上田正樹・永井“ホトケ”隆・木村充揮@渋谷クラブクアトロ
2024年6月26日(水)
渋谷クラブクアトロで、「そろそろ音楽(Blues)聴きに来たらええんちゃう」と題されたライブ。出演は上田正樹、永井“ホトケ”隆、木村充揮。
昨年7月に上田正樹 R&B BANDとblues.the-butcher-590213のジョイントライブがクアトロであったが、同じクアトロで今度は上田正樹、永井“ホトケ”隆、木村充揮の3人が揃ったライブを。去年はバンドとバンドだったが、今年は3人ともソロ出演だ(上田正樹は羽仁知治とYoshie,Nのサポート付き)。
まずは上田正樹。羽仁知治がグルーヴィーな鍵盤を弾き、Yoshie,Nがソウルフルな声でコーラスをつけ、キー坊は数曲でエレクトリックギターを弾いたりしながらも歌う。ギターを弾いて歌うキー坊が僕には意外と新鮮に映った。佇まいにも喋り含めた進行の仕方にも醸し出されるスター的な雰囲気が濃いめにあり。また羽仁知治の鍵盤がキー坊の歌に優しく寄り添うようで素晴らしかった。
曲はベン・E・キング「スタンド・バイ・ミー」など洋楽カヴァーが中心。僕はどうしても思ってしまうのだけど、長いキャリアのなかでオリジナルアルバムをたくさん出しているのだから、そうした過去のオリジナルアルバムの曲、自分の曲を、もっと歌ってくれればいいのに。例えば有山さんとやるときに『ぼちぼちいこか』の曲を歌ったりはするけど、自身のバンドやソロでのここ数年のキー坊のライブはほとんどがカヴァーだ(そうじゃないときもあるのかもしれないけど、少なくとも自分が観てきた限りではそう)。なぜそうするのか。キー坊なりの意図や考え、こだわりが当然あるのだろうけど、オリジナル曲にいい曲がたくさんあるのにそれがずっと歌われないのはやはり勿体ない。ファンは別に有名な曲、ヒット曲だけを聴きたいわけではない。「悲しい色やね」のようなヒット曲以外のオリジナル曲ももっと聴きたいと思っている人は少なくないはずだ。「おおっ、今夜はあの時代のこの曲を歌ってくれるのか!」といった驚きや喜びを僕は欲している。
キー坊のソロステージのあと、そこにホトケさんがジョイン。ふたりで数曲やったあと、ホトケさんのソロステージにシフト。ホトケさんはいつも通り、曲を始める前にその曲の歌詞の背景を説明する。勉強になる。きちんと正しく伝えたい性格なのだろう。
休憩を挿んで2部は木村充揮さんのソロステージから。ザ・たこさんの登場曲でお馴染み、バーケイズ「ソウルフィンガー」がかかって、踊りながら出てくる木村さんがかわいい。その瞬間、明らかに空気が変わった。一気に楽しい気持ちになるのと同時に、なんかホッとする。キー坊とホトケさんは「聴かせる」ステージだったが、木村さんは「楽しませる」ステージ。会場全体の空気が和らいでほどけた。
何を歌っても木村さんが歌えば木村さんの歌になる。もんた&ブラザーズの「ダンシング・オールナイト」、木村さんが歌うそれを僕はこの夜初めて聴いたが、めちゃめちゃ木村さんに合っていてグッときた。
しばらくのソロステージのあと、キー坊がジョイン。「悲しい色やね」のイントロが聴こえ、当然キー坊が歌うと思ったら、そこでヴォーカルをとったのは木村さんだった! (2番からキー坊)。木村さん節で歌われる「悲しい色やね」がまた沁みた。それから「シカゴバウンド」も木村&キー坊で歌われた。キー坊が歌えばキー坊の歌のようになる。こういうところで両者の個性が明確になるのが面白かった。
やがてそこにホトケさんもジョイン。終盤は羽仁さん、Yoshie,Nさんを加えた5人でのステージとなって盛り上がった。
この日、とりわけ印象的だったのは、木村さんのこういう共演ライブにおける身の置き方だ。ソロステージのときにグビグビ呑んで何度も「おかわり」をねだってまた呑んでを繰り返してたにも関わらず、ギター弾きとしては実に冷静に場を読んで、キー坊の歌やホトケさんのプレイに呼吸を合わせる。主役が変われば、自分はスッと引いて最高のギタープレイに徹しながらその人を立てる。間の取り方、場の読み方、呼吸の合わせ方が、まさに達人のそれなのだ。そういうところがめちゃめちゃかっこいい。それもあって愛され続けるのだろう。そんなことも感じたライブだった。
それはそうと、ライブそのものはもちろんよかったし、あたたかなものだったが、会場、クーラーをきかせすぎていて、寒くてまいった。去年7月のライブも同じようにクーラーがききすぎていて腕をさすりながら観たのだが、今回もまた同様。休憩のときに「寒いのでクーラーを弱めてくれませんか」とスタッフに詰め寄っていた人がいたし、ライブのあとも「いやぁ、寒かったね」「冷えたね」という声が聞こえていた。どうしてあんなに冷やすのだろう? 普段のいろんなアーティストのクアトロでそんなふうに感じたことはないので、謎だ。