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【詩】ぞうさんのまち

春のまちで
ぞうに、「さん」が送られた

いっぱいの、花飾りつきのぞう「さん」を
誰よりも
愛しているのは
そのまちに生まれたおじさんたちで
日曜日には、駅前広場で循環バスを待っている
口笛を吹けばふいに現れ
長い鼻でおじさんたちの肩をくすぐる
かわいい、ぞうさん

それぞれのぞうさんたちを肩に乗せ
おじさんたちが
気取って行くのはホルモン屋
デイゲーム中継の下は止まり木
飛び交う皿に
(それはなんのいきもののなかみ)
ぞうさんたちが目をまるくするので
おもしろがってコップ酒
ぞうさん、おもい、ぐるぐる

野球の試合は今日も敗け
ぐっすり眠るぞうさんたちに
囁きかける
おやすみ、ぞうさん
日曜日はもう終わり
アパートでは
吊るしっぱなしの作業着たちが
雨となって降ろうとするはず
明日はきっと、ぞうさんたちの背中に揺られて仕事に向かう
月曜日という名前をつけた
さざなみのたつ
水辺に向かって

ーーー

山口県周南市が好きです。周南市はまど・みちおさんの故郷。たまに行きたくなります。
駅のコンコースは「ぞうさんのとおりみち」。噴水は「ぞうさんの水飲み場」。動物園にはもちろん象。美術館にはまど・みちおさんの絵がたくさんあります。
周南市のいろいろな風景と、美術館で見たどこか寂しいぞうさんの絵が一緒になってできた詩です。

※写真は「ぞうさんの水飲み場」で撮りました。

『季刊びーぐる』55号(2022年4月)に掲載されています。



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