ブロック化の可能性~衆院定数(465)では?
「一票の格差」訴訟を主導される升永英俊弁護士の依頼で、令和4年度(2022年度)の参議院通常選挙の当日有権者数を使って、参院改選数(124議席)におけるブロック化の効果を求めた(和田2022)。令和元年度(2019年度)の参議院通常選挙の当日有権者を使った場合(和田2020)、西岡武夫参院議長が2010年12月22日に提案した9ブロック制を採用し、アダムズ方式以外のアメリカ下院方式、サンラグ方式、ドント方式、あるいは最大剰余方式などの通常の方法で定数配分すれば、過半数である63/124≒50.81%の議席を得るのに50.20%の有権者が必要であるという結果(和田2020表3)が導出され、改選議席数の過半数の議席を得るためには過半数の有権者の支持が必要という形を得ていたわけだが、令和4年度(2022年度)の参議院通常選挙の当日有権者数を使っても、均等化された8ブロック制が採用されれば、過半数である63/124≒50.81%の議席を得るのに50.18%の有権者が必要であるという結果(和田2022【表12】)が導出され、改選議席数の過半数の議席を得るためには過半数の有権者の支持が必要という形を整えることが出来た。(和田2022)
追加依頼された衆院定数の465は、参院改選数の124の3.75倍であり、より整数近似がしやすくなることから、升永(2020)が「統治論に基づく一票の平等」の基準として採用する「国会議員の過半数を得るために必要な有権者数の割合」を過半数にするのはそう難しいことではないと思えるが、参院改選数124に関わるシミュレーションを行った和田2022で用いた、衆院比例11ブロック、西岡参院議長提案9ブロック、均等化8ブロック(和田2022【表2】)では、「国会議員の過半数を得るために必要な有権者数の割合」は有権者の過半数にはならなかった。以下で、124を465に変えた、各ブロック制における「国会議員の過半数を得るために必要な有権者数の割合」を紹介する。
衆院比例11ブロックの場合、最大剰余方式やアダムズ方式で49.85%(和田2022【表5】)や49.68%(和田2022【表4】)だったのが49.80%(【表1】)に、アメリカ下院方式、サンラグ方式等の中庸な除数方式で49.85%(和田2022【表5】)だったのが49.76%(【表2】)に、ドント方式ので49.63%(和田2022【表6】)だったのが49.68%(【表3】)にといった具合で、中庸な方式群においてはむしろ悪化してしまった。
西岡武夫参議院議長提案9ブロックの場合、アダムズ方式で49.60%(和田2022【表8】)だったのが49.81%(【表4】)に、最大剰余方式や、アメリカ下院方式、サンラグ方式等の中庸な除数方式で49.94%(和田2022【表9】)だったのが49.82%(【表5】)に、ドント方式で49.79%(和田2022【表10】)だったのが49.75%(【表6】)にといった具合で、こちらもアダムズ方式以外悪化となってしまった。
均等化8ブロックの場合、どの方式でも配分数が同じになり50.18%(和田2022【表12】)であり、過半数の議席を得るためには過半数の有権者の支持が必要という結果が導けていた(和田2022)わけだが、配分数465だとアダムズ方式とそれ以外の場合で定数配分結果が変わり、アダムズ方式の場合49.8707%(【表7】)、アダムズ方式以外の場合49.8706%(【表8】)といった具合で、50%を切ってしまった。
同じ定数配分方法で比較すると、ブロック数を減らし、ブロックを均等にして行った方が結果がよくなることが確認できる。最大剰余方式で49.80%(【表1】)<49.82%(【表5】)<49.8706%(【表8】)、アダムズ方式で49.80%(【表1】)<49.81%(【表4】)<49.8707%(【表7】)、アメリカ下院方式、サンラグ方式等の中庸な除数方式で49.76%(【表2】)<49.82%(【表5】)<49.8706%(【表8】)、ドント方式で49.68%(【表3】)<49.75%(【表6】)<49.8706%(【表8】)といった具合である。しかし、配分数を124から465に上げた場合、あともう一歩過半数に届かない。これは、124議席だと1議席は1/124≒0.806%、過半数の63/124≒50.81%で、多少重い票から積み上げていっても、50%を越え、50.81%までの間に有権者割合の累積を落とすことができるが、1/465≒0.215%、過半数の233/465≒50.11%だと、重い票から積み上げていくと50%を越え、50.11%の間までに入り込むのが難しいということなのかもしれない。
ただし、当然のことながらブロック間の一票の較差は配分数を124から465に上げることによってかなり良好になる。
衆院比例11ブロックの場合、最大剰余方式やアダムズ方式で1:1.13(和田2022【表5】)や1:1.18(和田2022【表4】)だったのが1:1.02(【表1】)に、アメリカ下院方式、サンラグ方式等の中庸な除数方式で1:1.13(和田2022【表5】)だったのが1:1.03(【表2】)に、ドント方式で1:1.29(和田2022【表6】)だったのが1:1.05(【表3】)にといった具合で、有権者数の多いブロック、有権者数の少ないブロックを抱える現状でもかなりの平等が達成されることが分かる。
西岡武夫参議院議長提案9ブロックの場合、アダムズ方式で1:1.18(和田2022【表8】)だったのが1:1.02(【表4】)に、最大剰余方式や、アメリカ下院方式、サンラグ方式等の中庸な除数方式で1:1.10(和田2022【表9】)だったのが1:1.03(【表5】)に、ドント方式で1:1.11(和田2022【表10】)だったのが1:1.05(【表6】)にといった具合で、同等の結果が得られている。
均等化8ブロックの場合、配分数が124だとどの方式でも配分数が同じになり1:1.06(和田2022【表12】)であるが、配分数465だとアダムズ方式とそれ以外の場合で定数配分結果が変わり、アダムズ方式の場合1:1.02(【表7】)、アダムズ方式以外の場合1:1.01(【表8】)である。
均等化8ブロックで最大剰余方式、米国下院方式、サンラグ方式などの中庸な方法を採れれば較差は1%。升永(2020)が主張する「統治論に基づく一票の平等」のためには、「国会議員の過半数を得るためには過半数の有権者が必要」であることは理想ではあるが、今回シミュレーションに使ったのは、令和4年度(2022年度)の参議院通常選挙である。石川・福井の合区まで進めなかったために、選挙区間の一票の較差が1:3.032にもなり(朝日新聞20220622、NHK20220623等)、更には鳥取・島根、徳島・高知のために特定枠まで準備されるという、人と人との平等を全くに蔑ろにした選挙に比べれば、はるかに望ましい結果ではないかと信じる。
升永英俊(2020)『統治論に基づく人口比例選挙訴訟』(日本評論社)
和田淳一郎(2020)「一票の平等はどこまで求められなくてはいけないか」2020年12月6日公共選択学会
和田淳一郎(2022)「ブロック化の可能性」
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