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Sunni Colon @Billboard Live TOKYO(20241001)

 ソウルへの愛を多彩なアプローチで描出した、壮大なメロウ音楽絵巻。

 たとえば、ヴィヴィアン・グリーンの「ゲット・ライト・バック・トゥ・マイ・ベイビー」(Get Right Back To My Baby)や「アイ・ドント・ノウ」(I Don't Know)、アルジェブラ・ブレセット「リカヴァリー」(Recovery)などの曲中に現れるプロデューサーのクワメ(・ホランド)を示す「音の科学者、クワメ」や、ブランダン・デシャイがAce Hashimoto(エース橋本、自身のインスタグラムでは“英澄橋本”と当て字もしている)名義でリリースしたデビュー作『プレイ・メイク・ビリーヴ』の「2NITE ft. Taichi Mukai」をはじめとする各曲に頻繁に現れる「エース橋本です」などのヴォーカル・シグネチャー(有名どころで言えば、宇多田ヒカル「タイム・リミット」に出てくる宇多田やロドニー・ジャーキンスが口ずさむ“ダークチャイルド”)が気になる性分なのだが、ある日、R&Bの楽曲をランダムに聴き流していたら、イントロに「よだれが出てるわよ」という日本人女性の声が入った曲に遭遇した。調べてみると、サニー・コロンの2016年のデビュー・アルバム『ティエリー・ディスコ』の冒頭曲「フィールフォーユー」(Feel4U)ということが判明。その女性の声はどうやら日本映画のセリフを引用したもののようで、サウンド・シグネチャーとはまた別物ではあるが、日本人が一聴すると“ダサい”と感じる(意味が分からずに外国人が「無料」「冷奴」「玄関」「台所」などのタトゥーを彫るような)ゆえ、かえって気になってしまった……それが個人的なサニー・コロンとの出会いとなる。

 サニー・コロンはナイジェリア人の両親をもつ、米・ロサンゼルス出身のシンガー・ソングライター。本名のティエリー・テツ(Thierry Tetsu)のファーストネームを冠したデビュー作『ティエリー・ディスコ』以降はアルバム3枚をリリースしているのだが、前述の「フィールフォー・ユー」には気を留めたものの、同作はそれほど聴き込んだという訳ではなかった。2018年の『サテン・サイコデリック』(Satin Psicodelic)からじっくりと聴き始めたというのが正直なところ。ケイトラナダなどとのコラボレーションでも名を広め、7月には「ディスコ・マッシュルーム」(DISKO MUSHROOM)をシングル・リリースするなど注目されるなかでの来日公演だ。
 来日経験はあるようだが、パフォーマンスとしては初来日となる。東京、横浜、大阪の3ヵ所のビルボードライブでの初来日ツアーのうち、その幕開けとなる10月1日の2ndステージに足を運んだ。

Sunni Colon

 まず、驚いたのが、バンド編成。勝手にDJセットに鍵盤とドラムくらいのセットかと思っていたら、日本人女性4名のストリングス隊を全編で配したのを含め、総勢9名という豪華な編成だ。左から鍵盤、ベース、ドラム、ギター、ギターの後ろにストリングスと、いつもよりビルボードライブのステージが狭く見える。バンドメンバーは、ベースのロバート・ルイス以外は日本人で構成。サニー・コロンはヴォーカルのほかギターや鍵盤ともクレジットされていて、確かにステージ上にギターが掲げられていたが、どうやらヴォーカルに専念した模様で、楽器の使用はなし。

 レディシ(レデシー)の2024年のアルバム『グッド・ライフ』にも収められたメロウソウル「ハロー・ラヴ」(Hello Love)が流れるなかで暗転し、バンドメンバーがステージイン。「ベイビー・アイ・ドント・マインド」のイントロが奏でられると、クレヴァーな顔立ちとスリムながらも筋肉質の両腕が目につくノースリーブなトップスという、シンプルながらも洒落た出で立ちで主役のサニー・コロンが登壇。上質なソウルショーが幕を開けた。

 平日夜だからか、日本ではそれほど知名度がないからなのか、観客はおおよそ5、6割といささか寂しいものとなったが、フロアに渦巻くソウルフルなグルーヴは熱を高めていく。曲終わりにボソッと言う「アリガトゴザッス」やMCの時の声は魅惑のローヴォイスなのだが、歌唱となるとハスキーかつスムースな声色を発するから、女性からの人気も窺えそう。

 ステージ上での派手なパフォーマンスはないけれど、時折「ウッ、ハッ」などと唸ってみたりするのは、雰囲気は異なるがマイケル・ジャクソンの影響なのかと、ふと思ったりも。声圧で押してくるのではなく、スムースやメロウなソウルを基盤にしながら、コズミックやサイケデリックといった要素も感じさせる佇まいは、ジェシー・ボーイキンス3世あたりのアプローチにも似ているか。サウンドやヴォーカルワークからは愛やソウルがたっぷりと感じられ、それをジェントルなアプローチで描き上げていくから、非常に洗練されたものに。しかしながら、それ一辺倒ではなく、ファンキーなパッションやストリングスがもたらすダイナミズムが横溢するゆえ、音圧やヴォリュームで強引に呼び込むようなアプローチにはない、ジワジワと沸いてくる蠢きみたいなものが発露していく感覚が、刺激と喜悦をもたらしてくれる。

