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Eric Benet @Billboard Live TOKYO(20230617)

 愛や感謝を共にした、馥郁たるR&Bの真髄を示した一夜。

 天を突くようなハイトーンファルセット、ハートウォームなスウィートヴォイスが帰ってきた。ニュークラシックソウル/ネオソウル・シーンを牽引し、"リアル・ソウルの伝道師”として、オーセンティックなR&Bを歌い続けているエリック・ベネイが来日。6月14日、15日、17日のビルボードライブ東京公演、19日の同大阪公演のうち、17日の東京公演を観賞。90年代以降のR&Bに"溺れた”と思しきミドルエイジを中心に、若いブラック・ミュージック・ファンも客席を埋めていた。

 前回の来日はおそらく2018年(記事 →「Eric Benet@BLUENOTE TOKYO」)だったかと思うが、これまではブルーノート公演が恒例のなかで、2009年以来となる久しぶりのビルボードライブ公演(記事 →「ERIC BENET@Billboard Live TOKYO」)。「LA」ロゴが入った黒キャップを被ったテリー・ワシントンが観客を煽るように「エリック・ベネイ!」と呼び込むと、原宿で購入したという日本語のかなで「すりらー」と書かれた文字と「スリラー」のミュージック・ヴィデオでの印象的な赤いレザージャケット(スリラー・ジャケット)&パンツ姿のマイケル・ジャクソンが描かれた白Tシャツに赤系のパンツ、ニット帽をラフに被ったエリック・ベネイが登場(前日には「くいーん」の文字とフレディ・マーキュリーが描かれた白Tシャツを着ていた模様)。親日家の彼が、日本への愛とファンへの感謝を述べながら、揺るぎない歌唱力でこれぞソウル、これぞR&Bという楽曲の数々を披露していく。

 バンドは、おそらくこれまでにも来日帯同してきたキーボード&バックヴォーカルのジョン・リッチ(ジョナサン・リッチモンド)を左に、同じくベースのアフトン・ジョンソンを右に配し、中央左にシアラやジェニファー・ロペス、メラニー・フィオナ、メーガン・トレイナー、シーラ・Eらを手掛けたギタリストのケンドール・リー・ギルダー、中央右にベネイと同郷ミルウォーキー出身のドラマーのフィリップ・"PJ" ・ヒルという布陣。大所帯ではないが、一体感とゴージャスな音、サウンドの押し引きのバランスが見事で、折に触れアイコンタクトやリアクションをするなど、チーム・エリックとしてのメンバー間の関係性の良さも垣間見えた。

Eric Benet

 楽曲構成としては、新たなアルバムをリリースしている訳ではないので、2018年をはじめ、近年とそれほど変わらない選曲に。映画『ザ・ブラザーズ』のサウンドトラックからシングル・カットされた、ヒップホップ的なトラックと心地よいグルーヴが走る「ラヴ・ドント・ラヴ・ミー」を皮切りに、2008年のアルバム『ラヴ&ライフ』に収録されたスウィート・ミディアム「ユーアー・ジ・オンリー・ワン」、メイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリーによる名曲「ハッピー・フィーリンズ」を配したハートウォームなR&B「ニュース・フォー・ユー」などを繰り出しながら、ステージに近い女性たちと幾度も握手やアイコンタクト。"R&B界の貴公子”の面目躍如たるモテ男ぶりを発揮する姿にも、コロナ禍以前の光景が窺えた。

 さまざまにある脚(肌)の色をミルクチョコレートやホワイトチョコレートなどと語った(「あなたの脚は何チョコレート?」と聞かれた最前列の女性が、おそらく日本的という意味で「抹茶チョコレート」と答えると、「え、それ緑色ってこと?」と返して笑いを誘うくだりも)「チョコレート・レッグス」や、「懐かしい頃に戻ろう、1996年に」との掛け声からミラーボール煌めくダンスホールへといざなったソロ・デビュー・アルバム『トゥルー・トゥ・マイセルフ』からの2ndシングル「スピリチュアル・サング」などの人気曲を、褐色の甘いヴォーカルで酔わせていく。

 エリック・ベネイの公演では、中盤に何かしらのカヴァー曲を組み込んでくるのが恒例で、それも特に目新しいものではないが、デヴィッド・フォスターとのなれそめや影響を語りながら、フォスターが手掛けた名曲群をショートパートで歌い上げていく。アース・ウィンド&ファイアーの名バラード「アフター・ザ・ラヴ・ハズ・ゴーン」からチャカ・カーンの「スルー・ザ・ファイアー」、そして再びアース・ウィンド&ファイア―のダンス・クラシックス「セプテンバー」へ。観客へ促した「バー・ディ・ヤ」のコーラスが響くなかで、フロアは一気にダンスホールへ。フォトブックのページを開くと華やかな音楽が次々と鳴り出すような、おもちゃ箱にも似た胸躍るステージにおいても、バラードであれ、ディスコ・チューンであれ、実に嫌みのない、シルキーなハイトーンファルセットで畳み掛ける光景は、まさに圧巻の一言だ。

 それらのカヴァーから「数々の名曲を生んできたフォスターが、ボクに提供してくれた」という「ザ・ラスト・タイム」へ。この楽曲は2005年のアルバム『ハリケーン』に収められているが、「50年代、70年代、90年代……さまざまな時代の音楽があるけれど、この曲はどの年代にも通じる、タイムレスなんだ」という言葉通りのスタンダードなジャズ&ポップス。ヴェルヴェットに包まれるような滑らかさと優しく問いかけるようなスウィートなヴォーカルが与える安らぎに、多くが魅了されていた。

