見出し画像

スティング@有明アリーナ

2023年3月11日(土)

有明アリーナで、スティング。

2019年10月の幕張メッセ公演から3年半ぶりとなる日本公演。前回来日時に68歳だったスティングは今、71歳だ。

2019年公演の感想はこちら↓

*以下、内容、演奏曲についても多少触れるので、この後の公演をご覧になられる方はご注意を。

オープニングアクトは息子のジョー・サムナー。見た目も声質もスティング似だが、彼の表現はスティングと違って非常に明るく、わかりやすくポジティブ。翳りや渋みがないのは若さ故ではなく、恐らく根っからそういう性格なのだろう。日本語使いがますますうまくなり、「スティングのお父さんです」などと言って笑わせたりも。

短い休憩を挿んで、スティングとバンドのオンステージ。頭から「孤独のメッセージ」「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」とポリス期・ソロ期両方の代表曲を並べ、さらにポリスの「マジック」と続けるものだから大勢の観客は早くも大いに湧いていた。以降も長いキャリアにおける名曲・代表曲を、ほとんどMCもせず矢継ぎ早に演奏。改めて全てが名曲だと思えるし、代表曲と言える曲の数の多さにもまた唸らされる。「おおっ、これきたか!」「うわっ、もうこの曲やっちゃうんだ?!」といった感じで、その出し惜しみのなさといったら!

声は非常によく出ていた。スティングの来日公演は毎回観てきたが、過去に何度か声の出がよくないこともあった。が、ここ数回はそういうことがなく、今回も絶好調。はりがあって艶がある。71にしてバリバリの現役感だ。

4曲目で(口笛始まりの)「イフ・イッツ・ラヴ」、5曲目で「ラヴィング・ユー」、6曲目で「ラッシング・ウォーター」と、ここだけ一昨年出た新作『ザ・ブリッジ』からの曲を。今回はこの深みありの良作をある程度反映させたライブになるのかと思いきや(そして個人的にはこの新作の曲をもっと聴きたい気持ちもあったのだが)、結局そこからはこの3曲のみで、それ以外は長いキャリアのベストヒットパレード。ツアー・タイトルは前回の来日時同様『MY SONGS』であり、つまりこれはベストヒットツアーの最新版であったわけだ(なんの情報も入れずに観に行ったので、そういう性格のライブだと自分が気付いたのは観始めてからだった)。

それにしてもスティングという頑固一徹なミュージシャンが、これほど惜しげもなくポリス時代とソロ時代の代表曲を次々に演奏するショーをやるなんて、昔は考えられなかった。過去は過去、今は今という信念のもとに突き進む、どちらかといえばボブ・ディラン型のアーティストだと思っていたし、ポリスの再結成にしたっていろいろ複雑な思いがあったと伝えられている。そういう意味では、歳をとって頭が柔らかくなったということか。

とはいえ、過去の楽曲を全てそのままのアレンジで演奏するわけではなく、アレンジだったり歌唱方法だったりをアップデート。何曲かはけっこう大胆なアレンジ変更も見られ、それが新鮮な印象をもたらした。

とりわけ印象深かったのはポリスの「アラウンド・ユア・フィンガー」。MV同様、キャンドルの映像を背景にしていたこの曲を、スティングはしばらく音程を変えて低く歌い、最後のほうで元曲通りに戻して歌うことをした。それによってこの曲がよりドラマ性を帯びたように感じられたので、この変更は効果的だった。

本編終盤のソロ曲「デザート・ローズ」もこの日のハイライトといっていいほどに強烈に響いた。とりわけ間奏のアラビックになるところ。その昂揚感は、これまでライブで聴いたこの曲のなかでも一番と言えるほどだった。

,ネットフリックスのアニメ『アーケイン』に提供した曲をそのアニメ映像を背景に歌ったりもしたが、本編後半とアンコール1曲目までは大半がポリス楽曲だった。2019年の来日公演がソロでポリス曲を最も多く歌ったライブだったが、(数えてないけど)今回はそれを上回っていたんじゃないか。そのなかでは、前述の「アラウンド・ユア・フィンガー」が最も印象に残ったが、「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」からボブ・マーリー「ノー・ウーマン、ノー・クライ」の一部も歌い込んだ「ソー・ロンリー」へとメドレーっぽく続いた流れもかっこよかったし強度があった。

アンコールは「ロクサーヌ」。これで終わりかと思いきや、最後の最後に椅子に座ってアコギで「フラジャイル」を。

ドミニク・ミラーを柱にしつつ、若いメンバーたちもそれぞれの力をしっかり出している現バンドの演奏がまた過去曲を過去のものにしない個性と力を有していて、だからこそスティングもこのように現役感ありまくりのステージをやれるのだろう。

まったくもって文句のつけようがなく、40数年間ずっと好きでい続けてよかったと強く思えた素晴らしいライブだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?