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Kehlani @Zepp DiverCity(20230215)

 幾度も絶叫の渦を生んだ、タフで刺激的なステージ。

 2022年リリースの3rdアルバム『ブルー・ウォーター・ロード』に耳を惹かれていたところへ、来日の一報が入った2022年秋。既にR&Bシーンを超えた人気を博しているケラーニだが、個人的にはこれまでのめり込むほどではなかったゆえ、2018年の単独初来日(初来日は2017年のSUMMER SONIC)の際にはスルーしてしまったのだが、『ブルー・ウォーター・ロード』の良さも手伝って、単独再来日公演に足を運んだ次第。Zepp DiverCityには、ケラーニを信奉すると思しき若い女性と外国人が多く詰めかけ、自分と同世代層はほぼ見かけず。客層の平均年齢を著しく高める一人となってしまった(苦笑)。

 サポート・アクトには、ケラーニのツアークルーの一人となっているDJのヌードルスと、米・フロリダ州タンパ出身のシンガー・ソングライターのデスティン・コンラッドが名を連ねた。
 このサポート・アクトとあるのが、ケラーニのステージにゲスト出演するような形のサポートなのか、いわゆるオープニングアクトなのかがいまいちよく分からなかった。それと、開演時刻18時だったのだが、ケラーニが登場したのは20時10分頃。具体的なアナウンスもなかったため、待ち侘びてしまった感覚がなかったと言えば噓になるか。

Kehlani〈Blue Water Road Trip Tour〉in JAPAN

 ヌードルスの約30分のDJアクト、デスティン・コンラッドの45分ほどのパフォーマンスを経て、おそらく当初からケラーニ本編が20時スタートだったのだと推測されるが、ヌードルスのアクトが終わった段階で、無駄な接触や小競り合いへ注意のアナウンス。デスティン・コンラッドのステージでは約30分経ったところで、コンラッドが歌唱を止め、前方で倒れている人たちの救護を指示。前方の様子が分からなかったのだが、スタッフも直ぐに駆け付けて対応する様子もなく(しばらくしてからペットボトルの水を持ってきたりはしたが)、該当者を場外へ連れ出すのか、それとも動かせない状況なのかも不明のまま、無駄に時間が過ぎ(スタジアムだったら「早く外に出せよ!」と叫ぶ輩が出るだろう状況)、コンラッドはそのままステージを去ることになった。周囲の外国人女性からは「まだ歌って!」「戻ってきて!」など声高に発していたが、その後に再び「前の人を押すという大変危険な行為が見受けられ~注意に従わない場合は公演を中断もしくは中止」云々のアナウンスがなされることに(英語でも)。
 
 コンラッドはショート動画共有サーヴィス「Vine」から登場し、EP『カラーウェイ』がケラーニやアンブレ(H.E.R.に「U」「Changes」を提供し、その後ロックネイションと契約)らに賞賛されたことで注目を浴びたシンガー・ソングライター。個人的にはキアナ・レデが客演した「アンプリディクタブル」くらいしか知らず(同曲を披露した際は観客にサビフレーズの歌唱を促していた)、どんなものかと興味があったのだが、中途退場と言う残念な結果に。上半身シースルーのメッシュ地という出で立ちで、ルックス、ヴォーカルともにスウィートゆえ、あちらこちらから黄色い声が聞こえるなど、女性からの支持が高いのも頷ける。ただ、ステージングはそれほどメリハリがなく坦々としていて、それほど強く印象に残るものではなかったのも確か。そのあたりは、楽曲が内省的なことだったり、大きなステージでの場数が多くないのかもしれないし、エンターテインするスタイルではないのかもしれない。それでも、官能的なネオソウル/R&Bマナーのアプローチも垣間見えたので、改めて楽曲を聴けば、魅力的に感じる作風なんだとは思った。

