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金玉が大きいので病院にいったら即入院即手術になった話(4)

月曜日、予定通り退院することになった。
仕事は今日まで休みを取っているので、明日から出勤となる。

なんてのは無理だなってのが当日の朝にわかった。
いや、実はそれ以前からなんとなく察してはいたが、それでも手術当日、翌日、そして今日と日ごとに回復を実感しているので、もしかしたら退院翌日から仕事に戻ることができるかもしれないと考えていた。

現に手術当日はトイレまでの往復が精一杯だったが、翌日には分速10mくらいの速度で50mくらい歩いた。無理をすればもっと歩けそうな気もする。

ていうか今日は少なくとも病院から駅までと駅から自宅までくらいは歩かないといけない。
いや、タクシー呼べばいいんだろうけど。
歩ける気がする。無理だったらタクシー呼ぼう。

ともかく手術翌々日に退院ということはそれまでにある程度回復することが見込まれているということなので、退院翌日から仕事に戻れるようになる可能性もある、と考えて、入院中は全力で寝た。

が、まさかろくに歩けない状態のまま退院になるとは思わなかった。もう少し元気な状態で送り出されるものかと。

まあでもここからは至急医者が必要になるような事態にはなりにくいってことだろう。
病室でも特にナースコールを押すこともなく食べるかトイレ以外はひたすら寝続けてたし、あとは自宅で休めってことだ。

うん、とりあえずまだ仕事できる状態ではない。
休みを延長しよう。

会計。
初診で、機械に丸ごと体入れて輪切りの断面図の写真撮るみたいなハイテクな検査もして、それ以外にもやたらたくさん検査して、入院して、しかも手術。
ここまでの間に途中で支払いなどはしていないし、費用のことなどは一切何も言われることなかった。

結果、なんと8万ちょい。
即金で最大いくら用意できるかの計算までしていた分、拍子抜けした。
10倍くらいは覚悟していたのだ。

高額療養費制度ってやつで、保険適用内の医療費は1か月あたりの上限を超えないようにできるらしい。
人生で初めて社会保険の有り難みを知った。

覚悟していた額の10分の1で済んだということは、あと9回は入院できることになる。
毎月高い保険料を支払っているのだから、毎月入院したっていいはずだ。
そんなアニメやラノベの主人公みたいなペースで体壊したくはないけど。

しかもクレカ決済できる。
お金を下ろす手間すらないとは、なんて病人に優しいんだろう。

リボ払いにすれば実質無料みたいなものだから利用可能額の上限まで入院できてしまう。
なんだこの至れり尽くせりなシステムは。
リピーターホイホイか。
人はこうやって借金に手を出し始めるのか。

そんな推し活とかありそうだ。
診察に検査に入院に手術とサービス盛りだくさんで、運が良ければ推し医者とすれ違えるかもしれない。
推しが消化器科ならひたすら消化器を壊しまくればいつかは推し医者の診察に当たる。
1回あたり「8万円+激痛+寝るしかない数日」を支払って、推し医者に当たるまでガチャを引き続ける。

推し活界隈にはあまり詳しくないから相場がいくらなのかもわかっていないが、そういう世界もあるのかもしれない。
これが恋愛感情で熱烈に好きな人と会いたくてって行動なら度を超えててストーカーに近い狂気すら感じるのに、推し活と言われると今はそういうのもあるんだなあと受け入れてしまえるから不思議だ。
時代は変わったなあ。

そんなくだらないことを考えながら歩くほどの余裕もない帰り道。
普通に歩いたら10分程度の距離だろうか。
実際には何分掛かったかは測ってないが、やたらと恐怖があった。

前日よりは比較的普通に歩けるようにはなった。
姿勢維持に必要な腹筋が貫かれているので猫背ではあるが、まあこのくらいなら普通にいるレベル。
すれ違う人からは僕が怪我人だとは判らないだろう。

