『笑いのカイブツ』(感想)
2022年1月6日(土)
吉祥寺アップリンクで、『笑いのカイブツ』。
笑いに取り憑かれた「伝説のハガキ職人」=ツチヤタカユキの自伝小説を原作とし、滝本憲吾(TV『運命警察』『サワコ~それは、果てなき復讐』)が脚本と監督を手掛けた作品。
「人間関係不得意」を自覚する不器用な表現者に僕はシンパシーを抱くし、自分もそうだったし、才能があるのに頑固でうまいことやれないからくすぶり続けているミュージシャンを応援したくなる性分だ。がしかし、この映画の主人公・ツチヤは、不器用だけど「でもやるんだよ」というのではなく、人間関係不得意・社会不適合を通り越して最早重度のうつ病であると思われ、観ていてひたすら辛くなる。小説家やバンドマンならルサンチマンから生まれるものがあるのもわかるが、このような暮らしっぷりと性格から笑いが生まれるというのは考えにくく、これほど改善なき利己主義を理解するのはちょっと難しい。笑いが好きで、売れなくてもいいからそれを追求していたい、というのではなく、ツチヤは滅多に本心を言葉にしないわりには身悶えしながら「売れたいです」と西寺(仲野太賀)に言うのだ。承認欲求のねじれなのか、なんなのか。そのへんがいまひとつ腑に落ちない。
苦悩と葛藤とそこからの狂気を描く時間が長く、それに対して「もういいよ」という気持ちになったし、ならばどうしてここまで笑いに拘るのか、売れたいのかを、別の道筋から示す描写も欲しかった。話が停滞していて、ドライブしない。そういう意味で、脚本をもう少しどうにかできたんじゃないかと思ったし、もう20分くらい短くしたほうが密度は濃くなったんじゃないかとも思った。
ただ、とにかく熱量はものすごいし、グッときた場面もあった。とりわけ居酒屋でのピンク(菅田将暉)の言葉はめちゃくちゃ胸に響いた。ただ菅田くんがやっぱ上手すぎるというか、どうしたって存在感とかっこよさが際立ってしまって、主人公ばりに全部もってっちゃうんだよなぁ。一番重要で、一番いいシーン、一番響く言葉が菅田くんによるものというのはどうなのか。ツチヤを演じる岡山天音は実にリアルな演技をしていたが、その彼による行動や言葉に心動かされるところが少しでもあったら映画自体の印象もだいぶ変わっただろう。
まあ、好きなことで勝負し続けることの喜びと大変さについて改めて考えさせられる作品であることは確かだが。
「笑いのカイブツ」とは、笑いの圧倒的強者という意味ではなく、笑いによって人生を捻じ曲げられてしまった男という意味なのだなと僕は理解した。つまり、正解というもののない「笑い」そのものが怪物であり、その笑いに呑み込まれてしまった男の物語ということ。かな?
『GOLDFISH』のハル(=マリ)のことが思い浮かんだところもちょっとあったが、ツチヤは死なずに生きている。それが救い。