 楽曲の本編の前後には、ストリングスを軸としたイントロやアウトロのような小品を配していくことも多かった。単に楽曲を羅列するだけではなく、ちょっとしたアレンジを添える装飾感はジャズ的なものでもあり、一篇のストーリーとなるようにステージを演出。メドレーではないが、本バンドがこのステージだけで奏でる世界観を忠実に描出するかのごとく、曲間のグルーヴも支配していたのが印象的だった。

 曲構成は『サテン・サイコデリック』を中心に、2022年リリースのアルバム『ジュジュ&ザ・フラワーバグ』(JuJu & The Flowerbug)、2024年のEP『ターボ』(TURBO)の収録曲を配置するなかで、中盤と終盤にカヴァー曲をプラス。星が瞬く夜空を想起させる「ドリーム・アバウト・ユー・オール・スルー・ザ・ナイト」のチルなムードとは打って変わって、小気味よいファンキーなリズムから始まったのは、セルジオ・メンデス&ブラジル'66の世界的ヒット「マシュ・ケ・ナダ」。コロナの後遺症に苦しみ、惜しくもこの9月23日に83歳で亡くなってしまったセルジオ・メンデスの代表曲だが、その追悼の意味もあったか。メンデスはロサンゼルスに自宅を構えていたから、同地出身のサニー・コロンとしても特に影響を受けていただろう。「ターボ」ではブラジル・リオデジャネイロにいたときに作った楽曲だというから、そのインスピレーションも強かったはずだ。
 それまで紳士な所作が多かったサニー・コロンが、身体をかがめて小刻みにステップするのを待つまでもなく、観客もこの曲に即座に反応し、フロアにホットなエナジーを降り注いだ。
 曲中にはミュージックディレクターも務めた(ストリングスへの指示も出していた)山口望のギターソロもあったが、熱量高く掻き鳴らすなかで、さらりとジル・スコット「ゴールデン」風のフレーズも忍び込ませていた(記憶が確かならば)。

 後半には、清澄かつコズミックな小品「グアヴァ」に続いて、ソウル・ナンバーのカヴァーを3曲披露。テンプテーションズのオリジナルメンバーで、「ゲット・レディ」などを歌ったエディ・ケンドリックスが、脱退後の1973年に〈タムラ〉から放った「ガール・ユー・ニード・ア・チェンジ・オブ・マインド」を皮切りに、リオン・ウェアによる妖艶なプロデュースが耳を溶かすマーヴィン・ゲイの「カム・リヴ・ウィズ・ミー・エンジェル」(邦題「エンジェル」、1976年の『アイ・ウォント・ユー』に収録)、そして、ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズのシック制作陣が手掛けた、フィラデルフィア出身のヴォーカル・グループのシスター・スレッジが1984年に発表した「シンキング・オブ・ユー」へ。サニーコロンの楽曲からは、R&Bやネオソウルをはじめ、ジャズ、ヒップホップ、サイケデリックから実験的なアプローチまでさまざまな要素が垣間見られ、絶妙な塩梅で混ざり合っているのだが、特にソウル・ミュージックから刺激を受けたのではないか。そんなことも脳裏をかすめたソウルな3曲で、歌っている表情もより楽しそうな感じがした。

 本編ラストは『サテン・サイコデリック』から「テクニカラー」、ビルボードライブの背後のカーテンが広がり、夜景の光が差し込むなかでのアンコールは『ターボ』からタイトル曲の「ターボ」と新旧の象徴的な楽曲を連ねてエンディング。フロアのさまざまな方向へ顔を向け、観客を指差し、手を振ったりしながら、ステージを所狭しと往来。微笑ましい表情は観客を和ませたが、それ以上にメランコリックからコズミック、サイケデリックなどのヴァイブスに触れながら、クラブジャズやアンビエントまでをも行き来するソフィスティケイトなR&Bを創出。甘美で妖艶に、ジェントルなアティテュードでソウルを湛えたグルーヴが、何よりも刺激的だった。

 このステージでしかなしえない壮大な音楽絵巻を繰り広げ、ソウル・ミュージックへの愛情も感じた70分強。官能的なムードにも包まれ、フレンドリーというよりもインティメイトな音空間を創出した。サウンドのテンション以上に、観客は刺激的なパッションを感じたのではないだろうか。次回も是非ストリングス隊を伴ったステージでさまざまな楽曲を体躯に沁み込ませたいと感じた初来日公演となった。

◇◇◇
<SET LIST>
01 Baby I Don't Mind (*S)
02 Mornin Dew (*S)
03 Supernova
04 Band Instrumental
05 Provide (*J)
06 DISKO MUSHROOM (*T)
07 Dream About You All Through The Night. (*T)
08 Mas Que Nada (original by Sergio Mendes & Brasil '66)(include guitar riff of "Golden" by Jill Scott)
09 Satin PSICODELIC (*S)
10 Summer Blu (*S)
11 RHYTHM TO YA LOVE (*J)
12 LESS IS MORE (*J)
13 Guava (*S)
14 Girl You Need A Change Of Mind (original by Eddie Kendricks)
15 Come Live With Me Angel (original by Marvin Gaye)
16 Thinking Of You (original by Sister Sledge)
17 Technicolor (*S)
《ENCORE》
18 TURBO (*T)

(*S): song from album "Satin Psicodelic"
(*J): song from album "JuJu & The Flowerbug"
(*T): song from EP "TURBO"

<MEMBERS>
Sunni Colón / サニー・コロン(vo,g,key)
山口望(g,Musical Director)
Robert Lewis / ロバート・ルイス(b)
石田まり(key)
松浦嘉也(ds)
上原帆海(vn)
勝谷真理奈(vn)
内田月渚(va)
高田志保(vc)


もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。