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[聴こえるはずのない声#テレ東ドラマシナリオ] チアキの日課

#テレ東ドラマシナリオ

【#100文字ドラマ】聴こえるはずのない声を元にして書いたシナリオのあらすじです。

 6歳のチアキには日課がありました。自宅のリビングに置いている菩提樹に水をあげることです。その時に大切なのは水をあげながら菩提樹に声をかけることだと、お父さんから聞いていました。素直なチアキはそれを実践します。「今日も、ありがとう、葉っぱがきれいなみどり色ね」「あら、どうしたの、しおれてるじゃない。ごめんなさい、昨日わたしが水をあげるのを忘れていたからかしら」
 チアキがある朝、菩提樹の根元に水をあげた時、あっと驚いて声をあげました。
 「水、うめーっ」
 菩提樹が喋ったのです。
 その夜、チアキはお風呂の中で考えました。「菩提樹さんをもっと喜ばせることはできないかしら」そして、ひらめきました。
 次の日の朝、それを冷蔵庫から取り出すと、菩提樹の根元にかけました。
 「炭酸水、ちょーうまいんですけど!」菩提樹は相当、うれしそうです。
 その夜、お父さんがお母さんにちょっと不満げに言っています。「あれ、炭酸水こんなに残り少なかったっけ、ハイボールになんないね、こおり持ってきてくれない?」
 チアキはそのお父さんの声は聞こえないフリをしてテレビを見ていました。
 20歳になったチアキには日課がありました。それは一緒に暮らす80歳のおばあちゃんの話を聞いてあげることでした。歳をとっているからおばあちゃんは何度も何度も同じ話をすることがありましたが、チアキはそれを遮ることなく、うんうん、うんうんと静かに聞いてあげました。そうするとおばあちゃんは満足そうな顔になりました。話を聞いてもらって満足したおばあちゃんは、仏壇のおじいちゃんの写真に向かって手を合わせると、もごもごと小さな声で何か言ったあと、静かに目をつむって何かの声を聞いているようでした。その姿を見ながらチアキは思いました。わたしもおばあちゃんくらいの歳になれば、その声が聴こえるようになるのかもしれない。
 チアキも仏壇に向かって手を合わせ、心を静かにして、ゆっくりと目をつむりました。


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