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サカナクション @幕張メッセ(20240420)

※ネタバレを含むため、あらかじめ了承の上お読みください

サカナクション〈SAKANAQUARIUM 2024 "turn"〉

 不変のメタモルフォーゼを掲げた、歓喜に包まれたリブート。

 以前から一度ライヴを体験しようと考えていたアーティストが何組かいるのだが、サカナクションはその一つだった。特にシングルやアルバムをつぶさにチェックしてというファンではないけれど、基軸はロック・バンドの範疇なのだろうが、ポップでダンサブルな楽曲はもちろんのこと、ニューウェイヴのほか、テクノやハウスといったエレクトロニックなサウンドも響かせる音楽性は、なかなかに中毒性があると感じていた。

 SNSなどで音ハメ動画の定番にもなったキラー・チューン「新宝島」をはじめ、以前千葉ロッテマリーンズの外国人選手の応援歌にも使われた「アイデンティティ」やNHKの2013年度サッカーテーマとして良く耳にした「Aoi」のほか、「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」「夜の踊り子」「ショック!」など、知っているのはシングルやタイアップ曲ばかりなのだが、部分的にライヴ動画を見た際に、ライヴの全体像はどのような構成なのだろうと興味は持っていたのだが、2022年に飛び込んできたのが、フロントマンの山口一郎の休養のニュース。勝手に「(山口は)性格においても、音楽へ向き合う姿勢も繊細なタイプのようだし、復活はしばらくはないかもしれないな」などとやり過ごしていたところ、2024年からの活動再開の一報が届き、4月からアリーナツアー〈SAKANAQUARIUM 2024 "turn"〉の開催のアナウンス。従来のファンにとっては復活となる節目の舞台であり、サカナクションを初観賞するタイミングとしてはどうなのだろうと思慮を巡らせたのも事実。だが、会場に集う多くのファンが久しぶりの復活祭という、いやが上にも感情にバイアスがかかるなかで、かえって過去を知らないフラットな視点で観られるのも面白いのではないか、ということで、カムバック一発目となる4月20日の幕張メッセ国際展示場(9~11ホール)公演へと馳せ参じた次第。注釈席ではあるが、比較的ステージに近い前方横のエリアで初サカナクションを体感した。

 雨と風の音、そして雷鳴が鳴り響くSEがイントロダクションとして配されたのだが、ステージ正面ではないが規模の大きいアリーナとしては抜群に良い音に驚いた。ドルビーサラウンドのように横や背後からも音が伝わってくる。後のMCにて分かったのだが、リハーサルの時に周囲から苦情が来たというほどの、この規模のクラスでは日本において史上最高のスピーカー(サウンドシステム)を組んだとのこと。セッティングした音響スタッフがスクリーンに映され、オーディエンスからの拍手に包まれるなか、茶目っ気たっぷりに「金額も史上最高だったけどね!」とからかいながら笑みをこぼした、山口の表情も(その音に)満足げだった。

 ステージを覆ったカーテンに映し出された稲妻や風雨の映像とともに流れるSEから、「アメ フルヨル」というフレーズとともに「Ame(B)」のイントロに繋がった瞬間、待ち侘びていた感情を一気に発破するかのごとく歓声が巻き起こる。カーテンが開き、青白い光のなかからメンバー5名が浮かび上がり、中央に陣取る山口の佇まいとその一声に、さらに歓声を高め、〈SAKANAQUARIUM 2024 "turn"〉が助走から本格的に走り出した。

 披露した楽曲は、シングルやタイアップ曲が多くを占めたサカナクション・ベストと言ってもいい構成。序盤からダンサブルなポップ調のサウンドをバックに、フックで唸りを利かせた声で歌う「陽炎」、序盤に配するのは少々もったいない気もした生命力溢れるアンセム「アイデンティティ」、青色のレーザーライトが飛び交い、視覚的にも昂揚をもたらす「Aoi」など、もったいぶることは一切なく、まずは久しぶりに響かせるサカナクション・サウンドを存分に体感し、本能で踊ってもらおうという意図が働いていたかのように飛ばしていく。

