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4年近く同棲していたのに生活リズムの不一致で新婚早々妻と別居した話(6)

僕は寝ていても話しかけられると無意識に返事をするし、そのときどういう内容の話だったかも起きたときにはしっかり覚えている。

かつて職場の飲み会で生ビールをピッチャーで一気飲みして酔いつぶれたとき、当時の同僚から頼まれて5万円を貸し、次の給料日になって飲み会のときの5万返してと言ったら「あ、え、あー、あれね……」とかなり意外そうな反応をされたこともある。記憶を失くすと思って金を借りたようだった。コノヤロウ。

ともあれ僕は寝ていても返事はする。
これはおそらく、寝ていても返事をしないと怒られていた幼少期に獲得したスキルだ。

住み込みのバイトで相部屋の寮生活をしていたころの経験から言っても、通常は一言二言返事をすれば会話は終わるものである。
話しかけられるのは用があるときだから伝えることを伝えれば会話は終わるし、特に用がなく起きていると思って話しかけられても、寝ているとわかると起こしてごめんと相手が配慮してくれるからだ。
僕も最短で会話を終わらせるために最適化された返事をするようになっており、会話が終わった瞬間また眠りを再開する。

しかし僕と妻の会話は普段から、僕が相槌を打っているだけで成立する。
レベル上げにより後天的に獲得したコミュニケーションスキルは一応あるにはあるが、僕にとって常時発動するには消費MPが高すぎる。
僕は元来お喋りは決して得意ではないので、勝手に喋り続けてくれる相手はコミュニケーションが楽なのである。

それが裏目に出て、僕が返事をする限り妻は話し続けるのだ。
話しかけられ続けると、情報を処理するために前頭葉が活性化し、前頭葉は理性を司る場所でもあるので頭が冴えて眠れなくなってしまう、という流れだ。

じゃあ僕が返事をしなければ話しかけられ続けることもなくなるのではないかというと、実はそれも一理ある。
それができればほぼ解決でもあるのだろう。

だがそれこそ、寝ているときは理性がないのだ。
歯軋りや寝返りを制限できないように、寝ている間の行動は無意識に自動的に行ってしまうものなのである。
言うなれば僕の返事は、寝言と変わらない。僕の場合は記憶がはっきり残っているという違いがあるだけで。

食事が早くなり僕も早く寝る。
僕が先に寝て妻は起きている。
妻が話しかけ僕は返事をする。
僕が返事をし妻は話し続ける。
僕は目が覚めて眠れなくなる。

僕が妻が寝るのを待つようになる前は、毎日のように起こされるようになり、そのたびにまた起こしたねと指摘するようになった。

ここで「ごめんねまたやっちゃったテヘっ☆」と反省してくれるのであれば、「まあ新しいことを始めるわけだから慣れるまでは失敗するよねちょっとずつ慣れていこう」で終わる話なのだが、

「今日はお昼寝してたから夜起こしてもいいと思った」とか「明日休みなのにだめなの!?」とか「んー以外の返事をしたから起きてると思った」とか猛烈な言い訳が始まる。

うっかりやっちゃったならまだしも、寝ているのはわかっていて自分の中で理由を作って起こしているのであれば、それを許してしまうと今後も同じ理由で起こされ続けることを意味する。

だから、しっかりと説明して理解してもらわないといけない。
そんな約束はしてない、夜に起こされると目が覚めて明け方まで眠れなくなる、睡眠が足りてないから休みの日にも眠れるときに寝る必要がある、昼寝は足りてない睡眠を補うものであって昼に寝てたからといって夜起こしていい理由にはならない、寝てても無意識に返事をしてしまうのは惑わせて申し訳ないけど理解してほしい、無意識とはいえ何も考えてないわけではないから質問されたらそれに応じた返事もする、返事に頭を使う質問をされると目が覚めてしまう、起きてるか見分けがつかないのは仕方ない、でもたとえ起きていたとしても布団に入ってるときはこれから寝ようとしている状態だから寝てると思って話しかけないでってお願いしたはず。

などと。

そうして言い合いをすることが増えた。
妻からすると、結婚してから僕が変わってしまったように見えただろう。

結局、妻が寝るのを待ってから自分が寝る、以外の解決策は見つからなかった。

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