 コンラッドのステージの中止から30分ものインターバルが生まれ、ケラーニ本編が始まる前に"ケチ”がついた形になってしまった。正直なところ、もどかしさは拭いきれなかったが、さすがはケラーニといったところか。登場するやいなや貫禄十分でフロアを煽り、熱狂の渦を生み出していく。

 中央のDJセットに位置したヌードルスのほかは、左にキーボード、右にドラムと、それぞれ高台にセッティングされていて、女性オンリーのバンド。〈Blue Water Road Trip Tour〉と『ブルー・ウォーター・ロード』を冠したツアータイトルゆえ、同作を中心として楽曲構成なのかと思いきや、オリジナル・アルバム3作とミックステープなどから万遍なくチョイスしたような、"ケラーニ・ベスト”的な構成に。『ブルー・ウォーター・ロード』の世界観で包み込むというよりも、ケラーニが辿ってきた軌跡を惜しげもなく組み込んでいったステージだ。1曲毎に女性たちから甲高い歓声が上がり、その押し寄せる声に応えようとする姿は、百戦錬磨のタフな女戦士といったところか。

 ところが、声が掠れる場面や、DJのヌードルスと頻繁にコンタクトを取るなど、万全な状態でないことも窺えたことに加えて、音響が悪く、重低音が酷く割れてしまっていて、かなりのノイズとなっていたのは残念だった。DJの音源にキーボードとドラムの音を被せるスタイルだったが、その音源のアウトプットの調整が最後まで修正されずに終わり、(ボトムやビートを響かせたいという意図があったのかもしれないが)耳障りな音を終始聴かされることになったのは、いただけなかった。

 また、終盤にサプライズゲストとしてAwichとJP THE WAVYが登場して、彼ら自身のトラップ系ヒップホップ・チューン「GILA GILA」を披露。フロアからは女性陣の叫喚が響き渡ったが、個人的には人選含めて悪くはないとしても、終盤のクライマックスに汲み入れるまでだったかというと、微妙な気も。アンコールがあれば、そこで登場させるというシナリオも描けるが、ツアー中のセットリストはきっちりと決めているだろうから、致し方ないところか。

 ただ、ヌードルスのアクトの時に見られたように、おそらく客層の多くがヒップホップ嗜好が強いのは確かで、R&Bでもエラ・メイ「ブード・アップ」やリアーナ「ワーク」といったいわゆる定番曲や、昨年末リリースのアルバム『SOS』が絶好調のSZAなどでは盛り上がるが、それ以上にドレイクやミーガン・ジー・スタリオン、リル・ウージー・ヴァートらヒップホップ勢での反応は、それらを凌駕していた(TLC「ノー・スクラブス」はもちろんのこと)。ラストにキーシャ・コールの名バラード「ラヴ」はオーディエンスの大合唱となったのだが、キーシャ・コールも言うなれば、R&Bというより"プリンセス・オブ・ヒップホップソウル”だと見れば、明らかではある(2022年のベスト・アルバムに挙げるメディアも多かった(個人的にもそうだった)ビヨンセの『ルネッサンス』収録曲の「カフ・イット」を流した際のフロアの反応が、思ったよりも薄く、R&B以上にヒップホップ属性のファンで占められていたことを痛感した次第)。その観点からすれば、AwichとJP THE WAVYのサプライズは、多くの観客にとっては幸運だったといえるだろう。

 サポート・アクト時に”ケチ”がつき、ケラーニは喉の不調、音響も良しといえないなかだったが、それでも情熱的でエネルギッシュなパフォーマンスを繰り出す姿は、プロフェッショナルのそれ。時に語りかけるかのように、時に焚きつけるように力感漲る歌唱で、フロアを沸点へといざなっていく。「ヘイト・ザ・クラブ」ではステージから降りて観客と同じ目線で歌いかけ(その様子は全く見えなかったが……苦笑)、「ウィッシュ・アイ・ネヴァー」などのダンサブルでグルーヴィな楽曲では、フロアをダンスホールに変え、「ハニー」では唯一椅子に腰かけて包み込むようなテンダーな歌唱で愛を紡ぎ、「ディストラクション」ではドラムの前でクラップを鳴らし、「ギャングスタ」では仰向けに倒れながら歌い上げるなど、万全ではないながらも、ファンへの感謝と声援に応えるステージングを展開。ラストの「CRZY」では、ハードロッキンなアレンジが響くなか、ヌードルスとともに観客にジャンプを促し、フロアを興奮と熱狂のるつぼにしていた。