 「ユリイカ」あたりから中盤に入り、ミディアム・テンポや空間を持つ楽曲群へ。「流線」になると序盤の派手やかさは消え、ギターの爪弾きが響くもの憂げなトーンへと移行。「ナイロンの糸」「ネプトゥーヌス」と連なるにつれ、飛び跳ね、歓喜の声でシンガロングしていたオーディエンスも、首や脚でリズムを刻みながらも、バンドが奏でる音数を抑えたノスタルジックな音像や、山口の時に哀切で物思いに耽るような、時にもがきから抜け出したような安堵を漂わせたヴォーカルに耳を傾けていた。

 「さよならはエモーション」からは徐々にローに入れていたテンションのギアを一段ずつ上げていく。「ホーリーダンス」を終えると、ステージを再びカーテンが左右から遮っていく。脈拍のように動く幾何学的な模様が映し出されたカーテンは、ステージを完全にシャットアウトしたままにはならず、カーテン上部がダイヤ型の窓のようにステージの僅か一部を覗かせていると、そこへ高くせり上がったステージに一列に並ぶメンバー5人が登場し、DJセット・スタイルで「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」「ネイティブダンサー」へ。原曲とは大幅にアレンジが異なるリミックス・ヴァージョンで、長方形のサングラスなどコスモティック(以前の時代に想像していたような近未来的)な佇まい衣装とともにテクノ/ハウス・アプローチのイーヴンキックのビートを響かせる。その姿はニューウェイヴ/テクノポップ・バンドのディーヴォ(日本で言ったらPOLYSICS)とダフト・パンクを融合させたようでもあった。そこではロック・バンドとしてのサカナクションは影を潜め、エレクトロニックなクインテットがアリーナをクラブへと変貌させる姿があった。このサウンドの振り幅、もっと言えば、意図的に美しく纏めようとしない貪欲性が、サカナクションの一つの魅力でもあるのかと思う。個人的にライヴで観たかったシーンだったが、思っていた以上にカオスでトランシーな印象を持った。

 せり上がったステージが降り、パンパパンとなるシンセの音が響くと、DJスタイルからバンド・セットに回帰して「ミュージック」へ。抑揚の激しいファルセットから「消えた」と放つフックへの展開に、バンドとして訴求する共感性のようなものも感じていた。後半に畳み掛けていくなかで歌う「だらしなくて弱い僕だって / 歌い続けるよ / 続けるよ」のフレーズは、サカナクションのフロントマン、山口一郎の現在地をまさに示しているかのようにも感じた。弱さを乗り越えて、というよりも、弱さを抱えながらも力強さを漲らせる、そんなしなやかさが「ミュージック」の演奏から垣間見ることができた気がした。

 「もっと踊ろう!」と連呼し、突入した後半は、ダンサブルなモードに。ミュージック・ヴィデオにも出演している嶋田久作が博士役で背後のスクリーンに映し出されるなかでのファンキー・チューン「ショック!」で、ギアがさらにハイに。個人的には映画『帝都物語』の魔人・加藤保憲役の印象が強い嶋田が、コミカルに踊っている映像はかなりインパクト大。その映像の前で脇をパタパタと開閉させながら歌い踊る山口の楽しそうな表情に、観てる方も喜悦を覚えるのだった。

 「ショック!」のテンションをさらに上昇させたのが「モス」で、キャッチーなメロディとともに響くオーディエンスの「マイノリティー!」のレスポンスが興奮を湧き立たせ、融点へと導く。フロアキラーの真骨頂といえる誘引力に溢れたライヴ・アンセムといえるだろう。そして、クライマックスにふさわしい、説明不要の「新宝島」へ。ミュージック・ヴィデオの『ドリフ大爆笑』のエンディングをオマージュしたと思しきシーンに出演している、スクールメイツをなぞらえたポンポンを持って踊るダンサーもステージに登場し、ジョイフルな空間へ。メロディ自体はどちらかといえばセンチメンタルではあるけれど、軽快なリズムと疾走感あるフックによって、“オモシロ真面目”なム―ドに纏め上げてしまうところが、サカナクションならではの中毒性を生んでいるのだろうか。無論、オーディエンスは笑顔で快哉を叫んでいたことは言うまでもない。