だからこそというのもあり、人とぶつからないかが不安だった。
もし勢いよく走ってくる人がいたとしても、それを咄嗟に避けることはできない。

幸い昼前くらいの時間帯だったため人の通りは少なかったが、仮に通勤ラッシュの時間帯だったりしたら歩くの遅えよ邪魔くせえみたいに後ろから押されてそのまま倒れてうずくまっていたかもしれない。
人が少なくても向かってくる自転車が怖い。必要以上に警戒する。

なんとか駅に着いて電車に乗り、自宅へと帰った。
家に着いて家族に無事を知らせる連絡をして、YouTubeを観ながら寝落ちした。
病院にはWi-Fiがなかったから久しぶりのYouTubeで箱根ガラスの森美術館の音声ガイドの情報を漁りながら寝落ちした。

現代人にWi-Fiなしはつらい。
断食はまったく問題ないけどいきなりのWi-Fi無しと強制禁煙はなかなかにキツかった。
まあ病院ではそれどころじゃないくらい普通にずっと寝てたんだけど。

退院から数日後、以前のような速度で歩けるようになった。
と思ったら家の中で過ごしてると気付かなかったけど、外を歩くと足を接地するときの振動が腹に結構ズンズン響く。
痛いとかではないけど、打ち上げ花火を近くで見上げているときのような衝撃が少しずつ腹に蓄積されている感覚。
長く続くと具合が悪くなりそうな。

それでも手術で腹に開けた穴の傷口も塞がり、ようやくシャワーも浴びられるようになっているので、明らかに回復していると言える。

座っている姿勢も維持できるようになり、仕事に復帰した。
結局入院期間も含めて半月くらい休んでいた。
有休がたっぷりあってよかった。あと有休消化できてよかった。

しかし仕事となるとノロノロ歩いているわけにはいかない。
基本はデスクワークだが、移動はあるのだ。

また、ある程度座っている姿勢を維持できる、くらいなのにいきなりフルタイムでの復帰は負担が大きかったようだ。
夕方頃になるとやはり腹が痛くなってくる。

例えるならRPGの「状態異常:どく」みたいな。
1歩歩くと1ダメージ。座って仕事してても1ターンごとに1ダメージ。
午前はまだ体力があるからズンズン歩いて腹に響いても特に問題はないが、夕方くらいになるとだんだん1ダメージが無視できなくなってきて、定時になるころには慎重に歩くようになる。
たぶんステータス画面を開いたら赤く表示されることだろう。

あと地味にドアの開け閉めが痛かった。
医者からは重い物を持たないようにとは言われていたが、どの程度なら持てるのかは自分でも判断できない。
持つなと言われているなら重いものを持つのは避けるべきだし、日々回復してもいるから持とうと思えば持てる重さというのも変わってくるだろう。
ただ油断して許容量を超えた重量を持ってしまうと突然ぐふっと力尽きるのは目に見えている。

今までまったく気にすることはなかったが、オフィスのドアは頑丈で重い。
出勤時やトイレから戻ってくるたび、油断してオフィスのドアを開けるとズキンと腹筋が痛んで強制的に力が抜ける。
意識さえ落ちなければ一瞬顔をしかめるだけで即座に立て直せるからまったく支障は出ないけど、痛くないわけではない。

そして、手術から約1か月が経つ現在。
気持ち的にはほぼ完治している気はする。

重いものを持ってはいけないという制限は外れたが、腹筋を使う筋トレは控えるように言われている。
医者が言うにはあと3,4か月は痛いのが続くそうだが、普通に生活を送っている分には痛みはない。

たまにグググッと腹が痛くなってやばいと思うことはあるが、あれこれ便意なんじゃねと気付いてトイレに行くと案の定便意だったというのが常である。

初めての入院、初めての手術。
いろんな初経験をした。

金玉の痛みも腹筋の痛みも凄まじかったけど、
たくさんの女の子に短小包茎を見られたけど、

まあ、悪くない人生だった。

金玉が大きいので病院にいったら即入院即手術になった話
〜完〜

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