 2018年以降来日が叶わなかった時期に、惜しむらく2020年に鬼籍となってしまったビル・ウィザースへ、天へ向かって指を突き刺して「ビル・ウィザース!」と叫び、追悼の意を表わしたのが「ラヴリー・デイ」。ウィザースは、さまざまなアーティストがカヴァーし、特に1987年のクラブ・ヌーヴォー によるカヴァーが全米1位となった「リーン・オン・ミー」や、日本では「クリスタルの恋人たち」の邦題で知られ、ヴォーカルとして客演したグローヴァ―・ワシントン・ジュニアの全米2位ヒット「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」など数々のヒットを送り込んできた"ジャイアント”だ。

 以前、ベネイがあるイヴェントに参加するためジョージア州アトランタからアラバマ州セルマ(?)へバスで2時間半移動する時に、偶然にも幸運なことにウィザースと隣の席になったことがあり、音楽のことはもちろん、哲学や政治、文化のことなどさまざまな話を聞くことが出来たと。それらがとても貴重で宝物のような体験だったという逸話を告げ、ベネイの「ベースをくれ!」の発声からアフトン・ジョンソンがブリブリのボトムを鳴らすと、フロアはすぐさまに反応。フックでのどこまでも続きそうな伸びやかなロングトーンに喝采が沸き、ベネイもタイトル通りにラヴリーに、ジョイフルに歌声を奏でる。

 観客の男性陣にそのロングトーン(の短尺)フレーズを、女性陣に「ラヴリー・デイ、ラヴリー・デイ……」とリフレインするコーラスをそれぞれ催促するなかで、ベネイ自身が歌い上げる瞬間には、ハッピーなオーラと歓楽が一体となり、スマイルが溢れる。「パーフェクトだ!」と唸るやいなや、最前列の女性に「"perfect”は日本語で何て言うの?」と聞き、両手でサムズアップして「カンペキ!」を連呼する表情が実に愛らしく、キュートだった。

 その後もプリンス「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ラヴァー」のカヴァーでパッションを漲らせると、「99年に戻ろう。ボクの一番のヒットさ。タミアのパートもやるのは難しいけど」と言って、グラミー賞にノミネートされたタミア客演の「スペンド・マイ・ライフ・ウィズ・ユー」を。やはりラヴソングを奏でているベネイは圧倒的な包容力とスムースネスがフロア狭しと行き渡り、知らず知らずのうちに耳が引き寄せられ、身体を揺らされる。全米21位、R&Bチャート1位のベネイの金字塔だ。フェザータッチのファルセットアウトロが終わらぬうちに、歓喜の声に包まれていた。

 シャッフルドラムが鳴り始めるやいなや、背後のカーテンが開き、煌びやかな夜景が飛び込んでくると、フェイス・エヴァンスを招いてヒットさせたトトのカヴァー「ジョージィ・ポージィ」へ。気づくとフロアは総立ちで、お馴染みの「Georgy Porgy, pudding pie / Kissed the girls and made them cry」のコール&レスポンスも交えながら、フロアのヴォルテージを最高潮へと押し上げた。

 アウトロに階段を上がってステージアウトしていくベネイと入れ替わり、テリー・ワシントンが登壇。「もう1曲聴きたいだろ? どうなんだい?」と高らかに煽ると、沸き上がる歓声のなかで再びベネイが姿を現し、スパニッシュ・テイストも垣間見せるスムーズかつムーディなR&B「ホワイ・ユー・フォロー・ミー」でエンディング。感服する歌声とそれを十全するバンド・サウンドを浴び、享楽と愉悦に浸る光景を見るに、あらためて音楽が持つ力を感じながら、華やかな余韻が漂うフロアを後にしたのだった。

◇◇◇
<SET LIST>
Love Don't Love Me
Sunshine
You're The Only One
News For You
Chocolate Legs
Spiritual Thang
Femininity
After The Love Has Gone (Original by Earth, Wind & Fire)
Through The Fire (Original by Chaka Khan)
September (Original by Earth, Wind & Fire)
The Last Time
Lovely Day (Original by Bill Withers)
I Wanna Be Your Lover (Original by Prince)
Spend My Life With You (Original by Eric Benet feat. Tamia)
Georgy Porgy (Original by TOTO, coverd by Eric Benet feat. Faith Evans)
≪ENCORE≫
Why You Follow Me

<MEMBERS>
Eric Benet(vo)
Kendall Lee Gilder(g)
Afton Johnson(b, syn b, back vo)
Jon Rych / Jonathan Richmond(key, back vo)
Phillip "PJ" Hill(ds)

Terry Washington(MC)

Team Eric Benet

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【エリック・ベネイのライヴに関する記事】
2005/10/02 ERIC BENET@BLUENOTE TOKYO
2007/09/19 ERIC BENET with MICHAEL PAULO BAND@BLUENOTE TOKYO
2009/02/21 ERIC BENET@Billboard Live TOKYO
2009/12/25 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
2011/09/19 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
2012/05/17 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO 
2014/05/13 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
2015/10/16 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
2017/02/17 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
2018/04/24 Eric Benet@BLUENOTE TOKYO
2023/06/17 Eric Benet @Billboard Live TOKYO(20230617)(本記事)

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