。「歌詞ができたよ」「じゃあ合わせてみようか」って感じで一回みんなで合わせて、そこからまた作っていく。で、だいたいの感じが見えたらライヴでやってみて、そこからまた変えていくっていう流れです。
たいが: ライヴでやってみて完成させていくのが基本ですね。
ーー歌詞を書くのはどうですか? 好きな作業?
りん: 私は書かなくていいなら書きたくないってくらいで。めっちゃたいへんです。すっと出るタイプではないですね。
たいが: オレは嫌いじゃないですよ。こだわっていることは、かっこつけすぎないこと、嘘を書かないこと。あと、知らないことを知ったふりして書かないこと。
ーーthe Tigerの歌詞は、ライヴで聴いただけでも何を歌っているかがわかるのがいい。りんさんは英語的な巻き舌歌唱とかもしないし。
りん: 言葉が聞き取れるように歌うというのは、自分のなかの課題でもあったんです。聞き取りにくいんじゃないかと自分では思っていたので。
たいが: やっぱ、なるべく簡単な言葉で歌うのがいいよね。難しい言葉を使って、聞き取れないものになったんじゃしょうがないし。
ーーところでこの1~2年、the Tigerは数々の大ベテラン・ミュージシャンたちと共演を重ねてきて、ライヴハウスで長くやり続けている実力者たちがthe Tigerのことを気に入っている。リクオさん、三宅伸治さん、ギターウルフのセイジさん。それにホトケさん(永井”ホトケ”隆)も「大好きな若いバンドです。音楽に対するその無垢な姿勢に刺激を受けています」とツイートされていたし。
りん: いやぁ~。もう……。本当にありがたいです。
ーー今まで共演した人で、とりわけ印象に残っている人は誰ですか?
たいが: やっぱ、木村(充揮)さんとの共演が一番印象に残ってますね。『新春!南吠える!!』。あれはしびれた。
りん: あのときのライヴはすごい覚えてる。緊張してガチガチでした。いっぱいいっぱいだった。
ーーそれだけ好きだったってこと?
りん: それはもう。
たいが: 中学の頃から憂歌団を聴いていたので。
ゆうすけ: 僕も同じくらいから憂歌団を聴いていたんです。
ーーすごいな。本当に20代なの?(笑)。50代60代の友達と話しているみたいだよ。
全員: あはははは。
「5年後にはワールドツアーをしているっていうのを夢見ています」(あつし)
ーー作品は、これまで4枚のミニアルバムを出しているんですよね。過去作を振り返ってみて、どうですか?
たいが: やりたいことは何も変わってないですね。やれることが増えたってだけで。
ーー少しずつ理想に近づいている?
たいが: 理想に近づいてきたかはわからないけど、楽しくなってきたことは間違いないです。
ーー理想に近づけているから楽しくなっているのでは?
りん: そうですね。そんな感じがします。
ーー今、初のフルアルバムを作っているわけですが、現段階で言えることは?
りん: 絶対、いいアルバムになります!
ーー今までライヴで歌ってきた曲が多いのかな。
りん: けっこう新しく作った曲もありますね。馴染みのやつと新しいやつと。
ーー過去の作品と特に変化しているところは?
ゆうすけ: お金がかかってるってことですかね。僕が入ってからは今回が2回目のレコーディングなんですけど、2回目でこんなことになるんだーって感じで。前のとき(『七転八虎』)とは全然違う。
あつし: 今までとは全然違うものになります。今までは全部自分たちだけでやってきたから。ほかの人が関わることがなかった。
ーー事務所がついて、やれることが広がった。
たいが: そうすね。今回はいろんな人たちを巻き込んで作っているので。楽しみってことしかないです。
りん: ほかのどのバンドとも比べられないものになると思います。
ーーでは最後にこれからのビジョンを。5年後くらいにこんなバンドになっていたい、みたいなことはありますか?
たいが: オレはいろんなところに行きたいですね。いろんな場所でライヴをして、いろんな人とやりたいです。面白い人と出会いたいですね。
りん: うん。出会えると思う。
ーーりんさんは?
りん: 私はアメリカでライヴをしたいですね。日本でもまだ行ってないところがありますけど、やっぱり海外でライヴをやってみたい。あとは、今歌っている曲を5年後、10年後も歌っていたい。そんな曲がたくさん生まれたらいいなと思ってます。
ーーゆうすけさんは?
ゆうすけ: 5年後ですか? とりあえずバイトは辞めてると思います(笑)。あと、都心に住んでると思います。3人は葛飾に住んでるけど、僕だけ千葉なんで。いい生活になっていることを夢見ています。いい生活がしたい!
ーーはははは。バンドとしては?
ゆうすけ: アメリカもいいですけど、僕はヨーロッパでやってみたい。ロンドンあたりで。
ーーあつしさんは?
あつし: 僕も5年後にはワールドツアーをしているっていうのを夢見ています。
ーーどうしてみんな、そんなに海外でやってみたいの?
りん: 去年、4人で初めてアメリカに遊びに行ったんですよ。ロサンゼルスに。レッチリのライヴを観るのが目的で、2週間くらいいたんですけど、もう超貧乏生活。物価が一番高いときで、クルマを借りたりしてたんですけど、お金がなくなってきて借りられなくなって。
ーーL.A.はクルマがなかったら動けないでしょ。
りん: そう。だからひたすら歩いて。死ぬんじゃないかと思いました。
ゆうすけ: 腕に謎のブツブツができたりして。
ーーストレスで?
ゆうすけ: そう。脱水状態になったり。最後はパンも買えなくなりましたから。
りん: 飲み物も人数分買えなくなって。
ーーそれによって険悪な感じにはならなかったの?
あつし: ならなかったですね。
ゆうすけ: そこでもめだしたら終わりですから。
あつし: 僕が歩くのが遅すぎて怒られたくらいです。
たいが: それは日本でも一緒だろ。
あつし: そう。毎日言われてる。
ゆうすけ: でも喧嘩はせずに。仲良く帰ってきました。
ーーほんと、仲いいよね。
あつし: 仲いいっすね。
りん: で、そのときにどっかでライヴがやれたらいいなと思っていたんですけど、そんなだったから、それどころじゃなかった。だから今度はライヴをちゃんとやりにアメリカに行きたいっていうのがあって。
ーーじゃあ、海外でいいホテルに泊まれるようになることを目標に頑張らんと。
たいが: いやほんと、行くならちゃんとしたホテルに泊まりたいですよ。
ゆうすけ: むっちゃ怖いドミトリーに泊まってましたから。
あつし: スラム街にあるドミトリーで。
たいが: メキシカンギャングがおって。
ーーひゃあ。生きて帰れてよかったね。じゃあ、アルバム、楽しみにしていますから。
りん: ありがとうございます。本当に楽しみにしててください。
↓ 8月25日「MAGICAL CHAIN SPECIAL」@神田SHOJIMARUの感想。
↓ 11月4日、the Tiger自主企画ライブ「TORAVEL spot.1」@下北沢THREEの、妹尾みえさんによる愛情たっぷりの感想。
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