 本編ラストは、シティポップ/アーバン・フュージョンのテイストを下敷きにした「忘れられないの」。爽快とファンキーが効果的に混ざり合うサウンドを背に受けながら、ステージを所狭しと歌い歩く山口のステップと笑顔が実に微笑ましく、オーディエンスの目を惹いていた。それは、山口が無事にバンドへ帰ってきたこと、そしてサカナクションとして存分に歌い踊り、ギターを掻き鳴らしていること、それらを目の当たりにし、安堵と感激の内なる声を視線に注いでいるかのようでもあった。

 アンコールは「夜の踊り子」、デビュー曲の「三日月サンセット」、「シャンディガフ」の3曲。「踊り足りないんじゃないの?」という山口のフリからの「夜の踊り子」では、ミュージック・ヴィデオと同様に“踊り子”もステージに登場。ミュージック・ヴィデオでは富士山をバックに撮影しているが、三角に模られたセットを活かして、直線で富士山をイメージさせていた。

 実は、序盤から脳裡の一部にあったのは、この三角形に模られたセット。(どの楽曲の時かは失念したけれど)背後のスクリーンとともに三角形の中に目を映し出す演出(プロビデンスの目を想起させる、フリーメイソンのシンボルのような意匠)が視覚的に強く印象に残った。「夜の踊り子」の際は三角形の二辺を使って富士山に見立てたけれど、このトライアングルのセットは、さまざまな色彩や演出で変化しながらも、バランスよくステージの骨格となっていたと思う。三角形は三位一体の象徴とされるが、メンバーそれぞれの想いが交差したこのステージにおいて、過去・現在・未来という三点を、栄光と挫折、復活と再会、ニュー・サカナクションとしての希望と位置付けた意匠のような気がしてならなかった。

 復活一発目ということに、やはり思うところがあったのだろう。アンコール2曲目には「デビュー曲をやります」と告げて「三日月サンセット」へ。サカナクションの原点、スタートともいえる楽曲を、復活ステージの初日に演奏するというのも、この日ならではの演出だ。

 穏やかな鍵盤からの「ビールを飲んでみようかな」で始まり、薄っすらビートルズ「イエスタディ」も脳裏を過ぎる「シャンディガフ」がラスト・ナンバー。ホッとするような温もりを湛えたリラクシンなサウンドと、しみじみと語るような朴訥な歌声が広がるこの楽曲は、実際にエンドロールが映し出されていたが、映画のラストシーン~エンドロールへと繋がるようなムードにも。まずは、初日を終えて、演者も観客もささやかな乾杯を。そんな想いも馳せたようなエンディングとなった。

 幕張メッセ2デイズを終えた後、ツアーは5月より福岡、仙台、札幌、大阪、名古屋、広島を経て、7月に追加公演の横浜・ぴあアリーナMM2デイズで幕。全国各地でニュー・サカナクションを提示していく。山口が「(ニュー・サカナクションといっても)何が変わったのか分からないかもしれないが、〈変わらないけど、変わっていく〉」と押し出した言葉に、サカナクションとしての精神は、連綿と続いていくんだという強い意志を感じた。

 初のサカナクションのライヴを観賞したが、大勢の熱心なファンとは異なり、これまでのバンドとしての経緯に触れずに来たゆえ、感涙することはなくとも(メンバーの男性陣は山口の言葉や顔を見て泣く場面もあったが)、純粋にライヴとしてストーリーとエンターテインメントの両輪が噛み合った好ステージという印象を持った。新たな旅立ちとなる復帰ツアーに際し、敢えてライヴ・ベスト、サカナクション・ベストといえる楽曲構成で臨んだのは、先に述べた〈変わらないけど、変わっていく〉を体現したものだったのかもしれない。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Ame(B)
02 陽炎
03 アイデンティティ
04 ルーキー
05 Aoi
06 プラトー
07 ユリイカ
08 流線
09 ナイロンの糸
10 ネプトゥーヌス
11 さよならはエモーション
12 ホーリーダンス
13 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Remix)
14 ネイティブダンサー(Remix)
15 ミュージック
16 ショック!
17 モス
18 新宝島
19 忘れられないの
《ENCORE》
20 夜の踊り子
21 三日月サンセット
22 シャンディガフ

<MEMBERS>
サカナクション are:
山口一郎(vo,g)
岩寺基晴(g)
草刈愛美(b)
岡崎英美(key)
江島啓一(ds)


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