 メジャー・デビュー当初は全身タトゥーというヴィジュアルと個性の強いキャラクターで耳目を集めたところも多かったが、いくつかのカミングアウトも含め、さまざまな経験を重ねていき、アーティストとして高いレヴェルで進化を遂げている。体調が良好ではなかったとはいえ、その進化や成長の一端をこのステージで目にすることが出来た……というのは、気のせいではないだろう。途中でステージを去ることになったコンラッドへの感謝とサポートに触れ、「シー・ユー・ネクスト・タイム・トーキョー!」と言い残し、フロアからの大きな歓声がこだまするなかステージ袖へと消えて行ったケラーニ。次回こそは万全な状態で、フルスロットルのパフォーマンスを体感したいところだ。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 little story (*B)
02 more than i should(Original by Kehlani ft. Jessie Reyes) (*B)
03 Open(Passionate) (*I)
04 Love Language (*W)
05 Piece of Mind (*S)
06 Can I(Original by ft. Tory Lanez) (*I)
07 Water (*I)
08 Hate the Club(Original by Kehlani ft. Masego) (*I)
09 Good Thing(Original by Zedd and Kehlani)
10 wish i never (*B)
11 up at night(Original by Kehlani ft. Justin Bieber) (*B)
12 Honey
13 You Should Be Here (*Y)
14 The Way(Original by Kehlani ft. Chance the Rapper) (*Y)
15 Distraction (*S)
16 Nunya(Original by Kehlani ft. Dom Kennedy) (*W)
17 Toxic (*I)
18 Gangsta
19 GILA GILA(guest with Awich, JP THE WAVY)
20 Nights Like This(Kehlani ft. Ty Dolla Sign) (*W)
21 CRZY (*S)

(*B):song from album『Blue Water Road』
(*I):song from album『It Was Good Until It Wasn't』
(*W):song from mixtape『While We Wait』
(*S):song from album『SweetSexySavage』
(*Y):song from mixtape『You Should Be Here』

<MEMBERS>
Kehlani(vo)
Noodles(DJ)
(ds)
(key)

Support Act:
Destin Conrad(vo)
Noodles(DJ)

Special guest:
Awich(vo, MC)
JP THE WAVY(vo, MC)

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Noodles

<Noodles DJ Play List>
SZA / Low
Justin Bieber / Yummy
Drake & 21 Savage / Rich Flex
Hitkidd & GloRilla / F.N.F.(Let's Go)
Trillville / Some Cut
Pop Smoke / What You Know Bout Love
Bryson Tiller / Exchange
Ella Mai  / Boo'd Up
Burna Boy / Last Last
Doja Cat / Get Into It(Yuh)
Rihanna / Work
Drake / Nice For What
Megan Thee Stallion / Body
Chris Brown, Young Thug / Go Crazy
TLC / No Scrubs
City Girls / Act Up
Nicki Minaj / Chun-Li
SZA / The Weekend
Beyonce / Cuff It
Summer Walker / Ex For A Reason(ft. JT From City Girls)
ROSALIA / Bizcochito
Central Cee / Doja
Internet Money / Lemonade
Lil Uzi Vert / Just Wanna Rock
Steve Lacy / Bad Habit
Keyshia Cole / Love

Destin Conrad

<Destin Conrad Set List>
It's Yours (*S)
ON 10 (*S)
Colorway
Excited!
Nobody Knows (*S)
Unpredictable (*S)
Day Party (*S)
BILL$
Down Bad (*S)
Daydream (*S)
In The Air / Canceled due to accident

(*S):song from album『SATIN』

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もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。