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ビリー・アイリッシュ@有明アリーナ

2022年8月26日(金)

有明アリーナで、ビリー・アイリッシュ。

客電が落ちた瞬間、「キャー」というより「ギヤァ~~」という女のコたちの重量ある悲鳴がそこかしこであがる。熱狂の様が凄まじい。こういう種類のライブを自分はこれまであまり体験してきてない。

そんな状態であるにも関わらず、元気いっぱいに飛び跳ね、煽りながら歌うビリーはというと、「日本のみんなは静かだね。緊張しちゃうじゃん」などと言う(それに対して女のコたちは口々に「アイラブュー!と返していたが)。

さらに「大きな声出して!」「もっと大きな声で歌って!」とビリーが煽り、みんなが一緒に大きな声で歌うという……こんなライブは一体いつ以来だろうか。ライブでの声出し禁止って、あれは一体なんだったのか。遠い昔のことなのか。と、そんなふうにも思ってしまうくらい(ワンオクのTakaにちょっと同情したくなるくらい)、まったくもって当たり前にビリーはみんなの声を求め、みんなは声で応えていた。つまり、みんなの声があってこそ成立するライブだったということだ。もしも来日の時期がもう少し前で、声出しに関して厳重に注意される状況だったとしたら、ビリーのライブは成立しなかった。いいライブにはならなかった。ビリーのライブはこのようにオーディエンスとのコミュニケーションと信頼でできている。そう強く思った。

次から次へとテンポよく進み、あっという間の1時間半。あとであがっていたセットリストを見たら24曲も演奏されていた。1時間半で24曲。観てない人にも1曲1曲がいかに短くテンポよく進んだかがイメージできるだろう。自分の体感的にも、(曲が)始まったと思ったらすぐ終わる感じで、1曲のなかでの山や谷、曲展開においてのグルーヴに引き込まれる、そういう感じはほとんどない。ただ、レコードで聴いて大好きだったあの曲この曲が次々に歌われ、あー、この曲好きー、これも聴けてうれしー、となりながらどんどん進んでいったという、そんな感じだ。

ビリー楽曲特有の重低音の凄さは、恐らくアリーナで観ていたらまた違ったのだろうが、スタンドで観ていた自分にはそれほど感じられなかった。もっとカラダに響くようなフジロック並の音を感じたかったというのはある。が、音響が悪いということではなく、例えばアコースティックで歌われた数曲における兄・フィニアスのアコギの響きがとてもよく、ビリーのバラードのフォーク味に深く感じ入ったりもした(サイモン&ガーファンクルとかが歌ってもこの曲はよさそうだな、みたいな)。

全体の構成・演出に関しては、コーチェラの配信で2回観て感動していたこともあって驚きや新鮮味は正直それほどなかった。が、ナマで聴いて改めてその楽曲の素晴らしさに鳥肌たつような瞬間が何度かあり、改めてビリーとフィニアスの天才的なソングライト力を実感したりもした。それに、ナマで聴くビリーの歌唱表現力が実に豊かだった。あと、シンプルどころかスカスカとも言えるあの音であれだけの説得力を持たせるのも凄いし新しいと思った。

今まで自分が体感してきたいろんなミュージシャンの「ライブのよさ」とは全然違う種類の、新しい「ライブのよさ」だった。この体感があってこれからのポップミュージックに触れるのと、この体感をせずにそうするのとではいろいろ違いが生じるよな、とも思えたライブだった。そういう意味でも今観ておいてよかった。

3年後、5年後、ビリーはどんなライブをするのだろう…。

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