衆議院議員の過半数を得るために必要な日本国民の人口~2020年国勢調査速報値による

2020年の国勢調査の速報値が発表されたことに伴い、升永英俊弁護士からの依頼があり、升永(2020)に従った「国会議員の過半数(50%超)を得るために必要な有権者数(日本国民の人口数)」に関わる試算を、衆議院議員に対して確認しておきたいと思う。

定数配分の基準

安倍内閣下で行われた2016年(平成28年)5月27日の衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律において、0増6減という糊塗に伴い導入されたのが「日本国民の人口」という文言である。

アメリカが、定数配分の基準を、all people (citizens and noncitizens)と明記する形で、国籍に関わらない「人口」とし、合衆国憲法第2条においても、3/5という加重をかけながらも、奴隷人口まで含むことを記載しているのと比べて、未成年者同様有権者ではないとしても、そこにいる人間の数を数えないというのには、若干違和感がないわけではないが、一票の平等訴訟などで使われているのは有権者数による票の重みであることもあり、ここでは、法律に従い、「人口」から外国人人口を除く形で「日本国民の人口」とし、定数配分の基準とする。

ちなみに、国籍不明者がいるためにこのような処理が行われるわけだが、総務省(2021.6.25)による『令和2年国勢調査人口(速報値)に基づく計算結果の概要』における「日本国民の人口」とは完全に一致する。

各県への定数配分

289の小選挙区配分議席総数と、2020年の速報値データとに基づいた場合、「日本国民の人口」で計算(表1)しても、「人口」で計算(表2)しても、法に定められたアダムズ方式による各県への定数配分に差は生じないが、「人口」の代わりに「日本国民の人口」を使うことにより、より比例に近いアメリカ下院(Hill)方式平均対数偏差最小化に基礎づけられた配分方法の場合、東京に1減、山形に1増、タイル指数最小化サンラグ(Webster)方式、最大剰余方式による配分方法の場合、千葉に1減、宮崎に1増をもたらすことになる。

(各種の定数配分方法については、和田(1991)、Wada(2012)、和田(2012)、Wada(2016)などを参照していただきたい。)

各比例選挙区への定数配分

安倍内閣下で行われた制度変更の中で、目立たずに織り込まれたのが各比例選挙区への定数配分におけるアダムズ方式の導入である。

選挙制度改革および2000年の国勢調査による定数是正までは最大剰余方式での配分が行われていたようだが、2020年の国勢調査による定数是正からはアダムズ方式が使用される。

日本は、財政はもちろん、憲法なども独自のものを持つ連邦制を取っているわけでもなく、比例配分から乖離するアダムズ方式の採用は望ましくない。ましてや、比例選挙区におけるアダムズ方式採用は問題が大きい。

アダムズ方式は、Balinski=Young(1982)が証明しているように、分裂すれば受け取る総定数が有利になる(不利には決してならない)。逆に、無理にくっつけられた比例区ほど不利になる(有利には決してならない)からである。

176の比例区配分議席総数と、2020年の国勢調査速報値の「日本国民の人口」に基づいた場合、アダムズ方式だと3増3減だが、アメリカ下院平均対数偏差最小タイル指数最小サン=ラグ方式最大剰余方式などのより比例に近い配分方法では全て5増5減となる。最大剰余方式からアダムズ方式にすり替えられた各比例選挙区への配分はかなり大きな問題を引き起こしていると考えられるのである。(表3

国会議員の過半数(50%超)を得るために必要な日本国民の人口

和田(2020)で解説したのと同等の方法で、計算すると、現状は46.39%の日本国民の人口で過半数の議席を握れてしまう(表4)のが、小選挙区、比例代表ともにアダムズ方式で配分し直すと、48.05%の日本国民の人口が必要になる(表5)ことがわかる。

ただし、比例代表制をアダムズ方式以外のアメリカ下院サン=ラグ最大剰余方式等に変え、小選挙区をアメリカ下院方式等に変えれば48.68%表6)、サン=ラグ方式、最大剰余方式等に変えれば48.76%表7)まで行くことができるので、現状がお話にならないのは別として、アダムズ方式の劣位が示されることになったかと思われる。

参考文献

総務省(2021.6.25)「令和2年国勢調査 人口速報集計結果」(総務省令和3年6月25日)

総務省(2021.6.25)「令和2年国勢調査人口(速報値)に基づく計算結果の概要」(総務省令和3年6月25日)

升永英俊(2020)『統治論に基づく人口比例選挙訴訟』(日本評論社)

和田淳一郎(1991)「議席配分の方法としてのサン=ラグ方式」『公共選択の研究』第18号pp.92-102

Wada, Junichiro(2012)"A divisor apportionment method based on the Kolm-Atkinson social welfare function and generalized entropy" Mathematical Social Sciences 3(3), pp243-247.

和田淳一郎(2012)「定数配分と区割り」『選挙研究』28巻2号pp.26-39

Wada, Junichiro(2016)"Apportionment Behind the Veil of Uncertainty" Japanese Economic Review 67(3), pp.348-360.

和田淳一郎(2020)「一票の平等はどこまでもとめられなくてはいけないか」

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